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不死者の町人生活  作者: 旬のからくり
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家、探してます①

 昼前、別々に部屋は取ってあるのにそのまま俺の部屋で寝てしまった二人を起こさないように、俺はそっと部屋を出た。

 宿の主人に今日も泊まる事を告げるついでに、この町に空き家はないだろうかと尋ねてみる。


「なんだいお客さん、この町に住む気かい? そんなに気に入ったのかねこの町が。」

「そうなんですよ、ここは空気も美味しいし、平和だし、町の人達もとても良い人ばかりで……。」

 別にどこでも良かったとは言えないので、当たり障りのないように返答しておいた。


「そうかい、昨日来ただけでもうこの町の良さがわかるなんてな。よほど色んな町を見てきたんだな。」

 確かに色んな町は見てきたが、別にこの町に何か特別な物は感じていない。辺境の小さな町、というほどの不便さはないが、大都会という訳でもないので住みやすそうだとは思うんだが。


「ええ、そうなんです。俺達はギルドの仕事をこなしながらの旅をしていまして、いつかは旅をやめてこんな素敵な所に住みたいな~って思ってたんですよ。」

「ってことはお客さん、クロウなのかい?」


 クロウというのは、各地のギルドを渡り歩いて、どのギルドでの仕事も自由に受ける事が出来る登録者の事だ。

 逆に一定のギルドでしか仕事を引き受ける事が出来ないのがオウルで、オウルとして登録すると報酬がいい仕事を優先的に回してくれたり、そもそもギルドの中抜きが下がったりといった恩恵がある。

 また、依頼者側がクロウ不可というような設定もできるので、その土地に縛られる代わりに、必然的に収入が上がるのが特徴だ。勿論、そのギルドへの依頼が多ければだが。


「今はそうですけど、ここに住むことになればオウルとして登録し直すかもしれません。」

「かもしれないって事は……」

「廃業、も考えてますね今は。」

 家を手に入れる事ばかり考えていて、その先の事はあまり考えていなかったのは事実だ。俺独りなら額の小さな簡単な依頼でもこなして食っていけると思ってたしな。

 でも三人で住む事になったから、全員オウルという訳にもいかない、オウルには町ごとに人数制限がある。


「なるほどねえ。まあこの町にはオウルが居ないからよ、なってくれりゃあ助かるぜ。」

「考えておきますよ、ただ廃業しただけじゃ収入もなくなっちゃいますからね。ところで、空き家の事ですが……。」

「おっとそうだったな。町の中央に噴水のある広場があるだろ? 噴水から東の路地に不動産屋があるからそこで聞くといい。そりゃ俺も何件か心当たりはあるが、結局金を払うのはそこだからよ。」

「ありがとうございます。もし俺の連れが起きてきたらそこに向かったと伝えて貰えますか?」

「はいよ、気を付けてな。」

「それと、朝食間に合わなくてすいません。無駄にしちゃって……。」

「いいんだよ、余っても俺の豪華な朝飯になるだけだから、廃棄にはならないんだよ。」

 人の良さそうな笑顔を見せる宿の主人に礼をして、宿を後にする。

 不動産屋は初めて行くが、自分の家を買いに行くと考えたら、少しわくわくするな。




 噴水広場に向かう途中、貴族の乗っていそうな豪華な馬車が横を通り過ぎていく。この町にもあんな馬車に乗るような人が住んでるんだな、等と思いながら、朝食代わりに買った林檎を齧る。


 散歩気分で街並みを見物しながら歩き、やがて噴水広場に辿り着いた。広場からは噴水を中心に東西南北に向かって道が伸びている。確かここから東だったよな。

 東側の路地を少し入ると、表に出した椅子に座ってニコニコと煙草を吸っている老人が目に入った。その老人の後ろの店の看板には、【タークス不動産】と書いてある。探していた店はここらしい。


「こんにちは、この店の方でしょうか?」

「はい、左様でございますよ。ご用件は何でございましょうか?」

 見た目通り物腰の柔らかい人のようだ。

「この町で家を買いたいと思ってまして、出来ればいくつか紹介していただけたらな~と。」

「左様でございますか、これはこれは失礼いたしました。煙草だけが楽しみでして、申し訳ございません。」

 柔らかい笑顔を崩さず、老人は煙草を灰皿で揉み消す。


「では、中へどうぞ。いくつか条件をお聞かせ願えますかな?」

「お願いします。」

 老人はそう言って俺を中に招き入れた。


 中に入って軽く見渡してみたが、店内はどこも綺麗に整頓されていて店主の性格がよくわかるな。

「そちらへお掛け下さい、すぐに飲み物をお持ちいたします。」

 案内された椅子に腰を下ろして、どんな家がいいかな、なんて考えながら外に目をやると、猫の獣人が楽しそうに羽虫を追いかけていくのが目に入る。首輪は付いていないので奴隷やペットではないみたいだな、人間の町であんなにはしゃいで回る獣人を見掛けるのは珍しい。



 それに目が行ったせいで、結局考えは纏まらないまま。そんな俺の前に戻った店主が静かにお茶を置いた。

「お待たせいたしました。では、早速ご希望の条件をお聞きいたしましょうか。申し遅れました、私、この店の店主をさせていただいております、タークスという爺でございます、よろしくお願いいたします。」

「俺はアレンです、今はクロウですが、辞めて、ここに住もうと思ってます。」

 クロウという単語を聞いて、少しタークスさんの顔が曇る。

「……クロウですか、大変失礼ではありますが、そうなるとご予算はあまり……」

 クロウはその日暮らしの奴が多いので、タークスさんの言いたい事はわかる。が、俺はこの日の為に金を貯めに貯めたのだ。独りで住む予定だったからその後の生活費も考えていたのだが、シヴとキイも協力してくれる事になったのでいっそすべて家に使ってもいいくらいだ。


「予算は1億あります。って言ってもとにかく大きな家が欲しいとかいう訳ではないんですが……。いくつか見させてもらって、気に入った家を買いたいと思ってるんです。」

「なんと1億マグですか、お若いのにかなりの凄腕のようですな……。この町でそれだけあれば大抵の空き物件は予算内に収まりますよ。新築も視野に入れられてもいいと思いますが。」

 タークスさんはかなり驚いている。それもそうか、俺もこれだけ貯めるのにかなり苦労したから胸を張っても文句は言われないだろうと思うが。


「できればすぐに住みたいので新築は考えていないんです、特に拘りもありませんし。」

「畏まりました、ではすぐにご案内できる屋敷をいくつかご紹介いたしましょう。準備をして参りますので少々お時間を頂きます。」


 タークスさんは会釈をして奥に引っ込んだ。ついでに町の案内でも頼もうかな。



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