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不死者の町人生活  作者: 旬のからくり
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本戦を見学します③

「結構経ったけど……、大丈夫なのかローラン。」

 闘技場に突如現れて黒煙を発生させながら消えて行ったローランは未だに出てこない。

「考えられるとすればシヴに会いに行ったという事だけじゃが……。」

 レイラさんならまだしも、ローランには恐らく医術の心得は無いだろうし、ナインハルトの治療に走ったとは確かに考えにくい。わざわざ容体を確かめる為にこんな事をするとも思えないし。

 かといって誰かを始末しに行ったというのはもっと不自然だ、仮にハバキが命令していたとしてもこんな目立つ方法では暗殺とは言えないだろう。


「ローランが考えもなしにこのような事をするとは思えない。全てに必要性がある筈だ。」

 ハバキもそう言いながら、頭の中では可能性を探っているようだ。


「お待たせ致しました。お飲み物をお持ちしましたよ。」

「うわっ!」

 皆が色々と考えを巡らせている中、何食わぬ顔で飲み物を持って戻ってくるローラン。


「いかがされました?」

 全員がローランを丸い目で見る中、当の本人は首を傾げて白々しく惚けて見せる。

「如何されましたじゃないよ、何やって来たんだ?」

「何とは何の事でしょうかね。私はこの通り、皆様のお飲み物をお持ちしただけですが。」

 話せない事なのか話したくないのか分からないが、あれだけの騒ぎを起こしてそれは通じないだろう……。

「顔は隠してたけど他の部分全く隠してなかっただろ! あんなんで誤魔化せると……」

 そこまで言い掛けると、大会関係者の声が会場内に響き渡った。


「会場の皆様、ご心配をおかけしました。先程侵入した賊はすでに捉えられており、この後も大会へは何の支障もございません。但し第三試合の審議については中断を余儀なくされており、今しばらくお待ちいただけますようお願い申し上げます。」


「あら、そのような者が現れたのですね。ですがもう捉えられたようですから何の心配もなさそうですね。」

 そう言って作り笑顔を浮かばせるローラン。

 いやだからそれはお前だろうが!

「何で捕まったって発表してるのかは分からないが、紛れもなくあれはローランだったろ。何をしに行ったのかだけでも教えてくれたっていいじゃないか。」

 俺達の身内以外にはばれてない……、とも言い切れないが、何であんな事をしたのかだけは気になる。


「ですから私は皆様のお飲み物をご用意しただけです。しかし……。」

「しかし?」

「あくまで私の勘ですが、ギルドマスター様のお身体はおそらくご無事。魔族の方々も沢山お見えですから、身体強化のお薬を持ち込んでいる方がいてもおかしくはないでしょう?」

「ふむ、そういう事じゃったか。」

 関係ない話ではぐらかされたが、キイは何故か得心がいったようだ。


「そういう事ってどういう事?」

 ローランに聞いても埒が明かないので、キイに尋ねてみた。

「先程のはローランによく似てはおったがローランでは無い。おそらく義憤にかられた何処ぞの魔族か何かじゃろ。のうローラン?」

「先程のと言われましても私は見ておりませんので何とも。ですがおそらくキイ様の予想通りでしょうね。」

 何だこの二人、いきなり結託したぞ。


「件の魔族はの、ナインハルトを治す為に貴重な薬を届けに行ったのじゃよ。仮にじゃが、ワシがその薬をオサモンに届けてくれ、と先の黒服に渡したとしたらどうなると思うかの?」

 そりゃ、一々調べもせずに真っ直ぐオサモンさんの所に持って行くとは思えないから、一度安全な物か調べてからか、最初から断るか、受け取っておいて捨てるか……。ああ、そういう事か。


「俺達にまで隠さなくていいだろ別に。悪い事してるんじゃないんだし。」

 俺はローランから渡された飲み物を一口飲んでから、ローランの頭に手を伸ばす。

「プリムが曲がってるぞ、メイド失格だな。」

「ふふ、ありがとうございます。」

 ローランはそう言って微笑んだ。


 その後席について、暫く闘技場を眺めていたらオサモンさんとシヴが出て来て拡声器に手を掛ける。

 どうやら審議の結果が出たらしい。


「第三試合、ナインハルト選手対ニイル選手の試合結果は、審議の結果……」

 観客達が息を飲んで静まり返る。勿論、俺達もその中に入っている訳だが。


「ナインハルト選手の勝利!!」

 歓声と不満の声が入り混じり、観客席が湧く。


「おおっ!」

「やりおったのう。」

「私は信じていたよ。」

「やるじゃない偽エルフ!」

 皆が口々に感嘆の声を漏らす中で、偽エルフ? いや、この際ミームの発言は無視だ無視。


「しかしそうなると、三試合後にはもう一度出場されるという事になりますね。」

 セバスさんの言葉にハッとなる。

「そういやそうだ、闘えるんだろうか。」

「そればかりは出て来てみない事にはのう。ニイルを差し置いて駒を進めさせるという事は、意識が戻ったという事なんじゃろうが。」

 シヴに話を聞きたいが、それも出来ないしな。

 いっそ俺も覆面してあそこに飛び込んでみるか……。いや、飛び降りた時点で脚を捻る自信がある。最悪折る。

 もやっとするが、その時を待つしかないか。

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