決勝前夜⑥
酒場を後にして部屋に戻った俺達は、セバスさんの淹れた茶を飲んでいる。
キイと一緒は嫌だとか文句を言っていた癖に、結局ミームが女性と男性で別れましょうとか言い出して押し切ってしまったからだ。
「あの二人はいいんですか? 女性ですよね?」
俺とセバスさん、それにエルフの国の御者、ローランの代わりに貿易に携わるエルフの人。後で闘技場へ帰るつもりらしいがシヴもここにいる。ここまではいい、みんな男だ。その他に二人、エルフの女性がいるのだ。
「あの者達はミーム様の側近です。今はシヴ様がいらっしゃいますが、有事の際の戦力はこちらの部屋の方が下。警備を考えているのでしょう。」
まあセバスさんが弱い前提ならそれもそうか。ミームはわからないが、向こうにはキイもローランもハバキもいるからな。
「それとおそらくですが、こちらの部屋で起きた事を報告するよう命を受けているのではないかと。」
なんだそりゃ、陰口なんか言うつもりはないんだけど。
「ああ、あの時椅子の横に立ってた二人か。」
シヴは面識があるらしい。というか側近の顔を今思い出したのか。
「お二人もこちらでお茶飲みませんか? ずっと気を張ってても疲れるでしょう?」
入り口の左右に立たれているとこっちもやりにくいよ。
「無駄でしょう、あの二人は陛下の命令しか聞きません。置物とでも思っていただいて構いませんよ。」
そうだったのか。いや、でも完全に無視しなくてもいいじゃないか……。
「せめてもう少し肌を隠してもらう事は出来ないですかね?」
あの二人は露出が多すぎる。あんな置物があっちゃ目のやり場に困るよ。
「畏まりました。聞こえた筈です、着替えなさい。」
セバスさんがそう言うと二人は揃いの外套を羽織り始めた。その程度の命令ならセバスさんもできるのか。
「しかしお前さん、あの兵士君は勝ち残っちまったけどどうすんだ?」
シヴが言うあの兵士君とは、当然アーダーさんの事だろう。
「正直申しますと、明日は制限時間も無いようなので期待は出来ないでしょう。」
「隠し玉の一つくらいは用意してると思ったが、間に合わなかったのか?」
「実を言うといくつか攻め手も教えはしましたが……、あの面々の中では役に立ちますまい。」
「かもしれねーな。オサモンにゃ悪いがどの国も本気で取り組んじゃあいねー、だがそれでもつえー奴は連れて来てる。」
全種族出場可能にした最初の大会だって事だしな、どこも冷やかし気味に参加してどんなものか探ってる状態なんだろう。突然招待状が来て訝しがりながらも、一応すぐに声がかけられる範囲の実力者は出場させてみようかって感じなんだと思う。
「アーダーに関してはまだまだ伸び代はあります、今後も修練を続けるのかは彼次第ですが。それより明日はシヴ様の方が大変でしょう、休息を取られた方がよろしいのでは?」
「大したこたねーよ。何の因果か知らねーが知った顔が殆どだ。」
「ふむ、流石でございますね。」
俺は直接面識がある魔族はタロスとニイルだけだが、残りの二人もあの日シヴと戦って負けてる筈だ。カローニって人を除いて、他の出場者も顔見知りばかりだから気楽なのは何となく俺もそう思う。
その後貿易に携わる予定のエルフさんも紹介してもらった、医術を教える学校で長年教師をしていたらしい。城内に居る元教え子が推薦して、今回平民から一躍公爵の座に就くことになったという事だ。
とはいえ本人は肩書き自体には興味が無く、見聞を広める機会が訪れた事を喜んでいるようだ。
「もうハバキには会ったんですよね?」
「ええ、先程会場の方で。領主館には人間の医療の識者もいらっしゃるようで、今から楽しみです。」
レイラの事か、腕は確からしいがきっと本人に会うと面食らうだろうな……。