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不死者の町人生活  作者: 旬のからくり
193/209

昼食が来ません

「昨日の失敗は繰り返さないわよ!」

 待機室に戻ると同時に、ミームがそんな事を言い出した。

「本日はすでに私の方で昼食を注文しておりますので、皆様こちらでごゆっくりされるのがよろしいかと。」

 続けてセバスさんがそう説明してくれた。

 要は昨日あんな屁理屈を言っておきながら、ミームも失敗だったと思ってるって事だろ……。


「アレン、脱いだ服くらいきちんと鞄に入れたらどうだ?」

「え?」

 ハバキに言われて俺の鞄を見ると、何故か昨日着ていた服が鞄の上に出ている。

「あれ? 何で昨日の服が……?」

「だ、駄目じゃないですかアレン様。わ、私が畳んでおきますね。」

 これまた何故かローランが慌てて、俺の服を畳んでくれた。

「ん、ありがとうローラン。一番上に入れてたから飛び出ちゃったのかもな。」


「先程の闖入者がしていた覆面によく似た服を持っておいでですな。」

 セバスさんが興味深そうにそんな事を言う。

 まあ確かにローランが顔を覆っていた布に色は似ているが、よくある色だし、流石に俺の汗臭い服なんかわざわざ顔面に巻き付ける必要はないだろ。


「それよりちょっと! 食事が運ばれてくるの遅くない?」

 ミームの機嫌が少し悪いようだ、扉の前に立って腕を組んでいる。

「それは仕方ないじゃろう、厳密に何時から休憩と決まっていた訳ではないのじゃろうし。」

「でもお姉様思い出して? 四試合目が始まる頃にはもう太陽は上に居たわよ? 予測して作り始めるくらい出来るでしょ? 子供じゃないんだから。」

 珍しくミームの言い分にも一理ある。

 といってもこの区画だけでも結構な数の客が居る。これだけの人数分をまとめて運ぶのも無理だろうし、多少の遅れくらいで目くじら立てる事も無いんじゃないかと思うが。


 ハバキがまあまあとミームをなだめていると、扉を叩く音が響く。

「やっと来たわね! 私を待たせるなんていい度胸じゃない!」

 ミームを待たせたところで特に何があるとも思えないが、一応女王だしまあ「失礼よ」くらいは言える可能性も無きにしも非ず。

 ミームが勢いよく扉を開けるとそこには俺達担当の黒服の人が立っていて、流石に少し驚いた顔をしていた。


「早く運び入れなさい!」

 何かを確認するとかではなく、開口一番にそう言い放ったミーム。

「運び入れるとは何の事でございましょうか……?」

 しかし黒服の人は、どうも食事を運んで来たわけではないらしい。

「何って料理を持って来たんじゃないの!? じゃあ何しに来たの!?」

「いえ、私はお食事のご注文等はよろしいのかとご確認に参った次第でして。」

「注文ならとっくにしてるじゃない! 休憩時間になれば部屋に運ぶように頼んだでしょ!」

「ええ、ミーム御一行様の待機室へは随分前に運び入れております。私はハバキ御一行様への確認を……。」

 そこまで聞くとミームが固まり、何とか目線だけで首を傾げているセバスさんの方を見る。


「ふむ……。そういえばこちらの部屋にとはお伝えしておりませんでしたね。」


「…………セェーバァースゥーっ!!」

「失礼、すぐにお持ち致します。」

 華麗な動きで逃げるように部屋を後にするセバスさんと、それをバタバタと怒りの形相で追うミーム。

 二人が出て行った後に少しの静寂があり、キイがおもむろに口を開いた。


「この部屋は食事の注文はせぬから大丈夫じゃ。先程頼んだ飲み物をもう一杯ずつ持って来て貰っても構わんかの?」

「畏まりました。」

 淡々と告げるキイに淡々と業務をこなす黒服の人。

「ああ、扉は開けておいて構わん、すぐに両手に料理を持ったセバスが現れる筈じゃからの。」

「では、失礼します。」

 黒服の人が去り、キイは小さな溜息をつく。


「……ぶふっ、間違っ! ぅぶふふっ……。」

 ローランがこらえきれず吹き出し、それを合図に固まっていた全員の力が抜ける。

「いや、よく冷静に処理できたなキイ。」

 特に感情が動いていなさそうなキイに尋ねる。

「百年は見たのじゃあのやりとり。もう慣れたわ。」

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