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婚活における年齢と年収事情!

「ミヒリアさん」


 少し居住まいを正してタイラさんが言う。


「は、はい」


 う……気圧されている。魔王のこのわたしが……! これが婚活というフィールド!?


「まず自分の年収以上という条件――こだわる女性は多いですが、それには充分なご検討をお願いいたします」

「……そうなんですか?」

「はい。特にミヒリアさんのように年収のいい女性だとそのせいで出会いの数が激減してしまいます。年収は少し低くてもいい男性はいる――そうですよね?」

「そうですね」

「その方々を年収というフィルタで除外してしまうのはあまりにももったいない――そうですよね?」

「そうですね」

「年収という一点だけではなく幅広い観点からお相手を選ぶ。そのほうが結果としていい出会いになる――そうですよね?」

「そうですね」

「それにですね、ミヒリアさん、いいですか。ミヒリアさんは会社経営者でご年収も高い。正直なところ、これ以上に稼げる男性はおりません」

「え」


 五〇〇〇万ゴールドはやりすぎたか!

 人間の貨幣基準がよくわからない……。


「弊社の男性会員も普通の方がほとんどなので……そうですね、三〇中盤までの男性に求めるのなら年収は五〇〇万ゴールドくらいです」

「五〇〇万」

「もう少しご説明すると三〇前後で五〇〇万はいいほうの金額です。つまり紹介人数が減ります。三〇前後からの男性を希望される女性には今後の昇給も加味した上で四〇〇万をおすすめしております」

「四〇〇万」


 なるほど……。どうやらわたしの書いた年収はむちゃくちゃ的はずれだったらしい。

 いかんな……。

 というわけで。


「あ、ああ、あー! ああああああ!」

「? どうしました、ミヒリアさん?」

「年収、書き間違えちゃったなー。五〇〇〇万でした? ゼロがひとつ多かった! 会社経営もなかなか大変で年収としては五〇〇万なんですよ、あは、あはははは!」

「そう、ですか」


 いぶかしげな目でタイラさんがわたしをじーっと見る。

 う!

 が、すぐにタイラさんはにっこりとほほ笑む。


「それでは五〇〇万で。もし他に思い出したことがありましたらお申しつけください」

「は、はい……」

「では、男性の希望年収としてはいくらをご希望されますか?」

「四〇〇万でお願いします」


 ……別にそこにはあんまり興味がないので……。

 なんならわたしが食わせてやるわい! というくらいである。魔王城に住んでもらうことになるけど……。


「三四歳までの男性で年収四〇〇万から、ですね」


 うんうんとタイラさんは満足げにうなずく。

 そしてデスクの端に置いていたノート型パソコンをひと撫でした。


「その条件でございましたら、たくさんの男性をご紹介できます」


 タイラさんはノート型パソコンを開くとかたかたと何かを入力した。そして、お互いに見える位置にパソコンを置く。

 そこにはずらーっと男性会員の一覧が表示されていた。


「ほー」


 表示されているプロフィールはなかなか細かい。年齢、身長、職業のような基本から趣味や好きなこと嫌いなこと、理想の夫婦像などの主観情報まで網羅されている。

 なかなかすごいんじゃない?


「いろいろ書いてあって面白いですね」


 わたしの言葉にタイラさんがうなずいた。


「そうですよね、この好きなこと嫌いなこと、理想の夫婦像などは会員さまに書いてもらっています」

「へえ、そうなんですね」

「意外とここに人間性が出てくるんですよね。じっくり読むと面白いですよ?」

「ああー……確かに」


 嫌いなことを書いている人の欄を見ると、嫌いなことをずらずら書いているとネガティブなのかなーと思ってしまう。逆に「これこれは嫌いだけど、こういう感じで対処している」とか書かれると印象がよくなる。

 ふむふむ……ものの言い方って大事だねー。

 そうやって眺めていると、わたしはあることに気がついた。


「あれ……? 年収の表示がないですね?」

「はい。ですがもちろん、ここに表示されている会員さまは四〇〇万以上の方々です。やはり年収という情報は強すぎるのですね……たとえば『すごく好きな人』と『まあまあ好きな人』がいればどちらを選びますか?」

「それは『すごく好きな人』でしょう?」

「はい、そうですね。ですが、年収五〇〇万のすごく好きな人と年収八〇〇万のまあまあ好きな人が現れたらどうなりますか?」

「……ああ、そういうことですか……」

「はい。弊社としましては指定されたラインの保証はいたしますが、それ以上についてはフラットに判断して欲しいと考えております」

「……なるほど……」


 年収よりは気が合う人かどうかで選ぶべきだとわたしも思うよ!

 だけど、目に見える情報としてあると迷っちゃうのもわかるね。

 それからしばらくわたしは画面を眺めた。

 いろいろな男性がいる。

 農家、鍛冶屋、王城勤務、傭兵――

 ふーん……世の中にはこんなに結婚を望む男がいるんだねえ……。

 そんなわたしにタイラさんが声を掛けた。


「どうでしょうか、ミヒリアさん? 興味のある男性はいらっしゃいましたか?」

「……いやー……どうなんでしょうねえ……」


 わたしは苦笑いを浮かべた。

 残念ながら入会前だと詳細な個人情報となる写真は確認できないらしい。となると現実味に欠けるのは事実。ここに並んでいるのはただの情報の羅列でしかない。

 タイラさんはうなずいた。


「遠慮されなくても大丈夫ですよ。この時点でノリノリの人は少ないですからね」

「え、やっぱりそうなんですか?」

「はい。ここでノリノリの人はもう入会を決めてきている人ですね。わたしとしては接客が楽なのでありがたいお客さまなのですけど」


 タイラさんはにっこりと笑った。

 ノートパソコンを閉じてこう続ける。


「これはこういう会員さまがいるんですよ、という話だけです」


 そして、タイラさんは次の話題に移った。


「それでは弊社の紹介システムについてご説明しますね?」



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