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レインの告白「自分は勇者なんです」

「三回目で真剣交際、ねえ……」


 レインの言葉を咀嚼するようにファウストが言った。


「すまないが、真剣交際って何?」

「ああ、交際には段階があるんだよ。最初が『お見合い成立』。お見合いしてお互いにいいと思えば『仮交際』。仮交際後にこの人とつきあうと決めたら『真剣交際』だ」


 ファウストが首を傾げた。


「仮交際と真剣交際は何が違うんだ?」

「仮交際は仮だ。あくまでお試し期間中だから他の会員とのお見合いや並行交際が許される」

「へえ、面白いシステムだな」

「だが、真剣交際は文字通りの『真剣』だ。この人に決めたという意味だから他の人とのお見合いも交際も許されない」

「なるほど。じゃあ、真剣交際になったら婚活卒業ってこと?」

「いや、違う」


 レインは首を振った。


「真剣交際中は会員のままなんだ。紹介がストップするだけ。で、『結婚する』と決めたら『成婚退会』となる。成婚料をおさめて正式に退会する流れだ」

「なるほどね。で、仮交際になってから三回目のデートで真剣交際になるカップルが多いという話か。ようやく話が理解できたよ」


 うんうんとファウストがうなずく。


「でも、回数にこだわる必要ってあるのか? こういうのはお互いの気持ちが固まってからだろ?」

「それはそうなんだけどな……」


 レインはもう何度もネットで調べた内容を思い出しながら言った。


「やっぱり三回目を意識する女性も多いらしい。逆に四回目五回目と会う回数を重ねて男が何も言ってこないと『キープされている?』とか不安に思うらしい」


 ファウストが皮肉げに笑った。


「仮交際の並行可能システムの暗部だな。どうしても他に本命がいるのか疑心暗鬼になってしまう」

「本当にそうだよ」


 はあ、とレインは息を吐いた。


「俺もそうなんだ……ミヒリアさんは素敵な人だからさ……他に狙っている男がいるんじゃないかと気が気でないんだよね」

「そういう意味でも、早く意思表示をしたいと。いるかどうかわからんがライバルくんに先を越されたら溜まったもんじゃないものな」

「それもあるな」


 ファウストはグラスをもてあそび、氷をからからと動かしながら口を開いた。


「お前的にはどうなんだ、レイン?」

「俺?」

「そうだ。お前の腹は決まっているのか? ミヒリアさんと先に進んで――結婚してもいいという覚悟はあるのか?」


 ファウストの言葉。

 そんなものはもう何度もレインは考えていた。答えは出ていた。だから、うなずくことにためらいはなかった。


「もちろんだ。俺はミヒリアさんと前に進んでみたいと思っている」

「はっはっはっは! いいんじゃないか!」


 ファウストが笑いながらレインの背中を叩いた。


「そこまで決まっているなら反対する理由はない!」


 だが、次の瞬間にファウストは笑顔を消した。声のトーンを落として次の言葉を紡いだ。


「……勇者というのは伝えたのか?」

「……まだだ」

「そうか」


 ファウストがぽつりと返した。


「まずはそこからだな。真剣交際に進むってのはそれなりに重いんだろ? 勇者であること。それを伝えないとダメなんじゃないか?」

「わかっている」


 レインはうなずいた。


「だから次での告白は考えていない。次は俺が勇者であることを伝える」


 それはレインの揺るぎない決心だった。

 揺るぎないが――不安はある。もしもそのせいでミヒリアに拒絶されたらどうしようと。

 もちろん、どうしようもないのだが。

 勇者であること。それはレインとは不可分なのだから。

 まるでレインのそんな気持ちを見透かしたようにファウストが口を開いた。


「心配するな。勇者レインの肩書きを嫌がる人間なんていやしないよ。むしろお前への好感度は間違いなく上がる。どーんと言ってやれ!」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 仮交際に入ってから三度目のデートとなった。


