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不死者の町人生活  作者: 旬のからくり
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家、探してます②

 タークスさんの案内で、町の地理も何となく把握しながら目的地へ向かう。途中でキイと合流して三人になった、シヴはまだ起きる気配はないらしい。

「あやつは家に拘りはないじゃろうから、ワシらで決めてしまってもよかろう。」


 まあそうだろうな。

「お風呂は綺麗じゃないと嫌だ! 自分の部屋が欲しい! 台所が使いにくい! 陽が当たらないからお花が育たない!」

 どこからどう見てもおっさんのシヴが、こんな事を言ってる姿を想像して気持ち悪くなった。


「着きましたよ、一軒目はこちらです。」

 綺麗な家の建ち並ぶ住宅街の一角。大きめの門扉の向こうには、石造りの白い二階建ての屋敷が建っている。今は雑草が伸びているが、庭も広くて使いやすそうだ。


「こちらの屋敷は以前、王都に御住みの貴族の方が別荘として使っておられました。現在は高齢で旅行をされることも無くなった為、売りに出されております。」

 貴族の別荘だったのか、成程。

「この町には貴族もよく来るんですか?」


「ええ、西の山に龍の穴と呼ばれる場所がございましてね、そこに住む龍は人語を解すると言われています。この地方には龍を崇める貴族の方は多いので、参拝がてら来られますよ。」

「ほほう、龍が住んでおるのか。人語を解する龍は500年以上生きた竜じゃと言われておるからの、一度ワシも会ってみたいものじゃ。」

「まあ私は見た事がございませんが……。」

 キイもエルフで長命だし、本当に居るとしたら案外話が合うかもしれないな。本当かどうかは知らないが、簡単に会えるんならいずれ訪ねてみるのもいいだろう。


 それから屋敷の中を見て回り、次の物件へ。それを四回繰り返したのだが、どれもこれだ! という感じではなかった。贅沢を言っている訳ではないんだが、慎重になっているのは確かだ。

 タークスさんにお礼を言い、また明日残りの物件を見せてもらう約束をして、宿へと戻る。



 宿に帰った俺達は、まずは各々風呂を済ませて食堂で落ち合った。

 シヴはキイが宿を出てしばらく後に、ギルドの場所を聞いて二日酔いの頭を押さえながら出ていったそうだ。

「どれもいい家と言えばいい家だったけど、キイは気に入ったのはあるか?」

 運ばれてくる食事を横目で見ながら聞いてみる。


「ふむ、今日見た中ならどれでも良いがの。どの屋敷も一長一短ではあるが、大きな不満はないのじゃ。」

「だよな、そこは俺も同意見なんだけど……。何か即断するのも後で後悔しそうな気がして。」

「まあ焦る事もないじゃろ、まだ全て見せて貰った訳ではないのじゃからの。」

「明日も全部こんな感じだったらどうする?」

 タークスさんには悪いけど、今ある物件を全部紹介してもらってから考える……、って事になるかもな。

「その時は逆にシヴに決めさせたらいいじゃろ。勘だけは鋭い男じゃ、どれでもいいなら一番を引き当てるじゃろ。」


「う~ん……。まあそうだな、他に選択肢も無いならそれでもいいか……。」

 腕を組んで天を仰ぐと、食堂の大きな窓の外を歩くシヴが視界の端に入った。

「ああ、噂をすれば帰って来たな。」

 宿の主人に愛剣を預けて、シヴはこちらに歩いてくる。まだ二日酔いが抜けてないのか顔色は良くない。


「よう、薄情もん二人がお揃いで何の悪だくみしてんだ。」

「起こさないように気を使ってやったのじゃ、むしろ感謝するべきじゃぞ。」

「わーってるよ冗談に決まってんだろ、貰うぞこれ。いい家は見付かったか?」

 シヴは椅子に腰を下ろして、返事も聞かずに俺の酒を飲み始める。迎え酒をする元気はあるんだな。


「いい家と言えばどれもいい家だったよ、気に入りはしなかっただけで。」

「屋根が付いてりゃ何でもいいと思うがな、まあボチボチやんな。」

「そのつもりなんだけど、もしかしたらシヴに決めて貰うかも……、って話を今してたんだ。」

「冗談だろ、後からお前さん達の不満を聞かされながら住むなんてごめんだぜ。」

 まあ自分は一切不満を言わない自信があるからこそ、俺達に全面的に任せているんだろうが。


「シヴは何してたんだ? ギルドに行ったって聞いたけど。」

「おう、実はよ、もうクロウは廃業してきたぜ、ついでにオウルに登録してきた。っつっても家もねーし試験も受けてねーから仮登録だけどな。」

 昨日の今日でもうそんな事を……。やっぱり他の町にしよう、なんて話にもしなったらどうするつもりなんだよ。

「お主、そりゃ気が早すぎんか?」

 キイも俺と同じ事を考えているんだろう。いや、普通は考えるか、シヴがおかしい。

「こういうのは早くて構わねーんだよ、どうせここに住むんだし、俺はこれ以外の金の稼ぎ方を知らねえ。」

 住まないかもよ? と言い掛けたが、まあまだ仮登録みたいだしな。住むつもりで話は進めてるんだし、無粋な言及は避けとくか。


「……まあ、シヴは遅かれ早かれオウルになるだろうと思ってたよ。むしろこの町にはオウルがいないらしいから、嫌でも誰かがなった方がいいんじゃないかって考えてたんだ、シヴなら安心だろう。」

「剣の腕は化け物じゃからの、龍でも暴れださん限りは大丈夫じゃな。」


「あ~、龍な。ギルドで聞いたよ、西の山に住んでるって噂なんだってな。」

「まあこの町で長く住んでる老人も見た事ないって言ってたし、討伐対象にはならないだろうね。実際居たとしても、悪名じゃないと意外と広まらないもんなのかもな。」

「そうじゃな、ワシも150年以上生きておるが無名じゃ。」


 キイがそう言うと、場に沈黙が訪れる。

 しばらくそのままだったが、沈黙に耐えられずシヴが呆れたように口を開く。

「他のエルフが聞いたら白目むくぞそのセリフ。女王様が何言ってんだかって感じだぜ。」

「何度も言わせるでない、元じゃ。今は違うし、それに一般人はワシの事なぞ知らんじゃろうが。」

 キイはエルフの女王だったが、今は妹に女王の座を渡し、俺達と旅をするようになった。

 50年国を治め、次の50年は妹が治める。その間にどちらかに子が出来れば世代交代、出来なければキイが次の50年、という約束らしい。最初はそんな雑にほいほい交代していいのかと思ったものだ。


「まあいいよその話は。とにかく明日も早い、シヴはどうする? 空き家見学に付いてくるか?」

「いや、俺は行かねえよ。明日もギルドに呼ばれてんだ。仮登録とはいえオウルになる試験だけなら先に受けられるらしいからよ。終わらしとくぜ。」

 試験で合格さえしておけば、この町の住民として認められるのと同時にオウルになれるという事か。


「わかった、じゃあ明日もキイとデートだな。」

「ふふ、そうじゃな。ではいっそ夫婦のように振舞った方がいいかの?」

「タークスさんを騙す事に何の意味があるんだよ。」

「そうか、残念じゃ。」

「じゃあ俺は先に部屋に戻るよ。明日も同じ席で待ち合わせにしよう。」

 席を立って二人にそう伝えて、俺は自分の部屋に向かう。

 明日は運命の家に巡り合えるといいな。

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