本戦⑥♦
「第三試合、ナインハルト選手対ニイル選手の試合結果は、審議の結果……、ナインハルト選手の勝利!!」
シヴと共に再び壇上に戻ったオサモンは、ナインハルトの勝利を観客に告げる。
ニイルに賭けていた者達の一部が不満を漏らしたがそれも少数で、殆どの観客は納得し歓声をあげた。
「続きまして第四試合! 不可思議な動きで相手を翻弄し、一度極まったその技から逃れるのは難しい。素顔を隠し謎に包まれた魔族、ホドリ選手! 対するは最早説明するまでもありません、彼を見る為にお越しいただいている方も少なくは無いでしょう! 前大会の覇者カローニ選手!」
ホドリは魔族という事と、予選で派手な事はしていない事、更にその風貌も相まって支持者は余りついていない。
対してカローニの紹介が入ると、観客達は湧き上がった。
「凄い人気だねえ、君。」
入場しながらホドリはカローニに話し掛けたが、カローニは沈黙で返した。
「寡黙なんだね、悪いとは言わないけど。」
少ないながらも、自分に向けられた激励の声には手を振り応えるホドリ。
二人は闘技場に上がると、シヴからの説明もそこそこに開始位置についた。
オサモンの号令で試合は開始されたが、カローニは武器である棍を構えた状態で微動だにしない。長髪でその眼も隠れており、先を読むのは難しかった。
「ねえ審判、どうやって攻めたらいいと思う?」
「知るか!」
カローニから打って出て来る気は無さそうなので、ホドリは冗談を飛ばして隙を見せた。
「駄目か。」
しかしカローニが動く気配は無く、ホドリは仕方なく革紐で手首にぶら下げていた巨大な針のような武器を両手に握る。
「何をする気かわからないのはお互い様だよねえ。」
ホドリはそう言うと鞭のように長い腕をしならせ、カローニに叩きつける。
「!」
カローニはそれを棒で打ち返すと、そのまま踏み込みながら腰を捻り、ホドリの胴を狙って棍を薙ぐ。
確かに棒はホドリに当たったが、それと同時にカローニの踏み込んだ脚をホドリの左手が掴んだ。
「痛いけど我慢。」
ホドリはカローニの脚を引き、密着しようと試みる。
しかしカローニはそれに逆らわずに体重を預けると、棒で地面を力強く突いてホドリの脚を引く力に、敢えて力を加え加速させる。
「えっ」
手応えなく引き寄せられたカローニに戸惑い、ホドリは予定していた次の行動の時期を逃す。
そのままカローニはホドリの胸に踏みつけるように蹴りを入れると、仰向けに倒れたホドリの上に立つ。同時に棍をホドリの首元に突き付けたが、シヴは決着の判定を出さない。
その事を不審に思ったカローニだったがすでに遅く、ホドリの脚はカローニの腰に絡みつき力を増し始めていた。
カローニはやむなく棍を握る手に力を込め、ホドリの喉を突く。首を覆う包帯が棍ごと喉にめり込み、ホドリの脚から力が抜ける。
カローニは審判であるシヴの判断力の無さに憤っていた。
「すまないな。」
シヴの判断が誤っていた事が原因で起きた悲劇とはいえど、ホドリを思いカローニはそう呟いた。
しかし、棍を引き抜こうとしたカローニに予想外の事態が起きる。
腰に絡みついたホドリの脚にもう一度力が宿り、カローニの身体を締め付け始めた。
「!?」
確かに棍は喉へと突き込んだ筈だが、弱まるどころかむしろ先程より強くなっている力に困惑しながらも脱出を試みるカローニ。
「無駄だよ。もう完全に僕の距離だからね。」
死に至らずとも重症である事は間違いないと思っていたホドリが、何食わぬ顔で話し掛けて来た事で更に驚くカローニだったが、ホドリの次の言葉で審判ではなく自分が判断を間違っていたと痛感する。
「ごめんね、僕作られた時から骨が無くてさ。」