オウル試験を見学します①
俺達はシヴがまだ居るかも知れないギルドへと向かう。
ギルドの前では、おそらくクロウだろう、腕に覚えのありそうな数人の男達がテーブルで酒を飲んでいる。入り口から中を見ても、退屈そうなクロウばかりだった。
「やはりあまり栄えてはおらんようじゃの。」
平和な町みたいだからな、大した依頼も無いんだろう。
クロウは余程金に困ってない限りは額の小さな依頼は受けたがらない奴が多い。畑の作物を荒らす草食の魔物を討伐して五万マグより、クロウを何人も返り討ちにして来たような凶暴な魔物を討伐して三百万マグ! みたいなやつの方が人気がある。駆け出しのクロウがコツコツ経験を積むにはいい環境なんだが。
受付でシヴの事を尋ねると、別室で筆記試験を受けている最中だという。
「どうせじゃから待たせてもらうとしようかの。」
キイが空いたテーブルについたので、俺も向かいに座って落ち着く事にした。
それにしてもシヴが筆記か、少し心配だ。そんな俺の心中を察したのか、キイが優しく話しかけてくる。
「シヴなら大丈夫じゃ、筆記試験というても学問の問題ではない、それにな……。」
「それに?」
「確か半分以上は選択肢の筈じゃ。」
女神のような笑顔で言ってるけど、やっぱりキイも勘しか当てにしてないじゃないか……。
乾いた笑いで返す事しか出来ないで居ると、奥の扉が開いて見覚えのあるおっさんが出てくる。シヴだ。
「おまえら来てたのか、家は見付かったのかよ。」
「見付かったよ、凄く珍しい家がね。」
「なんだよそりゃわけわかんねえ。まあ家があるならいいな、オウルになるのが早まるぜ。」
「お主、選択問題は出来た自信があるのかの?」
選択問題以外は出来てない事前提の聞き方だなそれは。
「バッチリだぜ、読んではないが全問正解の自信がある。」
シヴもシヴだな。
「このあと庭で実技があるらしいんだわ、クロウには無かったけどな。オウルはそこそこ強くなきゃならんって事らしいぜ。」
「なんじゃ、魔物とでも戦うのか?」
「んにゃ、どうやらここのギルドマスターみたいだな。オウルが居ねー町だからよ、オウルが受ける仕事はギルドマスターが代わりに潰してるって話だ。大層腕が立つんだとよ。」
腰に手を当て、上体を反らしながらシヴはそう説明した。
「殺すなよ?」
「殺すでないぞ?」
俺とキイの声が揃う。
「殺さねーよ。大体俺より強いかもしんねーだろうが。」
シヴのその言葉に、俺とキイは驚いた顔で目を合わせ、同時に笑い出した。
「ないない、それはないよシヴ、ありえない。」
「そうじゃの、お主より強い人間は今のところ一人しか知らぬわい。」
「蓋開けねーとわかんねーだろうがそんなもん。」
しばらくそんなやり取りをしていると、受付からシヴが呼ばれた。
ギルドの裏にある庭でやるというので、俺達も見に行くことにする。オウルになるかもしれない人間の実技試験という事で、町の人達も見学は自由。どこから聞きつけて来たのか少しだが集まって来ている。ついでに表にいたクロウ達もやってきて、面白半分で賭けを始め出す始末だ。
シヴは退屈そうに腹を掻いているが、見ると試験の筈なのにシヴが愛剣を担いでいて驚いた。
「殺すなよ、が冗談ではなくなってきたのう。」
流石にキイも少し心配になったようだ。
その時、町の人達の歓声が上がる。
目を向けると、美しい金の長髪にスラリと伸びた長身、銀の鎧に銀の剣を持った男がギルドから出てくるのが見える。あの男がここのギルドマスターなのだろう、想像していたよりずっと若いな。
「私がギルドマスターのナインハルトだ、待たせたな。真剣での勝負となるが、辞退する気は無さそうだな。」
「試験はいいけどよ、本当にいいのかよ真剣でやっちまってよ。万が一もあるぞ。」
「筆記試験の点数が低い者の実技試験は真剣でやるのが習わしだ。頭が悪く、剣の腕もままならんのでは斬って捨てたところで誰も困りはしないからな。」
あ、やっぱり点数低かったんだ。いや、それより今の発言は危険すぎやしないか、馬鹿で弱い奴は死んでもいいって事か?
「この試験での死亡はすべて事故として片づけられる事になっている。臆したのなら辞退するがいい、辞退するのなら今の内だ。」
見下したようなナインハルトの目線がシヴに向けられるが、シヴは気にする様子はない。
「あのような挑発はシヴには利かんじゃろうが、ナインハルトという男のあの物言い、妙じゃな。」
「何が? 俺はちょっとイラっとするけど。」
直接関係の無い俺にはしっかり利いている。
「それでは開始します!構えてください!」
受付にいたお姉さんが、準備を促す。
やれやれという顔で愛剣を握るシヴに対し、ナインハルトは目線の高さで突きの構えを取った。
「後悔はないな? まだ辞退は間に合うぞ。」
「しつけーな、辞退なんかしねーよ。その代わり手加減はしてやる、間違って腕飛ばしちまったら勘弁な。」
シヴは普段は逆手に剣を持つが、今回はそれをせずに一般的な構えを取った。
「始めーーー!」
受付嬢の声が響く。
先に動いたのはナインハルトだった。