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マサヒロの日常  作者: 姶良裕香
7/14

大勝負

俺は今人生の賭けに挑もうとしている。対面するおっちゃんはニヒルな笑みに鼻で笑い、胸の前で両腕を組む。その腕はポパイのようにパンパンに膨らんでいた。


やるんか兄ちゃん


低く野太い声は突出した喉仏を震わせ傲慢なる唇を広げる。おっちゃんの目は本気だ。


ああ やる 俺はやるよ


静けさの中、おっちゃんに紙の束を渡し呼吸を整える。それを見ていた人達は一人また一人と数秒足らずで囲むように集まってきた。


兄ちゃん がんばれ


負けるな 兄ちゃん


悪者なんかやっつけちゃえ


一世一代の大勝負。その戦いみたさに誰かれ構わず叫びだす。


悪者?ヒーロー?。そんなもの俺にはわからない。誰が悪者で誰がヒーローかなんて。人によっては俺が悪者でおっちゃんがヒーローだと言うかもしれないし逆かもしれない。それに善悪決めつけるのは俺じゃない。俺は俺のために戦う。ただそれだけだ。


いざ 勝負


おっちゃんは、ああと野太い声を発し目を瞑る。微動だにしないその姿はいつになく大きく見える。周りにいるギャラリーはいけーそこだーと割れんばかりの歓声を上げた。


右か、、左か、、それとも真ん中?


不安がる心に闇に負けそうになる。


大丈夫 勝負とはこういうことだ


ゆっくりと瞳を閉じ見開く。目の前に見える一本の光。それを見失わないように見定める。これが最後の命になるかもしれない。これが最後の俺になるかもしれない。決して間違ってはいけない。決して傲ってはならない。俺は俺で俺なのだから。誰でもない俺なのだから。俺は右の取っ手を掴み回す。


シュパッ


軽快な音が鳴りカラカラと乾いた玉の音が耳に届く。汗が水しぶきのように上がった。ほんの一秒、ほんの数秒。時が止まるように景色は真っ白になる。


終わった。俺の人生は、、、今終わった


放たれた俺の右手は無情にも何も得ることができなかった。そう、掴むはずだった俺の希望、俺の人生はたった今終わりを告げた。


兄ちゃん いい勝負だったぜ。これは俺からの餞別だ。


目を瞑っていたおっちゃんはいつの間にか俺の前に立ち、空虚になる俺の両手を掴み握らせてきた。


2袋のティッシュペーパー


フフフ ありがとうな おっちゃん


俺は満足している。今だかつてこれほどの勝負をしたことがあったのだろうか。俺は自分に問いたださせる。俺はダメだったのかと。


天の空を眺める俺の目は涙で溢れそうだった。


いい勝負だったぞ


また見せてくれよ お前の勇姿を


待ってるぞ 負けんな


ギャラリーはこんな俺にも声をかけてくれる。惨めなほど惨敗した俺を。


ありがとう。。。


俺の口はそう呟いた。


人はこんなにも応援してくれる生き物だったのか。普段応援されることのない俺が今まで何もしてこなかった俺が人からこんな仕打ちを受けれるなんて。


俺は自然と笑みを浮かべた。


おっちゃん またくる そして必ずおっちゃんを倒す。


俺はそう言い残し胸を張って家路に向かう。涙なんて拭かない。おっちゃんはああと鼻で笑い腕を組んだ。


俺の町内会催し福引き大会はティッシュペーパー2袋で幕を閉じる。


カランカランカラン 二等 箱根温泉の旅 おめでとうございまーす


遠くから儚くも天の宴が鳴り響いた。



要するに暇なのである。


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