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魔王と勇者のお見合い(下)

 それからわたしたちはいろいろな話をした。

 すべてはとりとめのない会話だったが……なんだか喋っているのが不思議と心地よかった。


 普通に口からすらすらと言葉が出てくるというか。

 まるで川が流れるように自然と会話が続いていくというか。


 北の魔王のグレゴリオと喋っていたときは『頑張って話を続ける努力をしよう』という感じだったのだが、レインさんとはそういう気持ちは特になく、すらーっと話ができる。

 あっという間に時間が過ぎてしまった。


「おっと」


 そう言ってレインさんが腕時計を見た。


「一時間を超えちゃいましたね。そろそろ終わりましょうか」


 ……いや、もう少し続けてもいいんだけど……。

 とは思ったが。


「そうですね。そろそろ」


 わたしはにっこり笑ってそう答えた。

 初回なのだ。がつがつ頑張る必要はない。おそらく――この感覚ならば次もあるんじゃないか。

 であればここで粘るのは良案ではない。

 それにレインさんはレインさんで用事があるかもしれないからね。変に引き留めると逆効果もありえる。


「じゃ、行きましょうか」


 レインさんが立ち上がってレジへと向かう。

 支払いが終わった後、わたしは問うた。


「おいくらですか?」

「いや、いいですよ。気にしないで」


 レインさんがさらっと答える。

 ちなみにタイラさんは「割り勘がルールです」と言っている。だが結局のところ、このお会計にはさまざまな『駆け引き』が存在してその通りにはいかない。


 男性側としては『割り勘』にしたくても『割り勘にすると気がないみたいで相手にお断りされるんじゃないか』とか。

 女性側としては『割り勘』にしたくても『割り勘割り勘と自分から行くとうるさい女に思われる』とか。逆におごられちゃうと『自分の分の金も払わないのかこの女はと思われる』とか。


 初対面からくる疑心暗鬼が選択肢にまつわる感情を濁らせる。


 男は全額出すか出さないかに悩み――

 女は気持ちよくおごられるか割り勘を主張するかで悩む。


 どっちもでいいじゃん(白目)

 とわたしなんかは思うのだが。


 というわけでわたしは答えた。


「ありがとうございます!」


 三ヶ月の活動でわたしが至った結論はこうだ。

 男性側にあわせる。こちらからお代を確認し、男性がおごるなら気持ちよくおごられる。割り勘なら気持ちよく支払う。そして、その行動は返事に一切の影響を与えない。

 悩むのがメンドくさいからね!

 ……きっとこういう応対も相性のひとつだ。わたしの行動が気に食わずにお断りしてくるなら、それはその程度の相性なのだ。

 レインさんと一緒に喫茶店を出る。


 レインさんがわたしの顔を見て言った。


「今日はありがとうございました。楽しかったです。遅刻したのは本当にごめんなさい!」

「いえいえ! そんなの! わたしも楽しかったので待ったかいがありました。本当に気にしないでください!」

「お気遣いありがとうございます。じゃあ、自分はここで!」


 レインさんは一礼すると颯爽とした足取りで去っていった。

 ふぅ、とわたしは小さく息を吐く。

 ……うーむ。さすがはタイラさんの一押し。確かに相性のいい人物だった。今まで一〇人を超える人とお見合いしたけれでも彼ほど話していてしっくりくる人はいなかった。

 おまけに顔も整っていて態度も実に紳士だった。


 いいんじゃないの!?

 すごく、いいんじゃないの!?


 出会ってちょっと興奮しちゃうのは婚活で初めてのことだ。

 こんな好人物よく残っていたな! とも思うが、おそらくは傭兵という職業がマイナスなのだろう。命の危険がある、家も空けがちな仕事だ。普通の女性は敬遠するだろう。

 わたしは問題ない。

 傭兵やめても別に経済上の支障はないからね。


 あ……でも、なんか宿敵がいるとか言っていたね……。倒さないといけないんだって。それを倒すまでは傭兵を辞めるのは嫌がるかもしれない。

 もー、何だよ宿敵って。

 わたしがワンパンで倒してやるわい!


 いかんいかん……妄想がはかどりすぎている。そもそもレインさんが仮交際OKするかもわからないしな。

 その想像は少しだけわたしの胸をしめつけた。

 うーむ。

 悩むのならばフェイズを先に進めて悩むか。

 わたしはスマホを取り出すとステバリ社の婚活サイトにつなげた。そして、レインさんのページを開く。


 ぽちっ。


『仮交際希望』で返した。


『返事待ち』のステータスに切り替わる。レインさんはまだ返事をしてないということだ。

 さて、どうなることやら……。

 レインさんとは先に進みたい。今回ほど「仮交際が成立しますよーに!」と思ったことはない。

 頼むよー、レインさん!


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 返事はその日のうちにきた。

 風呂上がりのわたしが自室で本を読んでいると、スマホがぷるっと震えたのだ。

 わたしはスマホを手にとった。

 新着メール一通。

 わたしはごくりと唾をのみメーラーを開く。


 新着メールのタイトルは『仮交際成立のお知らせ』だった。


 そこにはレインさんとの仮交際成立を祝うメッセージとレインさんが登録している個人メールのアドレスがあった。

 おお……。

 じんわりと喜ぶ暇もなかった。

 新しいメールが届いたのだ。


『ミヒリアさん。

 レインです。今日はありがとうございました。仮交際が成立してとても嬉しいです。

 次は夕食をご一緒したいのですがいかがでしょうか?』


 わたしはぐっと手を握り、叫んだ。


「やった!」



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