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不死者の町人生活  作者: 旬のからくり
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本戦を見学します②

 ナインハルトとニイルが闘う第三試合の結果は審議になったらしい。

 ニイルの激しい攻撃に耐えきって、最後に繰り出した突きがニイルの胸を貫く寸前、シヴがナインハルトの剣を斬り飛ばした事でニイルは死なずに済んだ。流れ的にはそう見えた。

 俺はナインハルトの勝ちだと思ったんだが、やはりあれは殺意があったと見られたんだろうか?

「どう見ても心臓を狙っていたようには見えたが……。」

 ハバキもそこが争点だろうと言う。

「しかしじゃ、それならあの場でナインハルトの負けになる事に審議の余地はないじゃろう?」

 キイの言いたい事もわかる。

 要はナインハルトの殺意がシヴに感じられなかったって事なんだろう。ナインハルトがそんな人間じゃない事は俺達もよくわかっているつもりだ。


「こればかりは結果が出るまでわかりませんね。」

 ローランはそう言うと、中断している時間を利用して皆の飲み物を注文すると言い残し、待機室へと向けて出て行った。


 一試合目は肩に大怪我を負いながらも、ピーニャがタロスを押し切り勝った。

 町で見かけた時、子供扱いした事で怒らせなくて本当に助かったと思う。


 続く二試合目では大方の予想通り、有効な攻撃手段を持たないアーダーさんはカピロという魔族に負けてしまった。

 ミームは落胆するかと思ったが、意外な事にあの巨体を地面に転がす程の体術にいささか感動したようで、良く闘ったわ! とか言って満足そうに拍手していた。


 昨日の予選と違って今日は血の気が引くような場面もそれなりにあるが、常にシヴが選手の間に居るので最悪の展開はないだろうと思いたい。


「ナインハルト様と仰いましたかな、先程の。」

 こういう時はあまり口を開かずに静観しているセバスさんが、珍しく自分から会話に混ざってくる。

「そうです、俺達が居る町のギルドマスターなんですよ。」

「審議の結果は別として……、少々心配ですね。」

 確かにな。最後にあれだけの一撃を出せたとはいえ、ニイルの打撃をまともに貰っている訳だし。


「担架に乗せられてましたもんね、骨とか折れてなければいいですけど。」

「骨……、も勿論そうですが、鳩尾に貰った打撃で気を失っています。横隔膜、肺、心臓。どれか、若しくは全てにかなりの損傷を受けた筈ですよ。」

「え!?」

 気を失ってた? ナインハルトが?

「お気付きではありませんでしたか?」

「いや、でも動いてたじゃないですか。」

「だから危険だと言っているんです。どうやったのかはわかりませんが、本来なら動かないものを無理やり動かしている。治療の遅れが命取りにならなければいいのですが。」

 そうだったのか……。さっきの考えは取り消しだ、シヴが横に居ながら何て様なんだ。


「その話が本当じゃとすると、かなり心配じゃの。」

 キイの表情も曇る。

「セバスが言ってる事なんて本当か嘘かもわかんないじゃない! セバスもセバスだけど信じる方も信じる方よ!?」

 何も知らないミームはそう言うが、俺達にとっては信憑性が高過ぎてむしろ嘘であって欲しいくらいなんだよ。


「しかし様子を見に行く訳にもな……。」

 ハバキが言うように、出来る事は無いが駆けつけてやりたい。しかしそれも出来ないのでやきもきするな……。


 ミーム以外の全員が同じ気持ちだろう、少しの間沈黙と重い空気が場を支配する。

 しかしそれは唐突に、エヌの声でかき消される事になった。

「あっ! ローランお姉ちゃん!」

 俺達の目が一斉に闘技場の方へ向かう。

 顔は布のような物を巻いて隠してはいるが、そこには確かに見慣れたメイド服の女。先程飲み物を注文すると言って出て行った筈のローランの姿があった。

「何をやっているんだローランは!?」

 そんな事誰にもわからないと思うが、言わずにはいられなかった。


 おそらく一般客席から飛び込んだんだろう、すぐに気付いた警備や関係者がローランを捕まえようと闘技場へ集まる。

 ローランは追い付かれる事無く、入場口を護るように立ち塞がるオサモンさんの部下の頭を踏んで飛び越えると、黒煙が出るあの瓶をまき散らして扉の奥へ消えて行った。

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