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不死者の町人生活  作者: 旬のからくり
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気にしていた事②

「ど、どうしたんだキイ? 変だぞ?」

 そもそもキイの容姿で老人口調の方が変ではあるんだが、それが当たり前になっていたのでとんでもない違和感を覚えた。

「み、皆がその話し方は変えた方がいいって……、言うからじゃ……。」

 本当に昨晩何があったんだよ。じゃって出てるし。

「キイが変えたいなら別に止めはしないけど……。」

「アレンもやっぱり変だと思ってた?」

 ああ、変だぞってつつかれた訳か。まさかあの面子でキイが弄られてるとはな、どうせミームが発端なんだろう。ミームの存在がかなり恐ろしいのはわかった。トビーより要注意だなやっぱり。

「なんて言うか……、無理して変える程変じゃ無いと言うか、俺はあの喋り方結構好きだよ。落ち着いた性格が伝わるし、安心する……のかな。そりゃ普通に見たら変だし、最初に会った時は驚いたけど。」

 誰かに伝える時は特徴として喋り方が変だって説明する事はあるけど、俺自身は嫌いではないんだよな。


「本当?」

 キイは不安そうな顔をしている。他人の目なんか気にしない奴だと思ってたが、実際はそうでもなかったんだな。

「本当だよ、今のキイはキイじゃないみたいだ。」

 キイの口角がゆっくりと上がっていく。こういうのは味方がいるんだぞって教えてやる事が重要なんだ、間違いない。多分。きっと。

「ふふ、今のは冗談じゃ。驚いたかの?」

 元通りの老人に戻ったキイは俺を置いてテーブルに戻ろうとする。冗談かよ! って言いたいところだが、おそらく冗談なんかじゃないだろう、時折自分の口調を気にしていたのは知っているんだ。

「置いてくなよ酷いな。」

 キイが俺の皿に置いた野菜をこっそり返して後を追う。


 テーブルに着くとミームの頭をキイが引っ叩いていて、それを見てローランがくすくすと笑っていた。

 エヌは食べ進めながらも、未だに料理が消えた謎に頭を悩ませているようだし、ハバキは我関せずを貫いている。

「ローラン、エヌに謝っておけよ。」

「うっ、何の事でしょう……?」

「わかるだろ。食べ放題なんだから自分で取りに行け。」

 よく考えたら気付かないうちに料理を消せる奴なんかお前しかいないだろ。


「む、お主野菜を置いて来おったな?」

「食べたい順に選んだんだ、嫌いじゃなくてもあんなに入らないよ。」

「駄目な奴じゃ、ほれ、ワシのをやろう。」

 そう言いながら自分の皿から野菜を半分、俺の皿に運ぶキイ。

「嫌いな訳じゃないんだって、そんなに食えないよ多分。」

 キイに向かってそう言った時、何かが俺の前を横切った気がした。驚いて皿を見ると、料理が適度な量に調整されている。


「自分で取りに行けって! 二回目だぞ!」

「これでお野菜も食べられますねアレン様。」

 おのれローラン、よりによって俺の中の食べたい順の一位から奪いやがって……。

「ねーいつもこんな感じなの? 凄い楽しそうなんだけどお姉様のお家。」

 そんな訳ないだろ!



 その後ローランは言いつけ通りに取って来ては食べ取って来ては食べを繰り返し、ミームとセバスさんが化け物を見る様な目でローランを見始めた頃、他の宿泊客との交代の時間になった。

 宿には想定以上の客を無理矢理泊めているらしく、時間で区切って食堂を回しているんだそうだ。

「よし、じゃあそろそろ会場の方へ行こう。アーダーさんは難しいらしいが、ナインハルトとピーニャには優勝の可能性が十分あるって昨日シヴが言ってた。応援するぞ。」

「ちょっと! 始まる前からエルフの負け宣言はやめてよね!」

「陛下、残念ですが事実です。魔族の方々が予想外過ぎます。」

 そうなんだよ、酷だけど避けるだけじゃなあ……。地面をぶっ壊すのを避けろなんて無茶言えないし。

「わかるけど! わかるんだけどさ! わからないじゃない!」

 どっちなんだよ。


 荷物を受付に預けて宿を後にした俺達は、朝から元気に営業中の露店で珍しい飲み物を買って会場に向かう。

「美味しいですねこれ、でもこの味はどこかで……。」

 ローランが受け取ってすぐに一口飲んでそう言う。俺も飲んでみたが、確かに知っている気がする。

「うん、なんだっけこの味。最近味わったような気が……。」

 他の皆も俺に続いて次々と口に含む。キイが先にエヌに飲ませてやろうと渡した所で、ハバキが血相を変えてそれを取り上げた。

「何をするのじゃ!?」

「キイ殿! これはあれです! 月食蝶の!」

「なぬっ!」

「あー! それですね! さすがはハバキ様!」

 飲んじゃいけない奴なのか? いやでも売ってるんだしなあ。ローランは合点がいったのか更に口を付けてるし。


「子供には飲ませられないとかなのか?」

 俺ももう一口飲んでハバキに聞いてみる。

「思い出せないのかアレン? 馬上で食べたローランのあれだ。」

 ああ! 少し薄くして飲み口さっぱりに仕上げているが、あれだ確かに。

「言われてみればそうだな。うん、美味い。」

 俺とローランだけが変わらず飲んでいるが、ミームは口を押さえてセバスさんに渡しているし、キイはまだ口を付けていないからと他の飲み物と交換していた。嫌いなのかこれ? 美味いのに。


「本当に各地から色々な物が集まるのですね、こんな調理の仕方は知りませんでした。」

 飲み終えたローランが頷きながら、空になった容器を見て頷いている。

「好き嫌いはあまり感心できませんが。」

 ミームから飲みかけを受け取ったセバスさんも、特に何事も無く飲んでいる。

「いやいやいや、無理でしょあんなの! やっぱりお姉様よりローランが一番変よ! セバスは分かるけどアレン君も普通に飲んでるしおかしいわよ!」

「ミーム、アレンは月食蝶を知らんのじゃ。」

 キイが聞きなれない虫の名前を出すと、ミームは憐れんだ目で俺を見た。


「アレン君は知らないのね、知らない方が幸せな事もあるわよね……。」

「何なんだよさっきから。いい加減教えてくれよ。」

「では私がお話し致しましょう。」


 それから会場までの道中で、今まで何度か聞いたがはぐらかされ続けて来たこれの正体をセバスさんから聞いて、少し気分が悪くなった。しかもその幼虫の容姿を事細かに説明してくれたものだから、みんなの反応も納得って所だ……。

「ローラン、どんなに美味しくてもうちの食卓には並べないでくれ……。」

「お約束は出来かねます。」

 冗談だろ。

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