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不死者の町人生活  作者: 旬のからくり
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家、探してます③

 独りでゆっくり休んだ翌朝、思ったより早く目覚めたので準備を済ませ食堂に向かう。

 食堂に着くと、キイがすでにテーブルに座って紅茶を飲んでいるのが目に入った。

「おはよう、早いなキイ。」

「うむ、おはよう。お主の朝食も頼んでおいたぞ。」

「ああ、助かるよ。」

 食前の紅茶と盛られたパンはすでにテーブルに置かれていた。残りはこれから運ばれてくるみたいだ。


「この町は長閑でよいの。あれなんか特にな。」

 そう言ってキイが窓の外に目線だけ向ける。キイの言うあれを確認する為、俺も紅茶に口をつけながら窓の外を見る。

 キイの視線の先には昨日見かけた獣人の女の子が、木箱の上で丸くなって寝ている姿があった。


「しばらく見ておったが、通る者全てが特に気にしておらんかったようじゃ。他種族が差別や畏怖の対象とならない町は多くはない。この町は暖かそうじゃの。」

「そうだな、まだ三日目だけど、今のところ俺も不快な場面や人間には出くわしてない。」

「いい町を選んだのかもしれんの。」

「だと、いいな。」

 朝日に照らされて優雅に紅茶を飲むキイの姿は美しく、そして、嬉しそうだった。


 朝食を食べ終えた俺達は、タークスさんの元へ向かおうと宿を出る。

 先程の獣人が木箱の上で伸びをしていたので、声を掛けてみる事にした。

「おはよう、この町に住んでるの?」

 獣人の女の子はゆっくりとこちらを振り返り、眠そうな顔で挨拶を返す。


「おはようにゃ、ピーニャはパパとママについて来ただけにゃ。」

 旅でもしているんだろうか? 親がどこか近くに居るのかもしれないな。

「そっかそっか、邪魔したね。それじゃあまたどこかで。」

 俺達は当たり障りのない返答をしてその場を後にする。まあ縁があればまた会う事もあるだろう。

「ピーニャという名はどこかで聞いたことがあるのじゃがな……。」

 そうキイが小さく独り言ちていたが、流石にこんなところで知り合いには会わないだろう? と言っておいた。


 噴水の前まで来ると、俺達を迎えに行こうとしていたタークスさんと丁度鉢合わせたので、そのまま残りの物件へと案内してもらう。

 だが、昼までに数軒見たがどの屋敷も昨日見せて貰ったものと似たり寄ったりで、やはりこれはシヴの勘に頼る事になるかな? という考えが頭をよぎる。

 いい時間だし、タークスさんを昼食に誘って一度気分転換をしよう。


「そろそろお昼ですし、ごはんにしましょう。タークスさんも一緒に。」

「そうですか、畏まりました。では残り二軒は昼食後に致しましょう。」

「はい、それよりこの地区でおすすめのお店ありますか?」

「ございますよ、ご案内致しましょう。」

 案内されたのは噴水から西にある食堂。見た感じ新しめの建物からは、食欲をそそる香りがしてくる。並んでいる客も多く、人気店だなというのはすぐに理解できた。


 店員の案内で中に通される時、タークスさんは別のテーブルに座ろうとしたので、無理やり同じテーブルに座らせる。そういう気遣いは要らないんだ。

 料理を注文して到着を待つ間、残り二軒も同じような感じなんだろうかと考えていた。それはキイもそうだったようで、おもむろにタークスさんに質問し始める。


「タークスよ、残りの家も今まで見てきた屋敷と似たような感じなのかの?」

「左様でございますね。建物自体は残りの二軒も今までご覧いただいた物件とあまり……。後は立地等の条件になってまいります。」

 やっぱりそうなのか。とはいってもタークスさんも一生懸命やってくれているし、文句を言うのは違うよな。

「ふむ、そうか。ではもうその二軒は見る必要はなさそうじゃの。」

「申し訳ございません、お気に召しませんでしたか。」

「いや、そうではないのじゃ。どの家も良い家じゃよ、住んで不便も少ないじゃろう。ただ、なんというか、あまり面白くないというか、じゃな。」

 そんな事タークスさんに言っても困らせるだけだろうに、抽象的すぎるし。

「面白くない……、ですか。これは弱りましたね……。」

 タークスさんは、顎に手を当てて考え込んでしまった。


「いやいやそんな、気にしないで下さい、俺は家なんて買うの初めてだから助かってますよ。何言い出すんだよキイ、一生懸命やってくれてるのに失礼だろ。」

「なんじゃ、同じ家ばかり紹介されてもお互い時間の無駄じゃろう? キチンと伝えないお主も悪いのじゃ。」

 そう言われるとぐうの音も出ない。確かにお互いに時間の無駄ではあるな。

「タークスよ、簡単に言うとじゃな、たまには変わったものが見てみたいのじゃ。」

 その時、タークスさんが何か思い出したような顔でこちらを見た。


「一軒……、ございます。面白いかどうかはわかりませんが、先代からずっと買い手がつかなくて、長らく放置されている珍しい物件が。」


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