予選を見学します⑤
何があったのかは大体想像がつくが、八試合目はニイル以外が全員棄権してニイルの不戦勝になった。
シヴは当然ニイルの力の事は知っているし、オサモンさんの判断でそれでいいって言うならそれでいいんだろう。
九試合目は魔族の二人が闘技場を破壊するとかいう無茶をやったため、会場は騒然としていた。
とはいえその直後に、自分で壊した闘技場を頑張って自分で直している姿が笑いを誘い、緊張がほぐれた観客に応援されていたので、魔族への恐怖感は随分薄れたように思う。
十試合目は実力が拮抗していたのか、まさかの勝者無しに終わった。
シヴは獣人にその腕を咬まれてしまい、オサモンさんがシヴの治療で予選の中断を宣言したが、しばらくすると包帯を巻いて何事も無かったように戻って来たので、多分大事には至らなかったんだろう。
「いよいよ最終試合だな。」
隣に座るキイへ声を掛ける。
「そうじゃな。実力はまあ多少ばらついておるように見えるがの。」
まあそれは確かに。
「あの子残るかしら?」
ミームが言うあの子ってのはアーダーさんの事だろうが、誰と誰がぶつかるかわからないので何とも言えないな。
十一試合が始まると、相変わらずピーニャは駆け回るしコゲパンさんと魔族のでかい人は笑顔で力比べを始めるし、ニイルは何もしないけどタロスが守るように三人の相手をしてるし……。
当たり前だがどこに注目したらいいのかわからず、きょろきょろと視線を移しながら手に汗握る状態が続いた。
「ピーニャとナインハルトが向かい合っておるの、出来れば知己にはここで潰し合いをして欲しくはないのじゃが。」
「俺達にとってはそうだけど、あの二人面識無いからな。多分。」
「そう言えばそうじゃったな。」
ナインハルトとピーニャの攻防はしばらく続いていたが、幸いなことに決着がつく事無く、シヴの介入で闘いは終了させられて両方とも勝ち上がりという事になった。
俺達からは分かりづらかったのだが、九試合目に出ていた痩せた魔族が獣人から降参をもぎ取ったらしい。その瞬間に勝ち上がる八人が決定したのでシヴは終了を告げる為か闘技場の上を走り回り、最後にナインハルトへ跳びかかるピーニャの首根っこを掴んで止めていたという訳だ。
試合が全て終わり、まだまだ会場内の興奮冷めやらぬ中、俺達は待機室へ戻っていた。
「一般区画に行けないって事は、来た時みたいに案内してくれるのを待つしかないのかな?」
「そうだな、おそらくそうなるだろう。」
ハバキに尋ねてみた。が、もの凄くくつろぎながら返して来たので、これは多分かなり時間がかかるという事なんだろうな。
お腹は空いたが、そういう事なら仕方ないと俺もくつろごうと決めた時、扉を叩く音がする。
「あれ? 意外と早く外に出られるんじゃないか?」
黒服のお迎えが来たんだろうと思い、扉の一番近くに立っていた俺が鍵を開けると、扉を開けて部屋に入って来たのはつい先程まで審判をしていた男、シヴだった。
「シヴ!?」
「よう、飯食いに行こうぜ。」
「飯食いに……、ってもう自由なのか?」
「俺への依頼は審判だからな、他の事はしなくて構わねーとよ。」
手近な椅子に腰を下ろしてそう言うシヴに、ローランがサッと飲み物を差し出す。
「さぞお疲れでしょう。」
「すまねーな。疲れてるって程でもねーんだが、飯はあんだけじゃ足りねーよ。」
ああ、廊下で食べてたあれだけなのか今日の食事。
「まずは大儀じゃったの。しかしワシらも勝手に出る訳に行かぬみたいじゃぞ?」
キイがシヴを労うが、そう、俺達は黒服待ちなんであって何となくここにいる訳じゃ無い。
「ああそれなら問題ねー。オサモンに関係者用通路使っていいか聞いて来たから出られるぞ。」
気が利くじゃないかこの審判。