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不死者の町人生活  作者: 旬のからくり
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決勝前夜②

 コゲパンさんが居るおかげで、少し狭かったが並ばずに夕食を取る事が出来た。

 本気で食べていい。とローランに許可を出したので支払いは結構な額になりそうだが、前回は俺が払わさせられたので今回はシヴとキイが払うと約束させてやった、これでお相子だな。

「その体のどこにそんなに入ってるんで……?」

「ローランお姉ちゃんすごーい!」

 次々と皿を綺麗にしていくローランの姿にコゲパンさんは驚くが、エヌは無邪気に喜んでいた。


「私の事はいいのですが、しかしまた随分と態度が軟化したものですね。」

 当たり前だがローランは俺達と出会う以前からコゲパンさんの事を知っており、悪感情を抱いていたのは間違いない。

 コゲパンさんはあの日シヴにぶん殴られて、その後シヴに連れられて行った酒場で酔い潰れたらしいが、それだけで俺達にまでこんな態度を取るだろうか?

「あの後デンゼル様と一緒に王都で色々学んだんで……、デンゼル様も今は差別を無くそうと燃えてます。」

「少しお勉強したくらいで変わるとは思えませんけど。」

「そりゃそう思うのも仕方ねえですね……。」

 信用してませんって隠そうともせず突き放すローランだが、コゲパンさんは乾いた笑いを見せただけで終わった。口でどうこう言ったって仕方ないって思ってるんだろうな。


「以前のコ……ガルボニーさんの事は正直よく知らないのでこの際いいんですけど、ちょっと挑発しただけで暴力に訴えたシヴも悪いんでそんなに畏まらなくていいですよ?」

「あれがちょっとの挑発だなんてとんでもない! 言っちゃいけねえ言葉だったのは間違いねえんで……。」

 いやいや、シヴの見た目を馬鹿にしただけじゃないか。言っていいって訳じゃ無いけど、そんなに反省する事とも思えない。

「元女王に挨拶に来たら態度の悪い汚いおっさんが突っ立ってたんだから、ぽろっと言っちゃうのも仕方無いと思いますよ。」

「アレン様、シヴ様が本当にそれくらいでお怒りになったと思ってるのですか?」

 え、違うの?


「まーいいじゃねーかもうその話はよ。お前さんもそれくらいで勘弁してやんな。」

 シヴがローランにそう言いながら肉を口に運ぶ。

「それは私のですよ!?」

 隙をつかれてシヴに料理を奪われたローランが慌てて立ち上がるが、時すでに遅し。シヴは酒で口の中の物を流し込んでいた。

「支払いは俺なんだから俺が何食っても文句言われる筋合いはねーや。」

「そういう問題ではありません!」

「まあまあ、また頼めばいいじゃないか。」

 二人の間に火花が見える気がする。


「上手い事はぐらかしたもんじゃな。」

 そう呟いたのが聞こえたのでキイを見てみるが、エヌの口に料理を運んでいる最中だった。過保護と言うか甘やかしすぎというか、食事くらいは流石に自分で出来るに決まってるだろう……。

「なんじゃ? お主もこれが食べたいのか?」

 何か勘違いされてしまったが、エヌが頬を押さえて幸せそうな顔をしているからきっと美味いんだろうな……。そう思ったら俺も一口って思ってしまう。


「エヌ、それ美味しい?」

「うんおいひい!」

 そんなに? もう腹はいっぱいだけど俺も同じの頼もうかな……。

「ふふ、仕方の無い奴じゃな。ほれ、口を開けるのじゃ。」

 キイが頬杖をついて、料理の刺さったフォークを俺の口元に伸ばす。しばらく口の中で味わってみたが、期待を超える程でもなかった。

「どうじゃ?」

「思った程でもなかった……。」

「ワシもそう思う。」

 折角食べさせてくれたのに文句を言ったら怒られるかも、と思ったが、意外にもキイは満足そうだ。

「美味しいのに……。」

 エヌを悲しませてしまったのは反省している。


「そういえばガルボニーさん、デンゼルさんでしたっけ? 一緒じゃないんですか?」

 雇ってる筈の貴族が見に来ていないとも思えないし、普段は警護に当たってるんじゃなかったか?

「今のデンゼル様は忙しくてそれどころじゃねえんで。俺も辞退して手伝いたかったんですが、辞退せずに頑張って来いと激励されたんで。」

「でも予選落ちじゃねーか。」

 いい話っぽくなりそうだったのにシヴが水を差す。

「どうせならデンゼル様の名前を広める機会だと思って頑張ったんですがね……。不甲斐ねえ。」

 ああそれでわざわざあんなに目立ってたのか。


「予選とはいえあの魔族と渡り合う雄姿を見せたのじゃ、十分じゃろ。」

 闘技場丸ごと破壊してたもんな、投げ飛ばされたとはいってもそれまでは力比べで渡り合ってたんだし。

「手ぇ抜いてたに決まってんじゃねーか。」

 シヴがまた要らない事を言う。そんな事言わなくてもみんな分かってるよ。

「でもまあ、俺はお前さんを見直したぜ。よくあんなもん見せられた後であいつにいの一番に向かって行く気になったな。」

「ありがとうございます!」

 またこれだよ。なんでそこで感謝しちゃうの。


「相変わらずの男たらしじゃの。」

「やはりシヴ様は……。」

 キイが呆れたように笑い、ローランの額にシヴが飛ばした豆が直撃した。

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