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女魔王、いよいよ婚活の戦場に出る!

 タイラさん渾身のプロフィールを読んでわたしは思った。


 ……。

 ……。

 …………………………………………………………。


 誰だ!

 マジで誰だ、お前は!

 こんなミヒリアさん、わたし知らないぞッ!?


 タイラさんすごいなー、頑張って書いてくれている。わたしに三〇分くらいインタビューしただけでさらさら~っとこんなね。ぽろっとついつい言っちゃった! ノリで気前よく言っちゃったけど別にいいよね! みたいなのをよくもまー、こう拾うもんだ。


 仕事の話もね、こんなキリッとした感じで話していない。

 経営者(本当は魔王だけど)に就任した直後はみんなまとまりが悪くて大変だったけど、なんだかんだで組織が固まっていって。いや~あのときは嬉しかったですね~とかぽろっと話したらですね、この書きっぷりですよ。


 おまけに『仕事に対して強い想いのある方です』って!


 仕事とかぶっちゃけダルいとしか思わない。魔王もやれと言われたらやっている。そもそも強い想いがあったら婚活のために仮病で休んだりしていない。


 五〇〇%くらい美化してるなー、これ。

 ま、いいや。嘘は書いていないからね……。


 さらにページを下へとスクロールしていく。

 そこには自己申告欄があった。


『趣味/音楽鑑賞、観劇、ボードゲーム、読書』

『好きなこと/おいしい料理を食べる、寝る、静かな場所』

『嫌いなこと/争い』

『理想の家庭/仲よく楽しい』


 この辺はわたし自身で書いたものである。制限文字数の通り書いてタイラさんにメールしたのだ。


 趣味は悩んだなー……。

 わたしは重度のインドア派である。休みの日とかは用がなければ部屋から一歩も出ない。

 でも全力でそのままを書くと男性もどん引きするだけだろうと思い、当たり障りのない範囲で単語を選びつつ、詐欺にならないようインドア派の香りも漂わせてみた。


 趣味のボードゲームにわたしの苦心が現れている。


 実際にボードゲームは趣味なのだが、がっつりやっているのはテレビゲームである。昔からやっているネトゲとか四桁プレイ時間いってたりする。さすがにゲーム廃人でーす♪ とか書けないので、ゲームに造詣はあるんですよ? というニュアンスを込めてチョイスされたのがボードゲームなのだ。


 うむうむ。

 すばらしいバランス。これぞ黄金比(適当)。


 他の欄はあんまり悩まずに書いたかな。

 嫌いなことが『争い』なのは本当だ。

 え? 人類と絶賛戦争中の魔族の王が?

 そう思われても仕方ないよね……。


 最初に言っておきたいのだが、この戦争は別にわたしが始めたわけではない。わたしの前――先代どころかもうずっと前の魔王から続いている戦争なのだ。

 だからってわたしに責任ないもんねー! と言うつもりはないが。

 わたしとしては不毛だからいい加減やめようよと思って魔族側の動きを止めたときもある。

 だけど人間側が止まらない。がんがん攻めてくる。

 これでもかと攻めてくる。

 そうなると血の気の多い魔族たちである。わたしのへっぴり腰を責め始めた。やっぱり女はダメだ。荒事に向いていない! みたいな。

 性別は関係ないだろー。そういう批判はやめよーよー(涙目)。

 あのときは人間からも魔族からも理解が得られなくてわりと鬱気味な日々だった。むっちゃネトゲのプレイ時間が増えた期間である。

 そんな感じで結局はわたしの就任前と変わらず今もがちがちの戦争状態である。

 わたしは権力を持つ魔王とはいえ――終わることがないこの状況に組み込まれた歯車のひとつでしかない。いかにわたしが望んでも祈っても願っても世界のありようは一朝一夕では変わらないのだ。


 閑話休題。


 いかんいかん。話が壮大になりすぎた。

 意識を婚活に戻そう。そもそもわたしが世界の平和を考えるのは順番がおかしい。まずはわたし自身を幸せにしないと!


 わたしはプロフィール欄をじっと見た。なかなか自分のプロフィールというのは新鮮だ。こうやって自分にまつわる情報がリスト化されているのは面白い。

 いつまでも眺めていたいが――

 本日のメインイベントはこれではない。


 メインは『紹介』だ。

 ざっくり週に一度のペースでタイラさんが「この人は!」と選んだ二~四人程度の異性が紹介されるのだ。


 初回は――四人。

 お。意外と多いじゃん?


 まー、最初だしね。そりゃ最初だからばばばーんと気前よく並べてくるよね。

 ……てことは活動期間が長くなると紹介数が減っていくのか……。うう、それは辛いなあ……。

 とりあえず、気を取り直して男性をチェックする。


 バルドゥスさん、兵士、三四歳。

 グレファンさん、経営者、三三歳。

 ラガルドさん、会社員、二九歳。

 グービルバルフィスさん、会社員、三一歳。


 ほおほお。この人たちがわたしの提示した条件を満たし、タイラさんがおすすめと判断した四人か……。

 わたしはマウスカーソルを動かして四人のプロフィールを眺める。

 ふむふむ、ほー。そうなのか。それぞれプロフィールの中身がけっこう違う。ただの文字情報だけど丁寧に読めばその人の性格が浮き上がってくる。

 わたしのプロフィールと同じく盛りまくりなんだろうけどね!

 一通り見た後、わたしは決断に迫られた。

 お見合いを『申し込み』するか『お断り』するか。

 画面にはそれぞれに二つのボタンが表示されている。お互いに申し込めばお見合い成立となり、どちらかがお断りすればそれまで。書類落ちというやつだ。

 返事には二週間の猶予がある。

 二週間以内に返事をしなければ自動的に『お断り』となる。


 ――会ってみないとわかりませんから、なるべく申し込んでいただいたほうがいいですよ。


 タイラさんはそう言っていた。

 それは同意である。

 最初の四人――選ばれた四人。これもまた縁だろうね。

 わたしはぽちぽちぽちぽちと全員に『申し込み』する。

 画面には四つの『お相手の返答待ちです』が並んでいた。もしも相手も『申し込み』してくればお見合い成立となる。

 わたしは謎の疲労感を覚えてイスに背中を預けた。

 大きく息を吐く。


 ……あー……心臓がばくばくして仕方ないんですけど!?


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 三ヶ月後。

 執務机に突っ伏しているわたしの姿がそこにあった。



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