かくして役者は出揃った
「リノ、君が神託を受けたのか……?」
「ええ、そうよ。お忘れ? わたしは聖女なのよ?」
あいつが聖女……?
なんだか嘘くさいな。わたしも仕事柄、何人もの聖女と相まみえてきたが、全員が独特の雰囲気を漂わせていた。まるで聖域そのもののような静謐な空気を。
だけど、あいつなー。
俗物のかたまりにしか見えないんだが?
ホントにあいつ聖女なの?
あいつが聖女だとしたら人間どもの聖女も落ちたものだなあ……。
「わたしは確かに聞いたわ。神からの声を。勇者レインとともにいるその地味な女が魔王だってね!」
わたしを指さしておかしそうな口調でリノが言う。
むかむかむかむか!
誰が地味だ、こら!
……確かにわたしは別に外見普通だけど。でもな! それなりに見られるように身だしなみとかはこれでも頑張ってるんだぞ!
「リノ……まさか、君は……」
レインは息を呑み込みながら言った。
「嘘をついていないか……?」
「そんなわけないじゃない? わたしは確かに神の声を聞いたのよ」
「その通りだ、レイン。聖女リノが嘘をつくはずがない」
ガウェインが大剣をかつぎ、ずんずんとレインさんとの間合いを詰めてきた。
「神託とは神の言葉だ。全聖騎士を動かすほどの力を持つ。それゆえに神託について虚言を語れば神への冒涜、等しく死罪。王族も貴族も平民も例外はない。神の使徒たる俺たちは必ず殺す。悔いても殺す。嘘をつくやつなんていないよ」
「え」
……。
あの女、今むっちゃ、え、って言ってたぞ。初めて死罪と知りましたみたい顔してるぞ?
ガウェインがリノを振り返った。
「なあ、嘘なんてついてないよな? 聖女リノ?」
「もももも、もちろんよ! 当たり前じゃない!」
リノが焦りまくった様子で何度もうなずいた。
「ガウェイン、さっさとあの女を――魔王を殺しなさい!」
わたしをぶっ殺せば証拠隠滅とばかりに女が叫ぶ。
ははーん、読めてきたぞ……。
あの女はわたしが気にくわないのだ。なぜか? あの女はレインさんが好きなのだろう。で、仲よくしているわたしに嫉妬し、わたしを潰すためにデタラメを並べたのだ。
……そのデタラメは大正解だったわけだが……。
あの女の嘘を暴ければ形勢は逆転するのだろうけど、今のところ証拠がないな……ううむ……。
「おしゃべりは終わりだ、行くぞ、レイン!」
ガウェインが大剣を構えて一気に間合いを詰める。
振り下ろされた大剣をレインさんは聖剣で受け流した。
「くそ! やるしかないのか!」
ガウェインとレインさんが激しく斬撃を応酬する。あのガウェインとかいう男、なかなかやる! 今まで無双モードだったレインさんと同等の打ち合いをしている。
そのガウェインさんが後ろの部下に叫んだ。
「おい、お前たち! 俺がレインを抑える! あの女はお前たちで叩け!」
ぎゃああああああああ!
静かに観戦してたら一騎打ちに夢中になってくれないかなーと思っていたんだけど……。あのガウェインとかいう男、なかなか冷静だ。
わらわらと後ろの聖騎士たちがわたしに向かってくる!
ややや、やばい!
「くっ、ミヒリアさん!?」
「おっと、いかせないぜ!」
ガウェインの大剣がレインさんを釘付けにする。
「ミヒリアさん、逃げて!」
悲鳴のようなレインさんの声。
に、逃げたいのは山々だけど……。わたしがいるのは大きなバルコニーの奥側。青空にダーイブ! 以外の逃げ道がない! で、今のザコモードでダイブしたら死んじゃう!
むっちゃ殺す気まんまんで振り下ろされる聖騎士の剣。
わたしはよたよたとした足取りでそれをかわす。あああああ! 全力のわたしだったら、こいつら一秒で塵にしてやれるのにいい!
今のへろへろ状態のわたしだと話にもならない。
あっ、と思ったとき、わたしはかかとを床にとられた。かっと小さな音がして、盛大にわたしは尻餅をついた。
「いったー……」
「もらった!」
聖騎士が剣を振り上げる。
あ、死んだ。
そう思ったとき。
「待たれよ!」
そんな声がした。それはとても大きな声で全員が何だ? と一瞬で動きを止めた。
……ん?
なんか聞き覚えある声だな……。
みんなの視線が声のした出入り口に注がれる。
そこには司祭服の若い男が立っていた。黒髪黒目の端正なマスク。きっと女性にモテるタイプなのだろう。
なんか見覚えのある顔だな……。
「無力な女性に剣を振るうのは感心しませんな。もう少し平和的に解決してはいかがですか?」
なんてことを言っている司祭の顔は――
明らかにわたしの執事メフィストのそれだった。
メ、メフィスト……?
なんであんたがここにいるの!?




