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不死者の町人生活  作者: 旬のからくり
183/209

本戦③♦

「第三回戦! その突きは鋭く、正確無比! ダコタの町のオウルとして長きに渡り活躍し、現在はギルドマスターの座に就いているナインハルト!」

 オサモンはダコタで五体満足で生き続けたナインハルトを評価していた。

 オサモンの煽り文句に、ダコタの噂を聞いた者は唾を飲む。

「そして魔族の王、タイラーの娘ニイル! その力に恐れおののいた他の選手達は戦意を喪失し、一度もその手を揮うことなく決勝へと勝ち上がった美しき未知の存在!」

「へっ、物は言いようだな。」

 横で聞いていたシヴが悪態をつくが、ニイルの強さが少しもわからないままで今を迎えてしまった為、オサモンは誤魔化す他無かったのは事実。しかし魔王の娘という言だけで期待感を煽るには十分であった。


「ナイン、お前さん相手が女だからって手を抜こうとしてねーか?」

 神妙な面持ちでニイルを見つめるナインハルトに、シヴがそう声を掛ける。

「……そうかもしれません。」

 自分の甘さを理解しているナインハルトはそう答えた。

 予選でピーニャと相対した時からすでにその兆候は出ていたのだが、シヴはタロスの事を思い出し助言する。

「この場所に居る奴に男とか女とかは関係ねー、お前さんが手を抜けばそれはあいつへの侮辱だ、わかるだろ? 予選で手抜いて怒らせた事忘れたのか?」

「頭ではわかっています、ですが女性に消えない傷でも負わせてしまえば……。」

「シヴ、その男は知り合い?」

 ニイルがシヴと親しそうに話すナインハルトを見て少し不機嫌になる。


「俺が所属するギルドのギルドマスターなんだこいつは。」

「そう、じゃあ私も手加減してあげるわね。」

「!?」

 見下しながらのニイルの言葉にナインハルトの表情が曇る。

「そういうこった。相手を思いやるのは結構だがよ、皆が皆感謝するとは限らねーんだよ。」


 ナインハルトは無言で開始位置に向かう。

「怒ったの?」

 ニイルはナインハルトの背中を見ながらシヴに尋ねた。

「いや、そんな奴じゃねーよ。自分には怒ってるかも知れねーがな。お前さんもさっさと位置に付け。」

「私が勝ったら結こ……」

「断る。」

 ニイルの言葉を遮ったシヴだが、子供のようにむくれるニイルを見て、仕方なしに言葉を続ける。

「まあ優勝したら飯くらいは付き合うよ。」

「本当!? わかった、すぐに殺して来るから。」

「殺したら駄目だっつってんだよ馬鹿魔族共!」

 冗談よとでも言いたげな顔を作ってニイルも開始位置に着く。


「はじめえええ!」

 剣を構えたナインハルトへ、オサモンの号令とほぼ同時にニイルが仕掛ける。

「すぐ終わる。」

 ナインハルトの突きを警戒して、低空を高速で飛び背中に回り込んだニイルは、この大会で初めて自らの手で攻撃を繰り出す。それは速度を乗せた真っ直ぐな拳。

「くっ!」

 何をしてくるのかと警戒していたナインハルトは、手甲で受け止めつつも、魔族の姫が出す攻撃がただの打撃だった事に驚いた。

 地に足を付けたニイルは、流れるように技を繋いでいく。左の拳が止められれば右の脚が飛び、それを躱されれば回転して裏拳を伸ばす。

 一撃一撃はそう重くは無いが、その速度にナインハルトは防戦を強いられることになった。


 しかしいつまでも防ぎきれるものではなく、ニイルが刹那に見せた左脚への誘い水にナインハルトは引っかかってしまう。左に意識が向かったナインハルトの右頬へ、ニイルの左拳が刺さった。

 咄嗟に首を左に振って威力を抑える事に成功したが、死角が広がり大きな隙を作ってしまうナインハルト。

 左拳を振りぬいたニイルは、勢いそのまま一回転し右の踵をナインハルトの側頭部に打ち込む。

「ぅぐっ!?」

 想定していたより遥かに威力の乗った打撃をまともに貰い、ナインハルトは大地を滑る。


「立てるなら立ちなさい。」

 追い打ちの好機だが、ニイルは手を出さずナインハルトが立ち上がるのを待った。困惑しながらナインハルトは立ち上がる。

「……何故? これが手加減だと言うのですか?」

「違う。這いつくばっている相手を倒すのは嫌いなの。」

 起き上がれなければ自分の勝ちで終わるが、起き上がれるなら闘いは継続。ニイルなりの美学であった。

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