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マサヒロの日常  作者: 姶良裕香
10/14

プロ

ホラ吹きと呼ばれた狼少年は、嘘を大真面目に拡散し続けた結果、真実を語っても信じてもらえなかった。


大ホラ吹きと呼ばれた青年マルコポロは幻かのような現象を前に真実を確かめる間もなく多くの人に語ってしまった。そのために信じてもらえなかった。


新大陸発見と称賛された商人コロンブスは意図せずに新大陸を発見してしまった。人身売買のためだとは言わずに。


そう、彼らが言うように真実は虚像の中に隠れた遇産物なんだ。まさにこのS字スナップフックのように。


飾られるように陳列されたスナップフックは日曜大工に欠かせない工事系アイテムがそろうプロショップ、オリバーにあった。


その日なんとなく遠回りをして帰りたい気分だった俺はトコトコと歩いて帰ることにした。いつもならほんの10分ほどバスに揺られてればいいだけの距離を久しぶりに歩く。


こんなところあったんだ


身長分の高さからみる風景はバスからとは違い俺を誘惑するには十分。そのおかげで見落としていた発見がいくつもあった。


プロショップ、オリバー。


道すがら半分閉められたシャッターに営業中と紙が貼られている。店内は人も少なく職人風な人がちらほら。


俺は怖いもの見たさに足を踏み入れた。


まず出くわしたのは立て看板に段ボールが貼られた傘ありマスのお知らせ。その横には風呂敷のような布にくるまれたわけのわからないお座敷セット。全く使いどころがわからない品物が所狭しと置かれている。


フフン。そういうことか。ここはプロ御用達のプロのみ入れるプロの舘。その道のプロにしかわからない道具が揃う。俺みたいな素人はお呼びじゃないってことか。


わかった。わかったぜオリバー。その挑戦受けてやる。


業に入れば従うだけだ。目には目を歯には歯をとハンムラビの法廷に立つような意思で俺はプロとなる。


そう意気込む俺の前にS字スナップフックが現れた。一見なんの変哲もないスナップフックだったが、一つ一つ手に取ると全てが違う。腰に引っ掻けるタイプ。鞄に引っ掻けるタイプ。またはキーチェーンのように掛け下げるタイプ。まるでショーパブで踊る嬢の指名看板のように一つ一つ飾られている。


きっとプロらはこういう気持ちで対話してきたのだろう。この一つ一つ、いや一人一人の光輝く個性を、一人一人の隠された密なる部分を、その瞳でその心で彼女らを見つめてきたのだろう。そうなんだろ?プロよ


俺は手にスナップフックを添え目を瞑った。


今までの俺だったら無理だったろうな。無理にわかった振りをするだろうな。この形ってあれだろって幼稚すぎるほどの言葉で袖にするだろうな。笑ってしまう。でもな、それも今までの話だ。今の俺は紛れもないプロなのだから。


俺は目を見開きスナップフックを見つめる。


この手に取る滑らかな肌触り、微笑むような優しい光沢。そしてこのクビレのようなスタイリッシュな曲線。まさに女だ。まさに女帝そのものだ。それすなわちエロスそのもの。


曲がるエロス。繋がるエロス。ぶら下がるエロス。


迷彩柄に染まるエロスはサバ女の姿。黄白色に染まるエロスはビーチサイドに佇む魅惑のビキニ。露見するそれらの金具の窪みはまさにSMの如く。2人ならべばユリが咲く。


もはやスナップフックは女帝の遊び。


もう俺は離れることはできないかもしれない。このプロと呼ばれる世界から。


このエロスのフックに掛けられた情熱はプロたる造形の産物なのだろう。


俺は二人の嬢を持ち帰る。


俺のアナザースカイ。それはオリバー。


エロスは偶然による真実だー。



要するに暇なのである。



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