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不死者の町人生活  作者: 旬のからくり
181/209

本戦①♦

 昨日の予選と違い、本戦の行われる今日は八人の選手それぞれに控室が与えられていた。控室の窓からは闘技場が見えるので、選手達は控室から試合を見る事が出来る。

 その八部屋の内の二部屋、ピーニャとタロスの部屋の扉をオサモン配下の男が叩く。

「そろそろお時間です、ご準備が整い次第闘技場の方へお上がりください。」

 それぞれに同じ文言を伝えると、男は闘技場への入り口に立ち二人を待つ。


「では、私達は上で待ちましょう。」

 配下の男が二人に声を掛けて来たのを確認したオサモンは、シヴと共に闘技場へ上がり、歓声が収まるのを待って拡声器に手を掛ける。向う正面には配下の男、その横にピーニャとタロスが並んでいるのが確認できた。


「ご武運を。」

 オサモンが拡声器に手を掛けるのが登壇の合図になっており、それを見たオサモン配下の男は二人を闘技場へと促す。

 観客達の歓声に包まれながらシヴ達の元へと向かう二人だが、ピーニャは観客席を見回しながら拳を上げて歓声に応え、タロスは何を言われようと黙殺して視線すら向けようとはしなかった。


「ではこれより、予選を勝ち上がった八名の強者による、闘技大会本戦を開始いたします!」

 オサモンの宣言で会場は更に沸き立つが、オサモンは気にせず声を張る。

「第一試合は三人同時に相手取りながらも、かすり傷一つ負わずに勝利を収めた体術の達人、魔族の雄タロス!」

 タロスは微動だにせず静観する。

「闘技場を縦横無尽、疾風迅雷で駆け抜け、可愛らしいその見た目からは想像できない必殺の一撃を繰り出す獣人、ピーニャ!」

 ピーニャはオサモンの紹介を受け、両手を大きく振って応えた。


「昨日散々言ったからわかってるとは思うがよ、殺すな。今日は一対一だから俺も余裕があるし、ある程度は目を瞑るがな。」

 すでに抜剣しているシヴから最後の警告を受け、二人は開始位置に付く。

 予選と同じく闘技場から降りたオサモンが試合開始を告げ、銅鑼が鳴り響いた。



 様子見等する気が無いピーニャは、開始の合図と同時にタロスに向かって突撃する。

 タロスはすぐに羽根を広げ上空に飛ぶが、ピーニャは勢い任せに地面を蹴り中空のタロスへ向けて跳ね上がった。

「鳥を狩るのは得意にゃよ!」

 ピーニャの右脚が伸び、その蹴りがタロスに届く。

「一緒にされないでいただきたい。」

 タロスは膝を曲げ、脛の装甲でピーニャの蹴りは受け止めたが、砲弾のように飛んで来たピーニャと共に山なりに地面に向かって押されていく。放物線の頂点を境に、二人の天地が入れ替わる。

 上を取ったピーニャは、左脚を伸ばし空中でタロスを踏みつけようとするが、タロスは上体を反らしながら右足を蹴り上げ、先程受け止めたピーニャの脚を払った。

 ピーニャからの荷重を受けなくなったタロスは空中で体制を立て直し、ピーニャは一人地面に落ちるが、転がって衝撃を殺した事で無傷のまま立ち上がる。


「他愛もない!」

 タロスはすぐに急降下、足の鉤爪がピーニャの背中目掛けて迫る。

「へっへーん! かかったにゃ!」

 ピーニャは振り返りながら脚を踏み込むと、タロスを引き付けてからその鉤爪に交差させるように、右手の爪を勢いよくぶつけながら跳び上がった。

 タロスは迎撃されたものの、お互い爪と爪なので外傷はない。が、下から脚を跳ね上げられたので体制を崩し、今度はタロスが地面を転がる事になる。


「ピーニャは手にも足にも爪があるんだにゃ。」

 手を付いて立ち上がろうとするタロスに向かって、ピーニャは腰に手を当て得意気にそう言った。

「そんな事、一々言われなくても知っています。」

 タロスはそう返しながら立ち上がったが、ピーニャの爪の硬度に関しては予想外だった。金属で出来た鉤爪をはじき返しておきながら傷一つ付いていないとなると、不用意に近付くのはあまり得策とは言えなくなる。


「弱りましたねえ……。」

 武器は五分、しかし身体の速度や反応の速さではピーニャに分があると分析したタロスは、少し浮き上がり徐々に距離を取ろうとする。

「あ! 逃げても無駄にゃよ!」

 大地を蹴りタロスへと走るピーニャ。

 高度を上げた所で先と同じく空中迄追って来るのは分かり切っているので、タロスは仕方なく着地し、片膝を上げて待ち構えた。

「そおおおっ! れっ!」

 走って向かって来ていたピーニャはすでに宙に浮いており、両足を伸ばして肩から突っ込んで来る。


「爪で来るんじゃないんですか!?」

 あれだけ爪を自慢していた癖にまさかの体当たりがくるとは思わず、一瞬反応が遅れるタロス。

 しかし冷静さは失っておらず、それならばとピーニャの肩を目掛けて鉤爪を突き出す。


 鉤爪はピーニャの肩に刺さり、確かな手ごたえがタロスに伝わる。

 タロスは突き刺した左脚を軸に右脚を薙ごうと力を込めるが、目論見は失敗に終わる。

「何故止まらないんですか!」

 ピーニャは右肩にタロスの鉤爪を食いこませたまま、再び地に足を付け勢いを殺す事無く猛進した。

 逆に地に付いていた右脚を宙に浮かせてしまったせいで、抗うことも出来ずタロスは押されていく。

 伸ばしていた筈の左脚の膝はくの字に曲がり、タロスの身体がピーニャに近付く。


「痛みは一瞬! 名誉は一生! 狩りでの傷は勲章にゃ!」

 顔を上げて肩越しに見えたピーニャの顔は、痛みに苦悶している表情ではなく、勝ちを確信した笑顔だった。

「くっ!」

 突き刺し掴んでいた鉤爪を緩め、空へと逃げようとするタロス。

 その力の動きを感じ取ったピーニャは、タロスの足が自分から離れた瞬間を狙って上体を下げ、斜めに跳ぶ。

「痛いにゃよーっ!?」

 ピーニャはそのまま空中で前転、振り下ろされた踵がタロスの腹に突き刺さる。

「!!!?」

 腹に激痛を覚えながら背中から地面に激突するタロスと、肩から血を噴き出しながらも難なく着地を決めるピーニャ。


 動けずにいるタロスの横にピーニャが近付きしゃがむと、笑顔でタロスの顔を覗き込む。

「鳥を狩るのは得意にゃよ。」

「それ、は……もう……、き、聞きま……した……よ……。」



「最初から舐めてなけりゃお前さんにも勝ちはあったんだがな。まあよく闘ったんじゃねーか、動くのが嫌いなお前さんにしてはよ。」

 シヴは試合終了の合図をオサモンに送り、タロスを抱えて救護班の元へ行く。


「何だよ、お前さんも心配だったのか?」

「ニイ……ルさ……」

 担架を持つ救護班の後から、ニイルがゆっくりとタロスの元へやって来た。

「タロス、いい試合だった……。見直したぞ。」

「有難きお言葉……。」


「へん、素直じゃねーなお前さんらは。」

 シヴはオサモンと共に闘技場へ戻り、オサモンはピーニャの勝ちを宣言する。本戦第一試合は獣人の娘の勝利で幕を閉じた。

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