決勝前夜⑤
「そんな事があったのか、火山の噴火そのものを無くすことが出来るなんてな……。」
火龍が居たとはいえ、シヴの出鱈目さにハバキが舌を巻いている。
「ああ、あの男が居なければ……、集落はこの世に存在していないだろう。」
「金剛石って剣で斬れるんですね。」
ローランは結果よりも方法に驚いているようだ。
「帰る途中にそんな事してたのね。」
こっそり聞き耳を立てていたのかミームがそんな事をシヴに言う。
「偶然な。成り行きってやつよ。」
「やってる事は凄いけど、お姉様の下着を運んでる最中だったって考えたら笑えるわね。」
「知らなかったんだからそれ以上言うんじゃねーよ。」
運んでる物の中身を確認してないシヴにも責任はあると思うが。
「とにかくそういう訳でな、シヴは獣人族にとっては英雄の一人だ。アレンが居なければ俺は死んでいたし、シヴが居なければあの地は失われていた。二人に出会えた事は幸運だ。」
ドルフは嬉しそうに酒を煽るが、俺はちょっと気恥ずかしい。
「アレンも何かしたのか?」
ドルフの何気ない一言の中に俺も含まれてるのが気になったのか、ハバキがそんな事を聞いてくる。
「アレンは俺とノノの命を救ってくれたのだ。自分の身を犠牲にしてな。」
「自分の身を? どういう事だ?」
ああ駄目駄目、言っちゃ駄目だよそれは。獣人の王妃様が人間を食ったなんてこんな所で広めていいわけ無いじゃないか、誤魔化さないと。
「毒が思ったよりきつくてね。勿論俺は死にはしないんだけど、毒が回ると気分が悪くなるから解毒薬は使うんだ。それで自分用にスノドさんから買っておいた解毒薬が残ってたから分けてあげたんだよ。」
「そうだったのか、スノドの薬は良く効くとココノエからも聞いている。」
ハバキは納得してくれたようだ。
「確かにあれは有難かった。アレン以外にあんな場所に人が来るとは思えないからな。」
「魔物ですら近寄りませんからね。師匠も奥地まで足を踏み入れる事はありませんし。」
あの瘴気の中山に行くだけで十分ココノエさんもおかしいと思うが、まあ話もずれてくれたようで何よりだ。
「そういえばドルフ達もこの宿に泊まっているのか?」
選手達は寝床が手配されている筈だが、ドルフとノノは王である事を隠して来ていると言っていたな。ピーニャとノノが部屋に居るって言ってたしこの宿の可能性は高そうだけど。
「ああ。出場者それぞれに個室が与えられているが、俺とノノはピーニャと同じ部屋で寝ている。」
提携している宿はいくつかある筈だけど、もしかして変わり種がここに集中して集められているのか?
「ではドルフ王達も部屋割りの対象者にお入れしますか?」
「部屋割り?」
ローランがまた変な事を言い出すが、流石に明日は決勝なんだ、ピーニャと一緒に過ごさせてやりたい。……あっ、ピーニャと寝たいんだなローランめ。
「我慢しろローラン、予選で負けてればありだったかも知れないけど。」
「うっ、何故分かったのです……。」
「?」
ドルフは当然だが理解できていないので訝し気な顔をするばかり。
「気にしないでくれ、うちのメイドはたまに変なんだ。」
「……? そ、そうか。」
その後しばらく宴会は続いたが、ドルフがピーニャの元へ戻ると言って席を立ったので、他の獣人達も一緒に帰って行った。
残された俺達は部屋割りを決める作業に入る。
「部屋割り? 何だよお前さん達自分の部屋で寝るのが嫌なのか?」
シヴは呆れているが、そう言えばシヴの部屋ってどんなとこなんだろうな。闘技場の中にあるらしいけど。
「トールさんは希望ありますか?」
「自分は昨日の部屋でいいっすけど?」
「ですよね。御者の人もあの部屋に居ますんで、今日はベッド使って下さい。」
「いいんすか?」
「いいんす。二日も床はきついでしょ。」
「いや~有難いっすね。迷惑かけてすいません。」
トールさんはそう言いながら部屋に戻って行った。出口の所でローランに呼び止められてトール人材商会の話をしているのが少し聞こえたが、この町で取引先を見付ければ宿代を経費で落としてやるとかそんな感じの話だったっぽい。
さて、昨日は顔馴染みというか、身内ばかり固めてしまったので大領主ハバキ様は大層ご不満だったそうだ。女王と同じ部屋とかの方が、余程気を遣うから嫌だろうって気もするんだが。
「静粛に! ではこれから、本日誰が、どの部屋で寝るか、に、ついての話し合いを、行いたいと思います。」
「昨日と同じではいかんのか?」
「お姉様ったらお母様よりうるさいんだもの、出来れば別の部屋がいいわよ。」
ちょっと議会っぽく挨拶してみたのに、触れられずに軽く流されてしまった。恥ずかしいな。