本戦を見学します④
四回戦はホドリという長身の魔族と、前大会覇者のカローニの組み合わせだった。
ホドリの身体の柔らかさには驚いたが、それよりもっと驚いた事がある。あろうことかカローニは、ホドリを腰から真っ二つにしてしまった。
「なんと、シヴはカローニの勝ちとしたようじゃぞ。」
「いやいやそれは駄目だろ。流石に誤審として訂正されるんじゃないか?」
そう思ったのだが、しかし予想も虚しく、オサモンさんはカローニの勝利を宣言してしまった。
「第四試合! カローニ選手の勝利!」
こうなってくるともう何でも有りじゃないかとも思うが、更に酷い事に誰もホドリを治療しようとしない。
まさかいきなり魔族差別が始まったとも思えないが……。
「アレン様、あの魔族はまだ生きているようですよ。」
ローランがエヌの眼を両手で覆ったままそんな事を言い出す。そりゃ即死って事はないだろうけど。
「お主と似たような境遇ではないのか?」
「え?」
あの魔族が俺と同じ呪いに掛かってるって事か? いや、ないだろうそれは。
「痛がってはおるようじゃが、事切れそうな雰囲気は微塵も無いのう。」
言われてよく見てみたが確かに。
ジタバタと上半身だけになっても暴れて、何か叫んでいる。
シヴがカローニの腰にぶら下がったホドリの下半身を掴んで投げてやると、上半身は這いずって捩じ切られた腰を合わせて大人しくなった。
「まさか……、あれでくっつくとでも言うのだろうか……?」
俺のせいと言うかおかげというか、そういうのを見慣れているキイは驚きもしないが、ハバキはそんな事にわかには受け入れられないようで、怪訝な表情だ。ローランとかセバスさんは知らない、冷静過ぎる気もするけどアサシンとうん百歳だし胆力が凄いと解釈しておこう。
「ねえ、どうなったの? もう運ばれた? 目開けても大丈夫? ねえ、ねえ。」
意外な事に、というと失礼かもしれないが、ミームはこういうのは苦手らしい。ずっと後ろを向いているが、口ぶりから察するに目も閉じているようだ。
「カローニ様が闘技場を後に致しましたよ。」
セバスさんがどうでもいい報告をしているが、まあ嘘ではない。
カローニはシヴがホドリの下半身を外してすぐ、何も言わずに闘技場を降りて控室の方へ立ち去ってしまった。
「何よそれ、私は魔族の衝撃的な猟奇殺人現場がなくなったか聞いてるの!」
「でしたらもう心配はございませんよ、ホドリ様は元通り、立ち上がろうとしております。」
えっ!?
ついセバスさんの方を見てしまっていたが、慌てて視線を闘技場に戻す。
セバスさんの言う通り、ホドリは立ち上がり何事も無かったかのようにシヴと何か話している。
「やはりあれはお主と同じなのではないのか?」
キイはそう言うが、あれは俺の身体とは違う気がする。何となくでしかないけど、掛けた方にも酷い負荷がかかり続けるあの呪いを、あいつの他に掛けられる奴がそうそういるとは考えにくいんだけど……。
無言になった俺を心配したのか、キイが俺の手にその手を重ねて来る。
「すまん、何か気に障ったかの?」
「ん? いやいや、そういうんじゃないから大丈夫だよ。それよりあのホドリって魔族、随分ごねてるみたいだけどどうなるんだろ。」
「大方こんなに元気なのに敗けにするとはどういうつもりじゃ、とかその辺りの文句じゃろう。身体が分断した時点で戦闘は不可能じゃと判断された以上、今更覆る事もあるまい。」
「死ぬか降参したら敗け。って話なら俺が最強になっちゃうしな。」
「第一回戦はピーニャ選手、第二回戦はカピロ選手、第三回戦はナインハルト選手、第四回戦はカローニ選手! 以上の四名が勝ち進みました! 残す試合もあと四試合、次の準決勝第一試合はピーニャ選手対カピロ選手となっておりますが、開始予定時刻は一時間後とさせていただきます。大変申し訳ございませんが、今しばらくお待ちください!」
オサモンさんが実質休憩時間の宣言をして闘技場を降りる。
シヴは我慢出来なくなったのか、ホドリに拳骨をしてそのまま引き摺りながらオサモンさんの後に続いた。
「なんだあれ。」
ここからだと雰囲気だけだが、ホドリとシヴは随分仲良くなったように見える。そういえばカピロって魔族とも親し気だったな。
「ふふ、色々と懐かれやすい男じゃな。」
「人間の女性にはもてないけどね。」
「それはお主もじゃろう。」
「まあそぅ……」
「そんな事はありませんよ、アレン様。」
そうだけど、って言いたかったんだが何故かローランに遮られた。主を立てるメイドの鑑だよほんと。
「まあ下らない話はいいじゃない、食事にしましょうよ。」
先程迄びくびくしていたミームは、ホドリが無事だとわかるやいなや、何事も無かったかのように元に戻った。
冷やかしの一つや二つ言ってやりたいが、余計面倒な思いをしそうなのでやめておく。
「そうだな、昼食にしよう。」
今日は流石にミームも探検しようなんて言い出さず、俺達は誰からともなく待機室へと向かい始めた。