本戦⑫♦
カローニの突きとナインハルトの突きが両者の間を飛び交い、お互い致命傷を与えられず時間だけが過ぎる。精神力と体力を消耗し、二人の攻防は精度が少しずつ落ち始めていた。受け手側は小傷程度で何とか躱していたのが次第に深くなり、攻め手側は手応えが大きくなる。
(お互い隻腕だが、今のままだとナインハルトが不利だな。)
激しい攻防を続ける二人は互角だが、血を失い続けるナインハルトを見てシヴはそう考える。それは突きの応酬を繰り返す二人も同じ考えだった。
(このままでは消耗の早いのは私の方だ、何かないか……。)
拮抗している今、差が開く前に何か手を打たないとまずいと焦るナインハルト。
カローニはその焦りを見逃さなかった。
力強く踏み込むと、残った力を振り絞って棍を打ち下ろす。
「しまった!」
ナインハルトは追い付けず、肩口にめり込んだ棍の力が伝わるように持っていた剣を落とす。
「終わりだ。」
カローニは先程踏み込んだ左脚に力を込めると、体勢の下がったナインハルトの顔目掛け右の膝をしなやかに伸ばす。それでナインハルトは戦闘不能、試合が終わる。そう思っていた。
「ここだっ!!」
目を見開いたナインハルトは、左拳を握りしめる。
血飛沫が上がり激痛が襲うが構わずに振り下ろし、同時に右膝を突き出してカローニの膝を挟んだ。
ナインハルトは後ろに、カローニは横に倒れる。
即座にシヴは試合の終了を決め、オサモンに合図を出す。
「折れてんだろ、動くんじゃねー。」
肘を付き何とか立ち上がろうとするカローニをシヴが止める。
カローニの膝関節はナインハルトの一撃で折れていた。
「お前さんも治療を急いだ方がいいな。」
「お願いします。」
ナインハルトは起きずにそのままシヴを見る。
「何だよ。」
「あの技、お借りしました。」
「技?」
「はい、オウル試験の時の……。」
「ああ、ありゃ別に俺が考えた訳でもねーし、技って呼ぶようなもんでもねーだろ。よくあの土壇場で出来たなとは思うがよ。」
「顔を下げれば必ず狙って来ると思っていました。半分は賭けだったんですが……。」
「あのままならお前さんの敗けだったからな、博打も悪かねえ。」
見下ろすシヴは不敵に笑い、見上げるナインハルトは満足そうに微笑んだ。
救護班に二人が運ばれて行き、オサモンとシヴは次の試合をどうするか悩む事になった。
ナインハルトもピーニャも傷は深いものの、見立てでは戦闘は可能である。
問題は決勝ではなく、本来なら次にカピロとカローニで行う段取りであった三位決定戦だ。
カローニの負った傷が深すぎる為、試合を行う事は現状現実的ではない。
「弱りましたね。」
「優勝した奴に負けた方が三位じゃ駄目なのか?」
「流石に納得する者はごく少数でしょう。というより本人達が納得しないでしょう。」
「順位なんざどうでもいいと思うがね。」
「賞金の額も違いますし、名声も随分変わってきます。それくらい三位と四位の間には壁があるのですよ。」
「じゃあどっちも三位にするとかよ。」
「勿論それも考えましたが……。逆に両選手に失礼に当たると思いませんか?」
「面倒臭え奴等だな。決勝もすぐには無理だぞ。どの道三位決定戦とやらの前に踊りやら大道芸やら入れる予定だっただろうが。」
「そうですね。出来れば今後の試合予定も併せて告知したかったのですが……。」
オサモンは小さく溜息をつくと拡声器に手を掛け、第三試合が行えるかどうかは未定、だが決勝は間違いなく行える事を観客に告げた。
「連戦となる選手の体調を考慮して、休憩を挟む事はご理解とご協力を賜りたく存じます。代わりに様々な催しを用意しているので、そちらで楽しんでいただけますと幸いです。」