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彼は人間、あなたは魔王。どうするおつもりですか?

「ミヒリアさまが人見知りするタイプだと考えると、出会って間もない状況でそれほどお話できる相手というのは実に希有。大切にしたほうがいい出会いでしょうね」


 メフィストの言葉にわたしはうなずいた。


「うんうん! わたしもそう思うよ!」

「……ところで、ディナーのお代は相手の方が全額払ってくれたのですか?」

「そうだけど?」


 わたしとしては割り勘でも全然いいのだけどね。

 喫茶店と同じく「おいくらですか」と聞くスキームで処理した。結局、レインさんが「僕がもちますから」と言ったのでわたしはお金を払っていない。


「なるほど」


 メフィストがうなずく。

 メフィストのそんな姿を見ていると、わたしはふと不安を覚えた。


「……やっぱり強引に渡したほうがよかったかな? 金銭感覚ありますよアピールしたほうがいいのかな?」

「いえ。ミヒリアさまは払う意志を見せて断られたんですよね? なら気にしなくていいです。『それでも払うと言ってこいよ』なんて思う男は面倒なだけなので。話を聞く限り、レインという男はまとものようですし」

「だよね!」

「ただ、気にしているのはですね――ミヒリアさまはお礼のメールを送りましたか?」

「お礼の、メール!?」


 もちろん送っていない。レインさんとの連絡は昨日お別れしたっきりだ。


「送ってないけど……そういうの、いる?」

「送ってあげてください」

「いるかなあ……ちゃんとお別れのときにお礼は言ったけど?」

「ミヒリアさま。男性が初対面の女性になぜおごると思いますか?」

「え?」


 考えたこともなかったな。


「どうしてだろ?」

「男性はですね。好きな女性――本当に好きな女性ならばおごります。相手が喜んでくれると嬉しいですから」

「ほほー。え、じゃあ、レインさんはわたしのことが――!?」

「それはないです」


 ぐふっ!?


「ないって! ひどくないですかね、メフィストさん!?」

「普通に考えて出会ったばかりの女性をそこまで好きになっているわけありませんよね」

「ま、まあ、そうだけど……」

「だから、これはポーズなのです。私はあなたのことが好きですよ――本当はそこまで好きでもないけど、とりあえずそうする。マナーですね。言ってみれば」

「なるほど」


 勉強になるなあ……。


「相手がマナーにのっとった行動を取るのならば、ミヒリアさまもそうするべきでは? おごってもらったのだから解散後の初メールは女性から送る。お礼も兼ねてね。普通のことですよ」

「うーん、そうかもしれないね」

「デートというものは男性がリードします。基本的に終わった後の男性は不安なものですよ。うまくやれたかな、と」

「ほお」

「お礼のメールをもらえれば、気持ちが楽になるものです」

「そういうものなのか」

「こう考えてはどうです。立場が逆として、ミヒリアさまがメールをもらえたら嬉しいでしょう?」

「そりゃ嬉しいよ!」


 あ、そういうことか。


「相手が喜ぶことをする。いいことではないですか」


 うんうんとメフィストがうなずく。


「というわけで、お礼のメールは送りましょう。もちろん、お断りするつもりならばいりませんが。お断りするのですか?」

「そんなわけないじゃん!」

「なら、メール一通くらい送りましょう。それくらいの手間はかけてもいいのでは?」


 まあ、そうだな……。

 それにレインさんが不安に思っているのはよくない。

 わたしはスマホを手に取るとぽちぽちと操作した。昨日はありがとうございました。おいしい料理に楽しい会話、とても素晴らしい時間でした。またお会いしたいです。

 送信っと。


「送ったよ」

「それはよかったです」


 うんうんとメフィストがうなずく。


「追加でお伺いしたいのですが」

「なに?」

「とても馬のあう方のようですが、どうお考えなのですか?」

「え?」

「相手は人間。あなたは魔族――その王。どう考えても釣り合いがとれていないのですが、どうなされるおつもりで?」

「あ……ああ……」


 そうなんだよね。ちょっと舞い上がっていたけど、そこの問題があるよな。

 わたしは大きく息を吐いた。


「……もちろん、忘れてないよ。本気なわけないじゃん」

「そうですか。ならいいのですが」


 そう言って、メフィストが口をつぐむ。

 一瞬の沈黙。

 それに割り込むようにピロリン♪ という音がスマホからした。

 レインさんからのメールが届いたのだ。


『楽しんでもらえてよかったです! 自分もミヒリアさんとまた会いたいと思っていました。今度は映画なんていかがでしょうか?』


 そのメールを見た瞬間、わたしの胸に華やいだ感情が生まれた。

 そう、心が動いた。

 それは隠しようのない事実。

 その反応こそが、きっと偽りのないわたしの気持ちなのだろう――


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