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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

僕は天使に嘘はつかない βその1

 夜の街を当てもなく走るようになって、どれぐらいの歳月がたっただろうか。


 その答えは運転免許証を見ればわかる。


 免許を受け取ったその夜から私は走り出した。

 最初は車で、やがて小回りが利く、そして高速道路にも乗り入れることができるという理由で、中型免許を取得し、バイクで街を彷徨うようになった。

 充てなど無い。

 ただ、今となっては懐かしい機械式の黒電話が着信の一瞬前に一度だけ微かにチンとベルを鳴らすように、ふいに訪れるのだ、何かが分岐する予感が。その感覚に沿わせるように、アクセルを介して速度を合わせ、ハンドルを傾ければ、あるはずの無い交差点、曲がり角を潜って時の道の分岐が現れる。


 私は見たいのだ。

 私は知りたいのだ。

 私は安堵したいのだ。

 私ではなく、私ではなく、私ではなく私ではない。彼女のあるいは彼が。。。。。


 雨が降っていた。


 何時の間にか、車は路肩に駐められてハザードランプが夜の闇をちかちかとその存在を告げていた。


 雨が降っていた。


 いつもとは大違いだ。

 うん、そうだね。これが正しい現代社会の法治国家での駐車の姿だ。だって、何時もだったら車を駐めて誰何を問われれば良いほうだ。人の気配があるのなら問答無用にアクセルを開け、安心できるような場所まで走り続ける。


 先ほどから眺めているほんの先にあるものがどうやら駐停車禁止の標識であることを無視して、左のドライバーズ・シートに身を向けた。


「何か飲み物でもいる」

「。。。いらない。私どれぐらいこうしていた」

「2、3分かな」


 いつもこうだ。自分で運転してい居る時はどれほど探しても、ハズレしか引かないのに、他人の車に乗るときに決まってその気配は現れる。無理を言って、叫んで、車を停めてもらっても、からかうようにそれはするりとその存在を消してしまう。

 そこにあったはずの交差点、脇道は無い。

 いや、もともとそこには無いのだ。

 私たちのような人間のみが感じることができ、見つけ出し、通り抜けることができる。そんな交差点、曲道、脇道など。


 心配そうな表情で、でも、何も聞かない。

 うん。

『Gentleman』だねえ。

 今日自宅まで私を迎えに来た彼に、あの母がにっこり笑い、その後ろで三人の妹たちがハイ・ホー Heigh-Hoと腕を組んで踊りだしたのは、的外れでは無いということだ。

 ならば、私も『Lady』となろう。

 礼には礼を持って答えよう。

 ただし、彼が、「私たちのような人間でない」彼が、必要以上に傷つかないように、巻き込まれない様に。


「知りたい、私がなにを探しているか」

「うん」

「たぶん、後悔すると思う」

「しない。好きになった女性の秘密を知りたいのは、男の性だよ」

「馬鹿だねぇ、村井君は。こんな面倒な女にかかわって」

「情の深い女の子は好きだ」


 ああ。この言葉を15の春の私が聞いたなら。もしかしたら、街を彷徨う馬鹿な20歳の私はいなかったかもしれない。

 いや。

 時は戻らない。

 時は変わらない。

 この5年間、思い知らされ続けた。


「そう。では、出かけましょう。見ることができるだけで、決して変えることの出来ない『時の行き止まり』への小旅行へ」

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