婚活サービスについて調べよう!
わたしは部屋に戻るとノート型パソコンを立ち上げた。
このノート型パソコンというものは魔力を原動力とした機械である。インターネットという魔法的な情報網に接続していろいろなことを調べることができる。
わたしはブラウザを立ち上げると、そこに『婚活』と打ち込んだ。
「頼むよー! ギュルギュル神~!」
言いながら、ぺしっとキーボードのキーを叩く。
ギュルギュルというのは情報を調べる検索サービスである。素晴らしい検索精度で何でも教えてくれるのでみんな敬意を持って『ギュルギュル神』と呼んでいる。
……魔王のわたしが神頼みでいいのかという気もするが。
そういうネットスラングなんだから仕方ないの!
ちなみに、魔王軍と人類軍は絶賛戦争中。ネットによる通信もお互いに不通であるが、それは表の話。何事にも裏があり、相手のネットワークに入り込む手口はいくらでもある。わたしはそういうのに詳しくないけれど配下の手下が設定してくれている。便利だね。
小一時間ほど検索して婚活の情報を集めた。
わかったことは――
・婚活とはメフィストが言ったとおりのサービスである。
・仲人という人物が男女の紹介を取り持つ。
・人間たちのサービスである。
・魔族には同種のサービスがない。
ということである。
わたしとしては最後が厳しい。だってわたし魔族だからね。魔族も魔族、魔族の王さまだからね。
魔界には婚活サービスないかあ……。
むっちゃ検索しまくって本当にないのか調べまくったけど見つけられなかった。
ギュルギュル神がそう言うのだから正しいだろう。
うーん、どうしよう。
と思ったわけだけど。
そこでわたしはぴかーんと閃いた。
別に相手が人間でもいいんじゃね?
というのも常々魔族って結婚相手としてどうだろうなーと思っていたりする。強さこそ正義みたいなところがあるので基本的に我が強く血の気も多すぎる。
思うのだ。
夫婦ってのはもっと譲り合い支え合うものではないかと。
それにだ……。
生まれ出でて三〇〇〇年。浮いた話がひとつもないと思うこともある。なんか産まれてきた種族間違えたかなーって。
ひょっとすると人間とかのほうがモテるんじゃね? みたいな。
「い、いや~……でもやっぱないかなー……」
わたしは首をひねった。
だって魔族の王だもんなー。魔族の王が人間とお見合いってなー。ないよなー。
でもなー、婚活やってみてーなー……。
このままだと彼氏いない歴四〇〇〇年とかになっちゃいそう。
そんなことをうだうだと考えていると。
脇に置いていたスマホがいきなり鳴り出したのだ。
スマホ――スマートフォン。ちなみにこれも魔力で動く小型機械である。パソコンと遜色ない性能を誇るが、主な用途は遠距離の相手と会話することだ。
「え、誰?」
スマホを見ると、知らない電話番号だった。
あんまり知らない番号には出たくないのだが、魔王という要職なので仕方なく対応するようにしている。
わたしは恐る恐る電話に出てみた。
「……はい……どちらさまで……?」
受話器から聞こえてきたのは落ち着いた女の声だった。
『わたくし、デスティニーデリバリーのタイラと申します。ミヒリアさまのお電話でしょうか?』
デスティニーデリバリー!
人間界で有名な婚活の会社である。ネットではステバリと呼ばれている。変なとこで略すから最初わかんなかったよ。
「そうですけど――デスティニーデリバリー? どうしてわたしの電話番号を知ってるんですか?」
『お客さまが登録されましたので……』
あー。登録したわー。
デスティニーデリバリーのホームページはなかなかに巧妙な造りでコアな情報を見たい場合はユーザー登録しろと誘導してくるのだ。
普通はそんなの、へーん! って感じでブラバしちゃうわたしだが、婚活の魔力には逆らえなかった。デスティニーデリバリー社がちゃんとした企業かをむっちゃ調べた後、自分自身にここは大丈夫と一〇回くらい言い聞かせてから登録したのだ。
その登録した情報に電話番号があった。
『それでミヒリアさま。婚活に興味がおありなのでしょうか?』
「ええ? ま、まー……そうですねー……」
『今すぐのご結婚を検討されていますか?』
「今すぐですか? うーん……いいお相手がいればですかね……」
『いいお相手がいれば、ですね。大丈夫。弊社にはたくさんの男性が登録されております! きっとミヒリアさまのご希望にそうお相手が見つかりますよ!』
「へー、そうなんですね」
『どういう人がいるかご興味ありませんか?』
「え、どういう人が……?」
『はい。個人情報ですからお送りすることができないのですが、支社のほうまで来ていただければどういう男性とマッチングできるかリストをご確認していただけますよ!』
「ほ、ほほー!」
むっちゃ心がぐらっと来た。
『どうでしょうか? 一度ラハルド支社に来ていただくというのは? 対面でお話させていただいたほうがより婚活のシステムをご理解いただけると思うのですが……!』
ラハルドとは王国の主要都市のひとつである。
主要都市のなかでは比較的魔族の領地に近い。
どうしてそんなとこ? と思ったら、確か登録時に『住んでいる地域はどこですか?』で選んだのがラハルドだからだ。魔王城のある地域は選択項目になかった。当たり前だけど。それで適当な王国の大都市を選んだのだ。
「そ、そーですねー……行ってもいい、かな?」
『ありがとうございます!』
それから細かい日程の調整を行い、電話は切れた。
『それでは当日よろしくお願いします!』
タイラさんのそんな元気な挨拶を残して。
うーむ……。
スマホを机に置いて、わたしは腕を組んで考えた。
営業トークにまんまとうまく乗せられてしまった……。
よくできたマニュアルだったなー……こう、結婚に飢えている人の弱みを巧みについてくるというか……。
人間こわ……。
ま、まー……話をきくだけだしね?
話を聞くのは無料だからね?
というわけで、わたしはラハルドのタイラさんに会いにいくことになったのだった。