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不死者の町人生活  作者: 旬のからくり
169/209

予選⑫♦

 四試合目で座り込みを行った獣人族の男の一人が、前大会優勝者のカローニへと仕掛ける。ずれた石畳の隙間につま先を掛けると、一気に力を込めてカローニの傍まで跳んだ。

 カローニはその軌道を予測すると、武器である棒の先端を獣人の速さに合わせて突き出す。

 獣人は空中でその棒の先端を掴み力点にすると、右手を振り下ろしながら身体を横に捻る。右手は掴んだ棒の先端から三分の一程の場所に当てられ支点となり、体重をかけて引かれる左手により二つに分かれた。

 左手に掴んだ棒に回転の力も乗せ、カローニへと振り下ろしながら着地する獣人。しかしその棒はカローニに当たる事無く、大地を虚しく打ちつける。

 カローニの姿が消え獣人は咄嗟に辺りを確認するが、すでにカローニは死角に移動しており、獣人の背中の左側、心臓を貫く位置に折れた棒の先端を音も無く押し当てた。

 ほんの数秒だが二人の時間が止まる。

「……参った。」

 獣人が捻りだす様にそう呟いたのを確認し、カローニはすぐに武器を引く。


 もう一人の獣人はカピロと一緒に九試合目を勝ち残った猫背の魔族、ホドリと相対していた。

「僕はあんまりこういうのは得意じゃないんで、出来れば見逃して欲しいかな。」

 矢継ぎ早に繰り出される獣人の猛攻を、すんでの所で躱しながらホドリが説得する。獣人は言葉を返さず、無論手を緩める事も無い。

「やっぱ駄目か、困ったな。」

 包帯に覆われていて表情は見えないが、至極残念そうな声を漏らすホドリ。

 ホドリが伸びて来る獣人の腕を外側から掴むと獣人はその腕を内側に超反応で引き、抵抗なく引き付けられたホドリはそのまま体制を崩す。慌てて手を離し地面にその腕を伸ばすが、獣人の蹴りで払われ仰向けで地面に倒れた。

 獣人はすぐに拳を振り下ろそうとするが、ホドリの危機に気付いたカピロが力任せに投げ飛ばしたガルボニーとの衝突を免れる為、攻撃を中断しその場を離れる。


「大丈夫かー?」

「大丈夫、ありがとう。」

 カピロがホドリに声を掛けると、ホドリはすぐに立ち上がって武器を構えた。

 一方投げられたガルボニーも軽症で、すぐに立ち上がるとカピロを探す。

「よくもやりやがったな!」

「こっちの台詞だ!」

 カピロの方へ突進しようとしたガルボニーの前に闘いの邪魔をされた獣人が立ちはだかると、垂直に跳び上がり空中でガルボニーの顎に回し蹴りを放った。

 無防備な顎先に獣人の踵が刺さったガルボニーは気を失ったが、彫像のように倒れずにその場に立ち尽くしていた。


「綺麗に貰っちまってまあ。」

 シヴは身を低くして駆け寄ると、速度を緩める事無くそのままガルボニーの胴に腕を回して連れ去る。

 軽々しく運べるような体躯ではないが、それを目の前で行うシヴに獣人は目を見張った。


「彼が選手じゃなくて助かってるのは、ここに居る皆がそうだよ。」

「しまった!」

 ホドリが隙をついて右手で獣人の脚を掴む。咄嗟に獣人はその腕に拳を落とすが、今度は左手でその腕も掴まれてしまう。

 ホドリは巻き付くように獣人に身体を密着させると、不可思議な形だが確かに獣人の関節を極めた。

「獣人族は俊敏さが取り柄だと思うんだけど、これならもう動けないよね?」

 獣人の首に掛かった肘に、ギリギリと力を込めていくホドリ。

「動けねえけど喋る事も出来ねえんじゃねえのかそれ?」

 肘で喉を正面から圧迫される獣人を見ながら、降参の宣言もさせないつもりかとカピロがそう言った。

「殺しちゃいけないんだっけ?」

「駄目だな。」

 即座にホドリの顔の前に、風のように現れたシヴの愛剣が突き付けられる。シヴの眼には殺意が込められていた。

「ごめんごめん、つい癖で。」

 ホドリが獣人の喉を圧迫していた肘を緩めると、獣人は辛うじて擦れた声で降参の宣言をする。


「お前さんみたいな心がねー奴が一番厄介なんだよ、次はマジでぶん殴るからな? ついでにこれで八人だ、もう動くんじゃねーぞ!」

 そう言い残し、他の選手の元へ走るシヴ。


 偶然獣人とカローニの近くにいたアーダーは、獣人に勝利したカローニとなし崩し的に向き合う事になっていた。二人の闘いはアーダーがひたすらに避ける事にだけ集中していたため、両者共に目立った外傷は無し。アーダーからは戦意を感じず、カローニもどちらかと言えば攻めるよりも守る方が得意な為、積極的に攻める様な事はしなかった。

 睨み合いが続く中、シヴが予選の終わりを告げるとアーダーは胸を撫で下ろし、カローニはすぐに武器をしまう。


 ピーニャはありとあらゆる角度へ動き回りナインハルトを攪乱するが、ナインハルトの眼はその空間殺法を全て冷静に捉えて的確に突きを放つ。お互い皮一枚程度の傷は無数に付ける事に成功していたが、決定打になり得るようなものは与えられず体力を消耗していた。

 突然ナインハルトが剣をしまい構えを解いたので、ピーニャは好機とばかりに攻め込む。が、すぐにシヴに首を掴まれ、空中で脚をバタつかせるだけにとどまった。

「何するにゃ!」

「終わったようですね。」

「おう、今日は店仕舞いだ。」

「にゃ?」

 十一試合の終わりを告げる銅鑼が鳴り、シヴと八人の予選通過者がオサモンの待つ闘技場の中央へ集まる。


「長い予選が今終わりました! 明日の決勝は厳しい予選を制したこの八名の英雄達で行われます!」

 オサモンがそう宣言するとこの日一番の歓声と拍手が鳴り響き、会場の熱気は最高潮に達した。

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