 三度目。


 その数値はわたしにとって一定の意味を持つ。ギュルギュル神の神託によると三度目で真剣交際の告白をしてくる男が多いそうだ。

 ま、まさか……。


「今日もよろしくお願いします~、レインさん♪」


 もちろん、そんな予感は毛ほども見せないが。


 最初は夕食だけだったデートも三度目ともなるとグレードアップ。今日は昼食を一緒に食べて繁華街をぶらぶらして夕食という流れである。

 もう完全にお出かけである。

 だが、心はとても安定している。レインさんと一緒にいることに不安がないからだ。


 そんな長時間一緒にいて大丈夫……?

 なんて思ったりしない。


 確信しかないのだ。

 きっと楽しいに違いない。そんな心の華やぎだけがある。


 そして、その見込みは正しかった。

 特に何か大きなイベントがあったわけではないけれど楽しいだけの時間があっという間に過ぎていった。


 今わたしとレインさんはレストランで夕食を食べている。

 ちょっと高級そうな感じのお店だ。そして、周りの目を気にしなくていい個室。

 おや……これは……。

 わたしは少しばかりどきどきしてしまう。

 あまり稼ぎのよくない傭兵としては奮発した店選び。そして、二人だけの空間。

 こ、これは……。

 ま、まさか……。

 やはり三度目のデート――告白の伏線!?


「今日も楽しかったですねー、レインさん♪」


 なんて予感は毛ほども見せないが。


「はい。自分も楽しめました」


 にっこりとほほ笑むレインさん。

 その笑顔の裏に何を隠しているのだろうか。レインさんはいつもどおりの好男子オーラを展開しているだけ。


 ……ふふん。


 でもミヒリアさんは君の腹の底が読めている! いいだろう、何事もないように振る舞いたいならそうするがいい!

 はーはっはっはっはっ!

 なんて思いつつも――


「あら、この料理おいしいですね!」


 わたしはポーカーフェイスでレインさんと雑談をかわす。

 話の雰囲気が変わったのは夕食会が終わりに近づいた頃だった。


「今日はありがとうございました。ミヒリアさん」

「はい。こちらこそ」


 だが、わたしは気づいていた。レインさんの表情に一筋の緊張が走っていることに。

 おお、くるか、くるか!?


「――ミヒリアさん」


 覚悟の輝きが光る目でレインさんがわたしを見る。


「お話があります」

「は、はい!」


 わたしは無駄に背筋を伸ばした。

 きたきたきた、きましたわー!


「なんでしょう?」


 すました顔で応じたが、わたし大興奮である。

 絶対にこの展開、これのそのアレだよね!?

 内心で興奮しまくるわたしから視線を外さずレインさんが続けた。


「実は、ひとつミヒリアさんに嘘をついています」

「……え?」


 ん?

 なんか思っていたのと違うセリフが混ざったけど?

 わたしに二の句を継ぐ暇を与えずレインが言った。


「自分は傭兵ではなくて、本当は勇者なんです」

「はあ、そうなんですか」


 状況に追いついていないわたしは間の抜けた返事をした。


 それからゆっくりと――

 レインさんの言った内容が頭に浸透してくる。


 ――自分は傭兵ではなくて、本当は勇者なんです。


 ん?

 んんん?


 傭兵ではなくて、勇者?


 ……。

 勇者?

 勇者!?


 ようやくその単語をはっきりと認識した。わたしは目をぱっかりと開けてレインさんの顔を見た。


「え、ええええええ!? ゆ、勇者ああああああああ!?」


 驚くわたしの言葉をレインさんは真っ向から受け止めて、ゆっくりとうなずいた。


「はい。勇者なんです。嘘をついてごめんなさい」

「そ、そうなんですね……」


 わたしは崩れ落ちそうになる気持ちを何とか支えた。

 ゆ、勇者……。

 勇者ああああああああああああああああああ!?

 マジかーマアアアアジイイイイイなーのーかー!


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