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不死者の町人生活  作者: 旬のからくり
177/209

共通点♦

「こういう雰囲気はやはりいいものだな。」

 全員がまとまって寝られるように全てのベッドが隙間なく付けられ、その上に座るハバキが楽しそうに呟く。

「言った通り、今日は身分とか関係ないからね。気を遣うのは無し! いい?」

「はい、もちろ」

「はいじゃない!」

「あ、ああ、わかっているとも。」

 ミームは折角だから堅苦しくなくこの夜を楽しもうと提案していた。ハバキとローランはこれを、親睦を深めるためのミームの気遣いだと受け取っていたが、ミーム自身はそんな事を考えてはいない。単に面倒だっただけである。


「身分がなくとも年齢ならワシとお主が一番上なのじゃから、別に敬語でもおかしくはないじゃろう。」

 ミームに見えないようにエヌの髪を梳きながらキイはそう言った。

「そういうところよお姉様? ただでさえジジイ語なんだからせめて気持ちくらいは若くないと。」

「お主はもう少し成長すべきじゃと思うがの。」

 エルフの姉妹のやり取りを見て、後ろからそっと近づく者がいる。

「まあまあいいじゃない二人共、今だけはただの友達って事で。ね?」

 ローランは即座に馴染み、二人の背中を叩きながらそう言った。

「お主は適応力が高すぎるじゃろう……。」

「いいわねローラン、その感じよ!」

 キイは呆れたがミームは満足して頷いた。


「じゃあまずはハバキとトビー国王の馴れ初めから聞いちゃいましょうか。」

「なっ!?」

 ミームは唐突にハバキを標的にする。

 ハバキとトビーの話はマナを通して聞いてはいたが、あの日は声を出してはならなかった為、細かく聞き返したいのを我慢していた。そういう話に目が無いミームは、今こそ根掘り葉掘り聞いてやろうとこの部屋割りを強行したという訳だった。

「キ、キイ、もしかして昨夜ミームに話したのか?」

 ハバキは勿論ミームがあの日地下で聞いていた事は知らない。あの場に居たのはハバキとトビーを除いて二人、更にミームに直接繋ぎが取れる人物となるとキイだけだ。

「む……。一応話しておいた方が良いかと思っての。これから密な付き合いになるのじゃし。」

 キイはミームの頭を叩きながら、仕方無く話を合わせる。

「そ、そうか……。そうだな。隠すような事でもないし何でも聞いてくれ。」

「そうこなくっちゃ! じゃあまずは……。」


 しばらくハバキはミームの質問攻めにあったが、そもそもハバキもそういう話を恥ずかしがる性格ではない。臆することなく返答し、時には聞いている側が恥ずかしくなるような事もありながらも、赤裸々な告白を終えた。


「トビー君には一度会った事があるけど、そんな風には見えなかったわね。」

 キイからミームに女王の交代があった時、トビーは第三王子として一度エルフの国に訪れている。

「ビーちゃんは恥ずかしがり屋なんだ。仮面の奥の本当のビーちゃんを知る事は、今ではとても難しい。」

 瞳を閉じて浸っているハバキ。

「うわっ、こののろけ具合はちょっと引くわね……。」

 流石のミームもローランと目を合わせて引きつった顔をする。が、ローランは特に気にせずににこにこと聞いている。


「キイ、エヌの寝間着。」

「うむ、すまんの。」

 キイがローランから受け取ったフード付きの寝間着を、エヌに着させる。ミームに見られると何を言い出すかわからないのでここは慎重だった。

「可愛いわねそれ、耳付いてるのね。」

 フードには動物の耳を模したものが付いている。ミームはそれを見て微笑ましく思った。

「でしょう? 私が縫ったのよ。」

 この寝間着はエヌも連れて行こうと考えたキイが、地下の服を一着渡してローランに誂えさせた物だが、耳を付けたのは只のローランの趣味である。


「ローランって何でも出来るのね~、美人だし結構もてるんじゃないの?」

 ミームは下衆な笑いを浮かべてそんな事を言い始める。

「そりゃもう、どれだけ殿方に愛を囁かれた事かわからないわ。」

 涼しい顔でそう答えたローランに、ハバキが驚く。

「お、そうなのかローラン? あの激務の中でそんな事まで……。」

「冗談に決まってるじゃない、お金持ちのおじ様からならたまに口説かれるけど。」

「それは雇い主の事じゃろう? そもそもお主を雇う時点で下心がある者も少なくあるまい。」

「何よそれ。」

 ローランにからかわれていたとわかってミームは少しへそを曲げる。

「まあ浮いた話は無いわね、私はまだ処女だし。」

「それを言ったら私も処女なんだけど? お姉様もそうよね?」

「お主達子供の前で何という話をしておるのじゃ……。」

「でも事実じゃない。アレン君とまだでしょ?」

「んななな、何を言い出すのじゃ! あっ、あっ、アレンは今関係ないじゃろう!」

 赤面して挙動がおかしくなるキイ。それを見たローランは腹を押さえて必死に笑いを堪える。

「いや、お姉様取り乱しすぎじゃない……? いつも冷静沈着なお姉様はどこに行ってしまったの……? あ、取り敢えずお姉様も処女確定ね。」

 ミームはそう言うと、ゆっくりハバキを見る。


「な、なんだ?」

 ミームに続いて他二人の視線が集まり、話が理解できていないエヌも何となくハバキを見た。

「大先輩! どんな感じだったか教えてください! できるだけ細かく!」

 ミームがおどけて頭を下げる。ローランは感情の読めない笑顔、キイはハバキから視線を外し興味の無い振りをしようと務めているが、その耳はしっかりとハバキの声を拾おうと向けられていた。



「いや……、その、すまない……。私も……、そういうのはまだ、なんだ……。」

 部屋に静寂が訪れたが、ハバキとエヌ以外の三人は【期待】の二文字が崩れる音を確かに聞いていた。

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