本戦を見学します①
「では、失礼致します。ご用命がございましたらお呼びください。」
「ご苦労様です。」
昨日と同じ黒服に昨日と同じ部屋に通された俺達は、荷物を置いて部屋を出る。
口直しに買った飲み物はどこかの地方の果物をすり潰した物らしく、これはこれで美味い。
「試合の順番はどうなっておるのじゃ?」
キイが知ってて当たり前のように俺に聞いてくるが、こんなこともあろうかと更新された案内書を待機室で見付けて持って来ておいた。
「ちょっと待って、今見るから。えーっと……、全部で八試合だな。」
「今日も敗者側に救済は無しという事じゃな。」
「みたいだな。」
まず昨日勝ち上がった選手で四試合、その勝者で二試合やって、三位決定戦と決勝で合計八試合みたいだ。
「組み合わせは書いておらんのか?」
「書いてるよ、最初はタロスとピーニャみたいだな。」
「これはまた……、全く読めんの。」
正直言うとどの組み合わせも予想がつかないんだけど、取り敢えず第一試合はピーニャを応援しよう。
「アーダーさんは二試合目だよ、でかい魔族とやるみたい。」
「ああ、それは無理じゃな。避けるとか相手の力を利用するとかの次元じゃないじゃろうあれは。」
同感だ。
「ナインハルトは三試合目で、ニイルと当たってるね。」
「形は違うがどちらもシヴを崇拝しておる二人じゃな。」
「勝った方がシヴを貰えるとか言い出しそうだな、ニイルが。」
「こんな所まで来て痴情のもつれを見させられねばならんのか……。」
キイはそう言うが、俺は少し楽しみだったりする。どちらが勝っても、結果ニイルがナインハルトを付け狙うようになるとまずいが。
「最後はカローニって人とあの背の高い魔族だな、やっぱり魔族が勝っちゃうのかな?」
「それなんじゃが、カローニという男は昨日最小限の動きで勝ち上がっておる。底が全く見えんから不気味じゃな。」
俺は元々興味が無かったので、知り合いの試合以外はあまり真剣に見てないのだが、キイは見てない振りしてしっかり見てたらしい。
「前回もあんな感じじゃったのか?」
前大会も観戦していたハバキにキイが尋ねる。
「カローニが優勝した前回よりも、今大会では動きにキレがあります。とはいえ、前回も余力は残しつつ危なげなく覇者となっていました。」
「ふむ……。」
強いのはわかるが、知らない人がそんなに気になるものだろうか?
「実は知ってる人とかなのか? カローニさん。」
「いや、全然知らんのじゃ。ただ、何かが引っかかっておるのは事実じゃな。」
俺は全然気にならないんだけどな。
「お姉様! それは恋じゃないかしら!」
昨日に引き続き、自分達の部屋に荷物を置いたらごく自然に俺達の観覧席に現れたミームがそう叫ぶ。
「我が妹ミームよ、ここへ。」
キイが儀式口調でミームを隣の席に誘導する。
「あら何かしら?」
ミームはのこのことキイの隣にやって来たが、その瞬間足をかけられ一般観客席の方へ落ちかけた。その背中をキイが素早く掴み、空中に上半身を乗り出した状態で支えられるミーム。
「ひぃっ! ちょっとお姉様面白くない冗談はやめて! 戻して! 戻して!」
「それはこちらの台詞じゃ。仕方なくこの場に同席する事は目を瞑るが、笑えない冗談は許さんからそのつもりで居るがよい。」
「すいませんでした!」
なんだかキイが怖い。本気で怒らせたら無視じゃ済まないんだな……、気を付けよう。と言ってもミームはそんな怒るような事言ったようには思えないが。
「姉妹と言えど、茶化してはいけない事はあるのですねえ。私もレイラの心の琴線には触れないようにしないと。」
ローランがしみじみとそんな事を言っている。
「何がまずかったんだ今の?」
「アレン様がここに居なければ、今の事件は起きていないと思いますよ。」
「は?」
答えになってないだろう。よくわからんが俺のせいかよ?
「それより、シヴ様とモン様が舞台に上がられましたよ。」
「え? ああ本当だ、もう始まるんだな。」
オサモンさんの合図でタロスとピーニャも入場してくる。昨日より歓声が随分大きいな、本戦だけ見ようって観客もいるのか昨日より動員数も増えている気がする。
「ではこれより、予選を勝ち上がった八名の強者による、闘技大会本戦を開始いたします! 第一試合は三人同時に相手取りながらも、かすり傷一つ負わずに勝利を収めた体術の達人、魔族の雄タロス! 闘技場を縦横無尽、疾風迅雷で駆け抜け、可愛らしいその見た目からは想像できない必殺の一撃を繰り出す獣人、ピーニャ!」
オサモンさんの選手紹介で更に沸き立つ観客席。
一回戦の幕が上がった。