表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/31

あー、それが婚約破棄の真相ですか(白目)

「ま、待てエリー! ここに入ってくるなと言っただろ!?」

「えー? 別にいいじゃーん? その女とはただの婚約者で、もう婚約破棄もしちゃったんでしょー?」


 せせら笑うような口調でエリーとかいう女が笑う。

 エリーはグレゴリオの横に立ち、勝者の笑みでわたしを見下した。


 ……。

 はあ。

 あー、そういうことかー。

 わたしはすべてを察した。


 仕事上の理由でとグレゴリオが言ったのは全部嘘。ようは新しい女ができたのだ。

 で、その新しい女がこのエリー。

 エリーはこの後グレゴリオとデートに繰り出すため隣の部屋で待っていたわけだが、自分が女として競り勝った相手を見たくなってこの部屋にやって来たのだ。


 ぐぬぬぬぬぬ……!

 わたしはテーブルの下でひざに載せた手をぎゅっと握りしめた。


 さすがにこれをにっこり笑って「別にいいのよ、グレゴリオ」と言えるほど、わたしはおとなではない……!


「……グレゴリオ、どういうことかしら……」

「違うんだ、ミヒリア! き、君が思っているようなことは何もなくて、こ、この子は親戚の子で――!」

「はーい、親戚の子のエリーでーす」


 エリーはくすくす笑いながらグレゴリオのあごひげを指でなぞる。ずいぶんと仲のいい親戚の子ですね……。


「……親戚の子にしてはグレゴリオと似てないわね」

「え、い、いや、そうかな……? はは、ははは!」

「茶番はいいっつーの!」


 ごん! とわたしはテーブルを叩いた。グレゴリオの表情が凍り付く。


 わかりきっている。

 この女がグレゴリオの恋人であることなど。

 男受け極振りのあだっぽい表情、出るところは出てひっこむところはひっこむ女らしい体つき、若さがむんむん立ち上る若い肌!

 ぜーんぶわたしにないものだ。

 わたしの顔は「不機嫌なんですか?」と言われるくらい感情の変化がない仏頂面だし、残念ながらわたしの3サイズは微妙な数値だし、お肌も年相応に経年劣化している。


 悪かったな、三〇〇〇歳で!

 今日この日は三〇〇〇回目の記念すべきバースデーなんだよ!

 お前のせいで最悪の記憶が刻み込まれたけどな!


 グレゴリオが両手を振った。


「お、落ち着こう、ミヒリア。落ち着いてくれ……」

「ださー、振られたおばさんがヒステリー起こしてるー(笑)」


 このエリーという女……がんがんに可燃物をつっこんでくるな! いい性格してるじゃないの。

 グレゴリオの管轄である北の大陸の魔族にわたしがどうこうできるわけじゃないのを見越してだろうけど。

 ああ、もう!

 イライラするイライラするイライラするううううう!


 そこでふと――

 わたしは急に冷めた。


 若さと色気だけの弱小魔族にわたしは何いらついてるんだ。

 魔王であるわたしが。

 そもそもわたしはグレゴリオのことを愛していなかったのだ。誰でもよかった結婚相手。

 わたしがそこまで怒る要素はない。

 実にくだらない。

 むしろ、その程度の男だったと話が進む前に教えてくれたのだ。

 感謝してもいいくらいだろう。


 わたしは財布を取り出すと、二人の代金を払ってもお釣りが出る料金をテーブルに投げた。


「あなた方の幸せをお祈りしているわ」


 そう言うと、わたしは立ち上がった。


「待て待ってくれミヒリア! こんな別れ方はよくない! ここはせめて俺にもたせてくれ!」

「……あのね、グレゴリオ。ここであんたにおごられたらわたしの立つ瀬がないじゃない。あんたのメンツは立つかもしれないけど。こっち側の気持ちになってよ。こっちにもプライドくらいあるんだから」


 グレゴリオは渋面を作って押し黙る。


「というわけで――」


 ぴっとグレゴリオを指さしてわたしは言った。


「婚約破棄します。さようなら」


 突き放すようにそう言うと、わたしは部屋を出ていった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 わりと勇ましく部屋を出たわりに――

 魔王城に戻った後、わたしは気疲れを覚えて愛用の執務机にばたりと倒れ込んだ。


「うー、疲れたー……」


 そんなわたしの眼前に、ことりと香り高い紅茶が置かれる。顔を横に向けていたわたしは視線をつーと上に向けた。

 そこには整った顔立ちの若い男が立っていた。白いシャツの上に黒いベストを羽織り、黒いズボンをはいている。

 男はわたしと視線があうと、にっこりほほ笑んでこう言った。


「お疲れ様です、ミヒリアさま」

「メフィストー…………」


 それがこの男の名前。わたしの執事をしている。


「ゆっくりと紅茶をお飲みください、魔王さま。紅茶は気分転換と疲労回復に効果がありますので」

「ありがとー……」


 わたしはよろよろと身を起こすと紅茶に口をつけた。

 はー……気休めとはいえ少しばかり気分が落ち着く。あいかわらずメフィストの淹れる紅茶はおいしいわー。


「グレゴリオさまと何かあったのですか?」

「言いたくないわー。むっちゃ気分悪いー」

「そうですか。では言いたくなったら話してください」

「……今話したくなった。聞いて聞いて!」


 誰かに聞いてもらえれば、この胸のむかつきも少しはおさまるだろうか?




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