色々手続きします⑤
使用人なんか考えた事も無いのだが、忙しい貴族達でもないしまあ要らないだろうな。
「まだ住んでもいないんでわからないですね、必要になるかもしれないし、ならないかもしれないです。」
適当に濁しておこうと思ったら、シヴが口を挟む。
「いや、どう考えてもいらねーだろそんなも……」
が、さらに横からキイが口を挟む。
「必要になるじゃろうな。正直あの屋敷をすべてワシだけで掃除できるとは思えん。食事も外食ばかりになるじゃろうし、おそらく増えてゆく来客の対応が御粗末なものになってしまう懸念もあるのじゃ。お主達が心の底から協力してくれるなら話は別じゃが?」
そうか……、クロウだったエルフの王族が突然居を構えたら、立場のある人間が来ることも考えられるか。シヴだって一応先代の剣聖の息子なんだし、知ってる人の耳に入れば訪ねる人間もいるだろう。その時に身分の高い人が来ても、俺やシヴじゃ礼儀とか作法なんてわからないしな。
「どうじゃアレン、シヴ? やってくれるか? やってくれるならワシが教育してやらんこともないのじゃがのう?」
「俺は使用人が必要だと思うぜ! そうだろアレン?」
「勿論だよ、俺だって最初からそう思ってた。」
棒読みで返したものの、使用人って執事とかメイド部隊とかだよな、どう扱ったらいいかわからないしそっちもキイに任す事になるか。王族って便利だなこんな時。
「そうですか、実は私の弟が人材斡旋業をやっていましてね、ご協力できればと思いまして。」
家具屋の主人が表情を明るくしてそう言う。商魂逞しいな。
「なるほど、弟さんの店はどちらにあるんですか? 必要みたいなので早速行ってみますよ。」
「ありがとうございます、わざわざ御足労頂くのも申し訳ないので、うちの者に呼びに行かせてまいります。話を聞いてもらうだけでも構いませんので、少々お時間を下さい。」
店主から指示を受けてすぐに店員は店を出て行った。俺達は店主に促され、展示されている椅子に腰掛ける。
「しかし店長さんよ、なんで俺達が使用人が必要な家に住むって思ったんだ? そんなに金持ちに見えるか?」
シヴがもっともな疑問を店主にぶつける。
「確かにありえないな。キイはともかく俺とシヴは、特にシヴは、本当にシヴだけはありえない。」
「照れるぜ。」
褒めてない。
「住所を見ればあのお屋敷だという事はわかりますよ、それに、当店自慢のあのベッドをポンと購入されるのですから、さぞ高貴な方だろうとお見受けします。」
「あのベッド?」
「ええ、あちらのベッドです。」
店主が指すのは例の天蓋付きシルクのベッド、この店の寝具では一番高い、シヴが散々馬鹿にしていたあれ。
「うそだろアレン……、おまえあんなので寝るつもりか? 頭いかれちまったのか?」
俺な訳ないだろ。
「なんじゃ、文句でもあるのか? あれでも随分妥協しておるのじゃが?」
「いや……、その、いいと思うぜ俺は。お前さんにはピッタリだな。」
「さっきこんなの買うのは趣味が悪いとかナルシストだとかのぼせた成金だとか言ってたよ。」
「馬鹿!」
即バラしてみる。
「ほ~、成程成程、そんな風にワシの事を見ておったのか、よーーく分かったのじゃ。」
「すまん、言い過ぎた、俺が悪かった。許せとは言わん、許せ。」
言ってるじゃないか。
キイがへそを曲げると結構面倒くさい。一人だけ食事を用意しないだとか、居ないものとして扱うだとか、そういうしょうもない事しかしないのだが、長命種族なだけに凄く長い。俺も何度か怒らせた事はあるが、最長で3か月くらいは口をきいてもらえなかった事がある。謝って許してもらうとかじゃなく、先に期間を決めてから始めるみたいで、ある日唐突に元通りになるまで、何をしても無駄だから性質が悪い。
「うむ、折角の新生活の門出じゃからの、許そう、ただし一つお願いがあるのじゃ。」
「……お手柔らかに頼むぜ。」
結局、キイが国から持って来たかった服は折を見てシヴが取りに行くことになった。他に依頼が無さそうな時に正式にギルドへ依頼として提出するので、勿論オウルとしてだが。
そんな話をしていたらさっき出て行った店員が、おそらく店主の弟と思われる男と見覚えのある女を連れて戻って来た。