魔王と勇者、お見合い後二回目のデート(※お互いに正体はわかっていません)
「レインさん、こんにちは~」
「ミヒリアさん、こんにちは」
声を掛けたわたしをレインさんがいつもの笑顔で迎えてくれる。
前回のイタリアンディナーに続き、わたしたちはラハルドで二度目のデートを予定していた。お見合いを含めればもう三度目の待ち合わせだ。
……メフィストとはあんな話をしていたのにね……ほら、あれよあれ! レインさんにはわたしの恋愛経験値ゼロをなんとかしてもらうために犠牲になってもらうの! わたし魔王だからね、ぐはははは、人間よこの魔王の礎となるがいい! はーはっははははははは!
ということにしておいてください……。
「じゃ、行きましょう。ミヒリアさん」
「はい!」
わたしはレインさんの後を追う。
仕方ないじゃないか……。
そうですね。彼は人間ですよね。じゃあサヨウナラなんて簡単に関係を断ち切れるはずもない。
彼に心があるように――
わたしにも心はあるのだから。
少なくとも、わたしはこの交際を終わらせたいとは思っていない。
たとえそれが仮であっても。
恋愛未満の感情であっても。
この感情の行く先がどこなのか、よくわからないが……。
「面白かったらいいんですけどね」
レインさんが歩きながら財布から映画のチケットを取り出す。
わたしはチケットにちらりと視線を送った。
「評判はいいんですよね?」
「そうなんですけどね。ミヒリアさんにあうかどうか……映画がつまらないと自分の評価も下がらないかと不安で不安で」
「大丈夫ですよ。そこはわけて考えますから!」
「あはは、お手柔らかにお願いします。でも、それだと映画が面白くても自分の評価にならないのかー……」
「いえいえ、そこはチョイスの手腕ということでプラス評価で!」
なんて雑談しつつ歩いていく。
そう、今回のわたしたちのルートは映画鑑賞からのディナーだ。
見にいく映画は全大陸が泣いたアクション超大作!
『聖剣伝説 ――光の勇者よ、魔王の闇を払え!――』
だった。
……。
……タイトルの通り、聖剣を携えた勇者が魔王を倒す話だ。
………………。
よりによってそれかよ! むっちゃわたし殺されてるじゃん! どういうテンションで見たらいいんだ!
とはいえ、わたしも悪い。
見たい映画はありますか、と訊かれて「そうですねー。何でもかまいませんが、アクション映画とかどうでしょう?」と言ったからね。
で、この時期に公開されていた話題の大作が聖剣伝説なのだ。
そりゃレインさん、チョイスするよね!
あー……恋愛映画って言っておけばよかった。
言おうかなーとも思ったのだけど、狙いすぎ感があるよなーと思って全力で回避したのだ。回避した先がまさかの聖剣伝説。落とし穴にはまりにいった感じするよね。
しゃーない、人間たちの『魔王感』の研究でもするかー。
というわけで、わたしは映画を鑑賞した。
現役魔王ミヒリアさんの考察ぅー。
魔王すっげー悪いやつ!
以上!
い、いやー……。わたしそんな酷いやつじゃないと思うんだけどなー……。
人間と魔族がわかり合える日ってくるんですかねー(泣)
もうどれくらい昔から続いているのか誰もわからない戦争。日常と化した戦争。
そこで流された血とともに積み上げられた憎悪は生半可なものではない、ということか。
映画を見終わった後、わたしたちはレインさんが予約してくれたレストランへと場所を変えた。
「どうでしたか、ミヒリアさん?」
「そうですね。面白かったですよ」
わたしはうんうんとうなずきながら答えた。
これは別に気を遣った発言ではなく映画として純粋に楽しめた。さすがは大作。金がかかってるんだろーなーという感じのど迫力映像がガッツンガッツン繰り出されるのだ。そりゃ面白いよ。
魔王のわたしが見る映画なのかという問題はあるが。
魔王倒されてたけど!
聖剣でざっくう刺されたけど!
勇者がこの映画を見るのと同じくらい『ない』チョイスだ。どんなに自意識過剰な勇者なんだよと。
レインさんは安堵の息を漏らした。
「よかった……。僕の立場的にちょっとこのチョイスは……とも思ったんですけど、超大作の宣伝に賭けたんですよ」
ん?
わたしはレインさんの発言に引っかかりを覚えた。
「レインさんの立場的に? 何かあるんですか?」
わたしの言葉を聞くやいなや、レインさんはしまった! といわんばかりの顔をした。
おや? 何か失言でもあったのかな?
「あー、その……自分、傭兵ですから。戦う人じゃないですか。まるで自分を勇者に重ね合わせている痛い人みたいに見えないかなー、なんて、あは、あははははは……」
「あー、なるほど!」
わたしは手をぱちんと叩いた。
「大丈夫! そんなこと思いませんから! ていうか、レインさん考えすぎじゃないですか?」
「そうですよね。ええ。うんうん」
そこでわたしはふとメフィストの言葉を思い出した。
――相手は人間。あなたは魔族。どうなされるおつもりで?
……そうだ。ちょうどいい。レインさんの意見を聞いてみよう。
「映画だと魔王がさくっと殺されちゃったじゃないですか」
「そうですね」
「……話しあうって選択肢はないんですかね?」
「話し合いですか……」
うーんとうなりながらレインさんが腕を組む。
「なかなか難しいんじゃないですかね。大昔からの敵同士――宿敵ですから」
そうか……。
その言葉はわたしの胸にいくばくかの寂しさを去来させた。
きっとわたしはレインさんに言って欲しかったのだ。
――そうですね。そういう解決方法もありますね。
と、いつものにっこり笑顔で。
だが、その言葉は正しいだろう。前に勇者と相まみえたとき、話し合いの糸口すらなく戦ったからね。わたしも時間がなくて慌てていたというのもあるが。
人間と魔族が交際するというのは無理があるのか。
その結論は、わたしの心の天秤を片側へと傾ける。
これ以上わたしはレインさんと交際を続けるべきではないのだろう。どう考えても結末は楽しいものにならない。
だけど悲しいな……それは。
なぜなら楽しいからだ。そんなことを考えつつもわたしはレインさんと談笑している。そんな暗いことを考えているのに声には微笑の波がたゆたい続けている。レインさんとかわす言葉のひとつひとつが快活な楽曲の音符のように飛び跳ねていた。
この時間はとても貴重なものだ。
この時間を失えばきっと辛い気持ちになるだろう。
でも、きっと続けば続くほど終わりの悲しみはより強くなる。引き返せるときに引き返すべきなのだ。
楽しい時間はあっという間に終わった。
「出ましょうか」
そう言ったレインさんが前と同じく会計をすませる。わたしはレインさんとともにレストランを出た。
わたしは心を決めた。
魔王城に戻ったらお断りの返事をしよう。嫌いになったわけじゃないけれど――互いの間にある障壁は無視できそうもない。
もう三〇〇〇歳なのだ。安全着陸の可能性がゼロな勢いだけの恋愛など華麗に回避する分別くらいはあってもいいはずだ。
よし、そうしよう。
そうしていただろう。たぶん――
「あの、ミヒリアさん」
少し緊張した面持ちでレインさんが声を掛けてくる。
「もしよければ、次も会っていただけますか?」
なんてことをレインさんが言わなければ。
わたしの口から出た返事はこうだった。
「はい。もちろんです!」
あちゃー、ミヒリア、チョロすぎやんけー(白目)




