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王都に降臨! レベルゼロ魔王ミヒリア!(正体がバレたら死ぬ)

「王都は初めてですか、ミヒリアさん?」

「ええ、はい。……緊張しますね」

「大丈夫、他の都市とそう変わりませんよ。あと自分もいますから。仕事の関係で意外と顔が利くんです」


 そう言ってレインさんが朗らかにほほ笑んだ。

 というわけで、わたしたちは王都にやってきた。ラハルドで合流した後、レインさんの勇者特権で転送門を使わせてもらい、ここまで来た。


 はい。そうでーす。

 結局、交際中止にはできませんでした!


 あのあとメフィストには、


「交際中止にしたわ」


 なんてクールな表情で言ったんですけど!


 できませんでした!


 いやね、ほらね。それなりに会っているわけで、それなりにお互いにいい感じかなーとも思っているわけで。それをボタンぽちってのもちょっと味気ないんじゃないかなと。ここはお会いして話をしたほうがいいんじゃないかと思ったわけです。


 わたしなりの誠意! 誠意なわけ!


 だけど、正直ビビっているのも事実である。

 というのも、今のわたしは脱力の腕輪をつけている。おかげで今のわたしは最下級魔族レベルの力しかない。もしもレインさんが聖剣を引き抜いて襲いかかってきたら、ひとたまりもないだろう。

 ちなみに、やばくなったら腕輪を外すという選択肢はない。そうなると膨張した魔力と結界が衝突して無事ではすまないからだ。


 うう……。

 怖い……。


 今までに感じたことがない不安で胸がいっぱいだ。

 頼むよ……レインさん……最後までエスコートしてね……。

 ていうか、正体がばれないようにしないとね……。


「さあ、行きましょうか、ミヒリアさん」


 そんなわたしの心配事などもちろんレインさんが知るよしもなく彼はすたすたと王都の道を歩いていく。

 さすがは王国の中心部だけある。ラハルドも大きな都市だったが、それ以上に人と物があふれて活気がある。

 わたしは横に並んで尋ねた。


「今日はどこに行くんですか?」

「ああ、あそこですよ」


 ぴっとレインさんが指を差した。

 そこには大きな建物があった。離れたこの位置からでも『で~ん!』という雰囲気が伝わってくるかのような大きな建物である。普通に城くらいはありそうだ。


「王国の城ですか?」

「確かにそれくらい大きいですね。でも、王城はあっちです」


 そう言って別のほうを指さすレインさん。

 確かにそこには『これぞ城!』という感じの建物があった。


「自分たちが目指しているアレはですね、大聖堂です」

「大聖堂?」

「はい。古い時代に建てられたとても大きな教会です。建物そのものが美術品という感じで一日中いても飽きません。なかには美術館まであるんですよ?」

「へー、すごい」


 そんな話をしながら歩いていると、わたしはあることに気づいた。

 真っ白い金属鎧を着込み腰に剣を差した騎士たちがやたらと街をうろうろとしている。それも日常のパトロールという感じではなく緊迫した空気をまとって。

 わたしの視線に気がついたのかレインさんが補足してくれた。


「彼らは聖騎士団ですね。教会付きの騎士たちです」

「なんか物々しい感じですね」

「ああ……そうですね。実は――」


 そこでレインさんが声を落とした。


「今日、魔王が王都に現れる、という神託がくだったらしくて」


 魔王が、王都に?

 ……。

 ……。

 ……。

 ああー、それってわたしですねー(白目)

 むっちゃわたし王都にいますねー(白目)

 って、ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!

 見つかったら、ひょっとして殺されちゃうのか!?

 やべー、やべーよ!


「だ、大丈夫ですか、ミヒリアさん、急に!?」

「あ、へ、え!?」


 いかんいかん! 平常心! 平常心だ、ミヒリア!

 レインさんが頭を下げた。


「驚かせてすいません。魔王が現れるだなんて……」

「え、ええ、まあ……」


 助かった……どうやらレインさんはわたしの動揺を魔王への恐怖と解釈してくれたようだ。

 レインさんが言葉を重ねる。


「心配しないでください。きっと神託が間違っているのですよ。王都は結界で守られている。魔王がくるはずありません」

「そうですよねー……」


 むっちゃいますー、ここにいますー。

 神のやつめぇ……面倒なことを口走りやがって……。

 そのときだった。


「おう、レイン」


 真っ白い金属鎧を着た大柄な男がレインに話しかけてきた。彼の後ろには同じ鎧を着た男女が五人ほどいる。

 ……こいつらは……。

 わたしはそっとレインさんの後ろに隠れて目をそらした。

 レインさんが男に会釈する。


「やあ、ガウェイン。休みの日に大変だね」

「教団の人間に定休日はないさ。神託がくだった以上はな」

「王都に魔王だなんて。誤報じゃないのか?」

「ありえない」


 ガウェインは首を振った。


「神託が外れたことはない。神の言葉は決してたがえない。魔王は必ずここにいる――」


 ガウェインの言葉にわたしの心臓がどきりとする。


「というわけでだ、レイン。手伝ってくれ。依頼は出しただろ?」

「俺は教団の人間でないから定休日がいるのさ。用事があるんで断らせてもらっただろ? もちろん、本当に魔王が現れれば戦うがな」


 そう言って、レインさんは腰に差した聖剣を叩いた。

 今日のレインさんは帯剣しているのだ。なんでだろうと思ったらそういう事情か……。


「用事ね……」


 そのとき、ガウェインの視線がわたしを見た。

 わたしは照れたようなふりをして目をあわせない!

 あああ……胃が! 胃が痛い!


「お前が女連れとは珍しいな。用事ってのはそこの彼女とのデートかね?」

「……まあ、そうだね」

「そうかそうか! お前がな! 貴族の令嬢から逃げまくっていたお前が! なら仕方ないな!」


 がははははと笑いながらガウェインがレインさんの肩を叩いた。


「じゃあな。あんまり邪魔をするのもよくない」


 そして、わたしに声をかける。


「こいつはいいやつなのでお薦めしますよ。それでは!」


 そう言うとガウェインは部下たちを引き連れて立ち去った。

 わたしは肩の力を抜き、静かにふーっと息を吐く。


「ミヒリアさん、すいませんでした。じゃ、行きましょうか?」

「はい」


 わたしはレインさんの後ろを追った。

 大丈夫――大丈夫だからとわたしは自分自身にささやく。

 たぶん彼らが知っている情報は『魔王が王都にいる』それだけだ。もしも居場所の情報を持っていればこんなにうろうろしていない。もしも容姿の情報を持っていればさっきの時点でバレていただろう。

 彼らは待っているのだ。

 何か問題が起きるのを。

 わたしが静かにしている限り、彼らの手はわたしに届かない。

 静かに今日をやり過ごすのだ。


「あ、もうすぐ大聖堂ですよ、ミヒリアさん」

「楽しみです」


 わたしにはにこりと微笑を浮かべた。


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