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婚活のセオリー。真剣交際への移行タイミングは?

 仮面の魔王と対峙した日――


「じゃ、さようなら」


 その一言の直後に続いた膨大な魔力の一撃。ただの一撃でレインたち勇者パーティーはバラリア砦から弾き飛ばされた。

 天井を突き抜けて、鳥が飛ぶ位置よりも高いはるかな大空へと。

 まだ、生きている。

 そのことにレインは安堵した。

 だが、魔王の一撃を受け止めた両腕――否、身体中が激痛で悲鳴を上げている。聖剣で受け止めてもなお、これほどの威力。


(どれほどの力の差があるのだ……)


 レインは唇を噛んだ。

 やがて、その身体を押し上げる斜め上への加速がゼロとなり、真下への降下と移行した。

 真下から流れる空気の速さと鋭さが肌に突き刺さる。

 そのときファウストが大声を発した。


「アリーシア!」


 同時、レインと聖女アリーシアの身体を光り輝く鎖が縛り上げる。

 ファウストが魔法の鎖を生み出し、二人の身体を引き寄せたのだ。


「レインの傷を治してやってくれ!」

「俺なら大丈夫だ、ファウスト! 落ち着いてからでいい!」

「なに言ってやがる! お前にはこのあと用事があるんだろうが!」


 レインは驚いた。

 お見合いのことだ。レインはもうすっかり諦めていたが、ファウストはそうではなかったらしい。


「ファウスト! そんなことはいい! 今はいいんだ!」

「黙って任せろ! アリーシア急げ!」


 アリーシアの手に黄金の光が灯る。その手がレインに触れた瞬間、レインの身体から急速に痛みがひいていった。


「ありがとう、アリーシア」

「いえ、お礼を言うのはわたしです。あのときレインさんが前に出てくれていなければわたしたちは死んでいました」


 アリーシアがレインから離れる。

 直後レインの肩にファウストが手を置いた。その口からレインでは理解できない魔法の詠唱が吐き出されている。

 その言葉が、止まった。

 にやりとファウストが笑う。


「行ってこい、レイン」

「手間を掛けさせるな、ファウスト」

「気にするな。俺はお前に幸せになってもらいたいだけさ。……これがいい出会いだったらいいな!」


 言葉が終わると同時、ファウストが転移魔法を発動させる。


 レインの視界が一瞬で真っ白になり――

 ――

 ――

 ――

 レインは部屋に倒れていた。見覚えのある部屋だ。レインたちがラハルドで活動するときの拠点だった。


(ありがとう、ファウスト)


 レインは起き上がった。

 感慨にふけっている暇はなかった。時計を見るとミヒリアとの待ち合わせ時間は押し迫っている。

 レインは乱雑に鎧を脱ぎ、慌てて身支度をととのえる。

 そのとき――


「つっ!」


 レインの口元からひきつった声が漏れた。無意識のうちに左脇腹に手が伸びる。

 魔王に殴られた場所だ。

 聖女アリーシアの治癒魔法でも完璧に治せなかったらしい。


(さすがだ……魔王。それほどの深手を負わせるか……)


 だが、痛いからといって休むわけにもいかない。ファウストが送り出してくれたのだ。レインにはたどり着く義務がある。


「待っていてください、ミヒリアさん。今から行きますから!」


 痛む身体を引きずってレインは待ち合わせ場所へと向かった。

 そして――

 その努力は正しく報われた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 レインとファウストは王からの招集を受けて王都に戻っていた。

 騎士団長たちと今後の作戦行動に関する打ち合わせをした後、いつ終わるともわからない歓待パーティーを抜け出し、行きつけのバーに二人で顔を出した。


 そこは国の高級官僚たちが愛用する店だ。

 この店がそういう人たちに愛される理由は店が貸し出す指輪のおかげである。

 この指輪には音を抑制する特殊な魔法が封じられていて外部の耳を気にすることなく気兼ねなく会話できるのだ。


 別にレインは隠し事をしたいわけではないのだが――

 勇者という肩書きが面倒なのだ。

 彼が謙虚誠実に生きたいと思っても勇者の言動はそれだけで人の注目を惹く。

 だから、気軽な雑談でも場所を選ぶ必要があるのだ。


 王都という場所柄、彼を知る人間も多い。レインはサングラスをして人目につかないようにしていた。

 ずっとともに戦ってきたファウストとの気兼ねない雑談。


 会話が一段落したところでファウストが話題を変えた。


「で、どうなんだ。お前の婚活は? 順調なのか?」

「そうだな……うん、順調かもしれない」

「ほう……なかなかいいじゃないか」


 ファウストが楽しげに唇を歪める。


「ひょっとして相手はバラリア砦攻め当日にお見合いした『ミヒリアさん』か?」

「そう。あの人だ」

「よかったじゃないか! 魔王相手に死ぬような目にあってでも会いにいったかいがある!」

「本当にそうだよ」

「どこがいいんだ?」

「うーん。うまがあう感じかな。話していて楽しいんだよ。あと性格もこざっぱりとしていてつきあいやすい」

「いいじゃないか。その出会いは大事にしたほうがいい」

「俺もそう思うよ」


 レインはグラスに入った蒸留酒を眺めながら言葉を続けた。


「だからこそ、もう悩まないといけない時期なんだ」

「どういう意味だ?」

「ミヒリアさんとはお見合い後、もう二回会っている。次で三回目になるんだよ」

「ほうほう。それで?」

「ネットで調べたんだけどさ」


 レインは真剣な口調で言葉を続けた。


「婚活だと三回目で真剣交際に移行するカップルが多いんだ」


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