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不死者の町人生活  作者: 旬のからくり
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決勝前夜④

 扉を開けた先にはこれまでと全く違う空間が用意されていた。一般客には解放してないんだろうが、それにしても随分外と作りが違う。

「広くはないが、貴族屋敷のようだな。」

 ドルフがそんな事を言うが、確かに。会食と言うか、社交の場として使われてる場所って言われて思い描くのはこんな感じだ。


「なんじゃ、ドルフ王も一緒じゃったか。」

「キイ陛下、その節は世話になった。」

「今の女王は私なんだけど?」

「ミーム陛下も変わりないようで何よりだ。」

 そういえば、気付けば各地の王族と知り合いになってた訳だが、まあ今更か。

 そんな事より各国で王様不在という事実の方が恐ろしいな、それだけ世界は平和だとも取れるが、逆にこの町を襲うだけで世界の危機が引き起こせるぞ。といっても今この町を落とすのはとんでもなく難しい事だけど。


「ドゥルフヴァンシュタイン王、お会い出来て光栄です。人間族の王、トビー=ミーヤの代理で来ております子爵、ハバ=キリコと申します。」

 ハバキがドルフの前で片膝を付いて挨拶する。普通はそのくらい畏まるものなのか。

「ああ、よろしく頼む。だがここにはこいつらの友人として来ているんだ、大袈裟にしなくていい。」

 そう言ってドルフは、後ろにいる獣人達を親指で指す。

「公爵じゃなかったの?」

 ミームが何か頬張りながらハバキにそう言うが、それはエルフの国と関わっている間だけだろう。

 ていうか自由過ぎるだろ、食べるか喋るかどっちかにしろ。


「ドゥルフヴァンシュタイン様はキイ様とミーム様を見極められるのですね。」

 ローランがそんな事を言い出す。言われてみればだが、ドルフなら俺の気持ちが分かってくれるかもしれないな。

「いや、見た目では分らんよ。俺達は幸い他の種族より鼻が利くのでな。」

 ああ、香水で嗅ぎ分けてるだけなのか。

「なるほど、アレン様もそんな事を仰っていましたね。香水を同じ物にしたら見分けられないのでしょうか。」

「いやそんな事はない。香水というより、キイ陛下からはアレンの匂いがするからすぐにわかる。」

「なっ!?」

 何を言い出すんだ!? 誤解を招くからやめてくれ……。

 周りが固まる中キイは平静を装っているが、少し顔が赤くなっている。


「おおおおお、お姉様? ば、場所をわわ弁えた方がいいのでは?」

「何を言っておるのじゃお主は、一緒に旅をして一緒に住んでおるのじゃから移り香くらいするに決まっておるじゃろうが! ドルフ王よ、もう少しましな言い方は無かったのか。」

「ん? ああ、シヴも含めて家族が同じ匂いがするのは当たり前なんだが、何か変な事を言っただろうか。」

 ああそう言う事か……、焦った……。ドルフは他の獣人を見るが、獣人達もドルフと目が合うと「理解できない」という身振りをする。獣人と俺達の常識のズレで生まれた悲劇だったみたいだな。

「ほれそういう事じゃ! お主達も分かったなら変な妄想を直ちにやめるのじゃ。」

 キイが更に顔を赤くしながら酒を飲んだ。取り敢えず誤解は解けたみたいで良かったよ。



「シヴ、こいつはあの集落の出身なんだ。お礼が言いたいらしい、聞いてやってくれ。」

 ドルフは獣人の一人の肩を抱き、シヴの前に連れて行く。

「貴方の事は聞いていたが、試合の間は試合に集中しろと王から言われていたので、礼をするのが遅くなってすまない。」

「礼なんていーんだよ、故郷がなくなっちまわなくて良かったな。」

「ああ、本当にそうだ……。あの地には先祖の霊が眠っているんだ。」

「おう、そいつぁ墓参り出来なくなるとこだったな。」

 ぶっきらぼうな返しだが、シヴは嬉しそうだ。


「一体何があったのだ?」

 俺の横に座りながら、事情を知らないハバキが聞いてくる。酒の肴にゆっくり話してやるのもいいな、悪い事をした訳じゃ無いんだし。

「どこから話したらいいか、実はね……。」

 俺がハバキに話し始めた時、ドルフもシヴの近くを離れてハバキとは逆の椅子に座った。

「当事者である俺が話してやろう。当事者と言っても集落で留守番していただけだがな。」

 そう言ってドルフは笑みを浮かべる。


「もう我慢できません! ハバキ様アレン様すいません!」

 俺もハバキも話を聞く態勢になっていたのに、ハバキの後ろに立っていたローランがいきなり訳の分からない事を言い出す。

「な、なんだよ、どうしたローラン? おしっこか?」

「ドゥルフヴァンシュタイン様!」

「ドルフでいい。何だ?」

「ドルフ様! 首の所の被毛触らせていただけませんか!?」

 ローラン以外の三人が固まる。俺はそんな下らない事? っていう呆れみたいなものだが、ハバキは王に向かって何という失礼を、ってとこだろう。ドルフはわからない、そのくらいで怒るような性格では無いと思うけど。少なくとも一番心臓が止まる思いなのはハバキだな。


「く……首をか?」

 ドルフが不思議そうにそれだけ聞き返す。

「はい! 少しでいいんです、少しで……我慢、できます。」

「ロ、ローラン! 何を言っているのか分かっているのか!?」

 ハバキがローランを取り押さえようとした。が、ドルフが突然笑い出したので動きが止まった。


「はははは、わかったぞ。ピーニャを何時間も撫でまわしていた人間の女と言うのはお前の事だな?」

「そ、そんな事をしていたのかローラン?」

 ハバキが更に驚愕しているが、そういやそんな事もあったな。

「ドルフ、悪いけどちょっとだけ触らせてやってくれないか? ずっと我慢してたみたいだし。」

 珍しく緊張してるのかと思ってたが、これを我慢してただけだったんだな。謎が解けた。

「いいだろう、アレンとシヴには返しきれない大恩があるからな。それくらい許可しよう。」

「ありがとうございます!」

 ローランはおずおずとドルフの首元に手を伸ばし、そっと撫でる。ドルフが気にする素振りを見せないので、その手は少しずつ大胆になっていった。


「どうだった?」

 満足したのか、満面の笑みでハバキの背後に戻ったローランに感想を聞いてみる。

「はい、外側はごわごわして撥水性が高そうなのに、中は柔らかく最上級の絨毯のようで不思議な感覚でした。」

 え、なにそれ。そんなのちょっと俺も興味わいちゃうじゃないか。

「もういいのか? では獣人を救った英雄の話を始めよう。」

「申し訳ありません……、申し訳ありません……。」

 ドルフが目の前のグラスに酒を注ぐ。ハバキはうわ言のように謝っていて、数分前より随分痩せた気がするが、まあ気のせいだろう。

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