番外編『日常のひとこま』※夢オチ
本日10/24。
コミカライズ19話がピッコマ様にて先行配信!
他のサイト様では、更新はおやすみのはずです(すでに18話まで更新されているため)。
ナルが記憶を取り戻したのは、学園の裏にいるときだった。
(私は……シルヴェナド家の令嬢、よね。あれ? んん?)
ナルの周囲には、自分をヨイショする取り巻き令嬢が三人。
目の前には、地面に倒れ込み顔を伏せている『ヒロイン』がいる。
「なんてやつなの。殿下に手を出すなんて」
取り巻き令嬢の一人が言う。
聞き覚えのある声に振り返ると、メルルだった。
「最低だわ! 殿下は奥様の婚約者なのにぃ」
ファーミアが続く。
(いやもう、奥様って呼ばれてるんだけど)
さらに。
「奥様の婚約者に手を出したかはともかく、婚約者のいる男性と親しくし、皆の前で身を寄せ合うなどの行為は倫理的に問題があります。あなたの立場的に断れないのだとしても、今のような関係になるまでに身を引くことはできたでしょう。よって『自分にはどうにもできない』という先程のあなたの言い分は通りません」
(カシアが的確!)
取り巻き令嬢三人は、カシアたちだった。
ナルは思考をフル回転させる。
ここは別の世界――悪役令嬢がザマァされる世界。
しかしどうやら、メインキャラは知り合いの姿を呈しているらしい。
(なんでこんなことになってるのかは追々考えるとして、このままじゃまずいわよね)
ヒロインである目の前の人物を虐め倒せば、ナルには破滅が待っているのだから。
ナルはカシアたちを制し、倒れ込んでいるヒロインの側へしゃがむ。
「ごめんなさい。あなたを恨んでいるわけではないの。殿下を愛しているのなら、私は身を引くわ」
元々強引に決められた婚約だ。
父が娘を王妃にしたくて動き回っていたが、父は悪事にも手を染めている。勿論シルヴェナド家とは比べものにならないほど小物だが、これ以上権力を持たせるのも危ういだろう。
ナルのほうから実家を離れ、一人で暮らしていくのがいい。
今強制的に演じさせられている悪役令嬢は、王子を愛するあまりヒロインを虐めたようだが、ナルは別に王子を愛していないし。
そっとヒロインの背中に手を添える。
「だから、本当のことを話して。危害を加えたりしない。まぁ、今更って感じだけど。……でもね、もう私の気持ちは殿下にないの」
「本当に……?」
ヒロインが口をひらく。
やはりというべきか、聞き覚えのある声だ。
顔をあげたヒロインは絶対的な美貌を歪ませながら、ナルの腕にすがりつく。
「殿下から距離を取らなかったのは、ナルに近づきたかったから。私が好きなのは、殿下ではなくナルなんだよ」
「何やってるんですか師匠」
思わず本音が零れた。
予想外の人選だ。
年齢的にも同級生枠だと無理があるが、年齢不詳の美貌は変わらず絶好調に輝いている。
「っていうか師匠がヒロイン枠なの!?」
せめて女性の配役にしてほしい。
***
ハッと我に返った。
どうやらうたた寝をしていたらしい。
長い夢を見ていたような感覚だ。
白髪の交ざり始めた髪を後ろで結び、ベッドで眠っている我が子たちを眺める。
七人いた。
どう見ても、何度数えても、七人だ。
全員がすやすやと眠っている。
そこに、帰宅したばかりのフェイロンがやってきた。
真っ直ぐナルのもとへきて、優しく、しかし強く抱きしめる。
「ただいま、ナル」
「おかえりなさい。あの、この子たちって」
「ああ、さすが私とナルの子だ。今日も可愛いな」
「子だくさん過ぎない!? っていうか女同士なんじゃないの!?」
もはや訳がわからない。
というか元婚約者の王子はどうなったのか。
思考を巡らせて、少しずつ思い出す。
どうやらナルはヒロイン(師匠)と駆け落ちしたようだ。
その後、師匠は持ち前の才能で事業を成功させ、ナルの実家を取り込み、爵位も手に入れた。
……ということらしい。
フェイロンが、抱きしめる腕に力を込めた。
「すまない、ナル」
「どうしたんですか?」
「私が男なら、こんな苦労はかけなかった」
「いや男ですよね。子どもたちもいますし」
「もし来世があれば、私は男として生まれてこよう」
ひょいと抱き上げられて、夫婦のベッドに降ろされる。
覆い被さってきたフェイロンの笑みが優しく、そして色っぽい。
夫婦なのだから、このまま肌を合わせてもおかしくはない。
しかし、何かが違うような気がした。
だがその違和感も、フェイロンの甘い笑みの前に溶けていく。
妻として、もっと頑張らなきゃという意気込みすら湧いてくる。
ナルは思いきって、彼のズボンに手を掛けた。
積極的になったほうが喜んでくれるだろうと思ったのだ。
そうしてズボンの下から現れたのは、女性にはないはずのアレ。
「って、やっぱり男じゃないですか!」
◆
自分の声でナルは目が覚めた。
辺りを見回す。
風花国の邸宅だ。
書類確認の途中で疲れてきて、仮眠しようと横になったのだった。
「……変な夢、見た……部分的にしか覚えてないけど」
かなり支離滅裂だった気がする。
(まぁ、所詮夢だし。そんなものよね)
ベッドから降りようとして、手が本に触れる。
仮眠の前に、あと少しだからとラストまで読み切った本――天馬が書いたラノベ第四弾だ。
タイトルは、『異世界転生した先は悪役令嬢系の乙女ゲームだったが実は百合ものだった』。
感想を求められているのだが、元ネタを知らないナルとしてはストーリーそのものがよくわからない。
(悪役令嬢って何かしら。乙女ゲームっていうのは聞いたことがあるけど。百合? っていうのは、どういう意味なんだろ)
感想は「読んだけど、よくわからなかった」にしよう。
正直が一番だ。
ナルは大きく伸びをして、ベッドから降りた。
閲覧ありがとうございます。
最近、暗めの話ばかりだったので「天馬は自作のラノベをナルに読んでもらって、感想を貰ってる」という日常の場面をば。




