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執事メフィストとの反省会

 というわけでわたしは話した。


「かくかくしかじかというわけよ」

「なるほど、かくかくしかじかなんですね」


 うんうん、とメフィストがうなずく。


「まず圧倒的に悪いのはグレゴリオさまですね」

「そう! もちろん、そうだよね!」


 万死に値する!

 たぶんあっちもわたしのことがそんなに好きではなくて何かに焦って結婚を申し込んだのだろうが、一応でもそういう相手がいるのに他に女を作るなんて論外である。

 しかも――

 婚約破棄するにあたって仕事が理由だと嘘をついて!


「他の女が好きになったって素直に言いなよ!」

「そこじゃないですね」

「え?」


 どうやらメフィストの見解はわたしと違うようだ。


「目の前の女性に対して真剣でないのはよくないです。たとえ別れる予定であっても、この一瞬この一秒は目の前の女性に捧げるべきなのです」

「おお! いいこと言うじゃない!」

「新しい恋人を同伴していたのは減点です。隠しておけばいいのに」

「なるほど! って、ええ!? 隠すのはOK!? 二股がそもそもダメでしょが!?」

「え? そうですか?」


 そう言ってメフィストがにこにことほほ笑む。


「別に何人とおつきあいしてもいいではありませんか」


 そうだった――こいつはこういうやつなのだ。

 このメフィスト、実はスーパープレイボーイだったりする。いつも複数人の恋人がいるのだ。

 前に「あんた、どんだけの女と同時につきあっているの?」って訊いたら、真顔で考えた後「……さあ? 一〇人以上はいると思いますけど」なんて、しゃーしゃーと答えやがる。

 二股どころか。


 まさに女の敵である。


 敵であるのだが……なぜかむっちゃモテる。その噂は有名なのにモテる。次から次へとメフィストには交際希望相手が現れるのだ。

 まあ……不思議でもなかったりするが。


 メフィストは顔が整っていて柔和な表情をいつも浮かべている。物腰はとても丁寧でいろいろと気もきかせてくれる。頭の回転も速くウィットに富んだ切り返しもうまい。

 さらにさっき本人が言っていたように複数人とつきあっていても『この一瞬この一秒は目の前の女性に捧げ』ているのだ。

 ころっといく女性が多いのだろう。


 わたしはいかないけど。

 絶対にいかないけど!


 わたしは身持ちが堅いからね。こういうふわっと浮ついたやつは絶対に恋愛対象にはならない。なので、メフィストxミヒリアを期待している人。ごめんね。そういう展開にはならないから!


 ちなみに、なぜそんなやつを部下として雇っているのかというと執事として優秀すぎるからである。それに部下のプライベートを評価に持ち込むってのもねー……。

 ……性格さえマトモになってくれればなあ……。


「ミヒリアさまも立ち回りがよくないですね」

「な、なんでわたしが!?」

「これでサヨウナラだったら別にどうでもいいんですけど。グレゴリオさまは同僚で同じ魔王でしょう? これからも顔を合わせるんだから穏便にすませればよかったのに」

「うう……それなあ……」


 魔王会議を思うと頭が痛い……。

 どんな顔で行けばいいんだ……。


「いや、それはそうだけど! ちょっと待ってよ!? わたしが悪いって言うの!? それおかしくない!?」

「だって、ミヒリアさまを見ているとわかりますけど、そんなにグレゴリオさまが好きではなかったのでしょう?」

「ぐ!?」

「おまけに一緒に何度か食事をしていただけでたいして深い仲にもなっていない。実質ミヒリアさまが失ったものなんてゼロですよね? おとなの対応をしても別にいいのでは?」

「むぐ!?」

「悪いというのなら、悪い点もありますよ。好きでもないのにグレゴリオさまにオーケーしちゃって。本気になれないのなら最初から断っておけばいい。違いますか?」

「そ、そりゃそうだけど……同時に一〇人以上の女の子とつきあっているあんたに本気をうんぬん言われたくない……」

「何を言っているんですか、ミヒリアさま?」


 にっこりとほほ笑んでメフィストが続ける。


「私はおつきあいしている女性はすべて本気ですよ?」


 ホンットこいつは面の皮が厚いな……。

 わたしはこめかみをぽりぽりとかいた。


「はいはい。ま、それはそうですね。本気でもないのにオッケーしちゃったわたしも悪いですよね」

「焦りすぎましたね。やっぱり彼氏いない歴三〇〇〇年はおつらいんですか?」


 刺さった。

 なんかわたしの胸に太い何かがぐさっ! って刺さった。


「……そ、そういうのはもう少し……オブラートに包んだほうがいいんじゃないですかね、メフィストさん……?」

「わたしが甘い甘いオブラートに包むのは恋人だけです。あるじにはひたすら直言あるのみ」

「厳しいなー……」


 はあ、とわたしはため息をついた。


「それは、あるかもね……」


 うん。ある――


「ここ一〇〇年ほどさ、夜わけもなく震えることがあるのよ。魔王になれてキャリア的には盤石だけど……。わたしは仕事仕事ばかりで結婚、いや、恋人のひとりとも出会えずに終わっちゃうのかなーって……」

「……さすがに一〇〇年は震えすぎでは?」

「今の話で拾うとこそこじゃないよね!?」

「まずは恋人をお作りになってはいかがですか?」

「あんた簡単に言うねー」


 それが簡単にできれば三〇〇〇年もこじらせていない。


「私が練習台になってもいいですよ?」

「やだよ。わたしはちゃんとわたしだけを見てくれる相手がいいんだ。あんたの一一人目にはなりたくない」

「そうですか」


 にこにこ顔でメフィストが肩をすくめる。


「であれば、婚活なんてどうですか?」

「……こんかつ?」

「結婚活動という意味らしいですが。出会いに恵まれない人間たちの間で流行っているそうですよ。自分の好みを伝えると、その条件にあった相手を紹介してくれるそうです」

「ふーん……」


 わたしは興味なさそうに応えたが――


「あっ! わたし部屋に忘れ物してきた! ちょっと戻るわ!」


 そう言ってばたばたと部屋に戻った。

 もちろん、その婚活とやらを調べるためだ。

 彼氏いない歴三〇〇〇年を終わらせられるなら、何にでもすがってやるわい!



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