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不死者の町人生活  作者: 旬のからくり
166/209

予選⑨♦

 九試合目に居る魔族の二人は武器を持たない大男と、負けず長身だが痩せこけた猫背の男。二人共防具の類は付けておらず、大男はその自慢の身体を誇示するかのような半裸。猫背の男は布で出来た服を着ているのみで、顔は包帯で覆われている。そして、大きな針の様な武器を両手に携えていた。


 試合が始まるとシヴに話しかけていた魔族の大男は大きく腕を振り上げた。

「ぬぅうん!」

 他の選手達に緊張が走るが、大男は誰かを狙うでもなくその拳を地面に叩き付ける。巨大な木槌で打ちつけたかのような音が響き、その一点から放射状にヒビが広がって行く。観客を含めて周りの選手達は驚くが、しかしただそれだけで、それ以上は何も起こらなかった。


「何だよ思ったより硬ってえな!」

 拳を押さえて文句を言う大男。

「もう一回? かな?」

 大男の脇にいる猫背の男がそう呟いた。


「何がしたいのか知らんが隙だらけだ!」

 地面を見つめる二人に、近くに居た選手が斬りかかる。猫背の男は交差させた武器でそれを受け止めると、長い脚を伸ばして相手の脚に引っ掛けて転ばせる。

「ごめんね、痛かった?」

 猫背の男は素早く武器を逆手に持ち直すと、相手の選手にそう言葉をかけて大男の脇に戻る。


「くっ、馬鹿にしおって!」

 足を取られ倒された選手が起き上がり武器を構え直すが、それと同じくして大男がもう一度腕を振り上げる。分厚い石で出来た闘技場にヒビを入れる程の威力があるのは確認済みなので、当たってはまずいとすぐに距離を取った。

「ぅおおおおおりゃああ!」

 大男の拳は最初に打ち下ろしたのと同じ場所へぶつけられる。一瞬闘技場が揺れ、ヒビはさらに広がった。

「何がしたいんださっきから……?」

 他の選手達は理解できずに固唾を飲んだ。


「通った。終わり!」

 大男がそう言って肉体美を見せつける様な構えを取ると、大男の足元から地面が隆起していく。波のように襲い来る地面に抗えず、他の選手達は押し流されていった。何名かはそのまま場外へ落下したが、残った者達も戦意を失い、武器を捨てた。


「出鱈目しやがんな。」

 荒れ果てた闘技場を見ながら、大男にシヴがそう言う。

「打倒シヴに燃える魔王様と修行したからな! すげえだろ?」

「いやまあ確かにすげーけどよ、どうすんだよこれ。」

「壊したら駄目とは聞いてねえ。……駄目なのか?」

「知らねー、あいつに聞いてくれ。」

 シヴはオサモンを指差した。素直にオサモンの所へ向かう大男だったが、流石のオサモンでも想像を超える展開に思考が追い付かず固まっていた。


「おい? 俺は失格になっちまうのか? おーい?」

「えっ、はっ!? す、すいません!」

 大男の呼びかけに何とか自分を取り戻したオサモンが、破壊された闘技場を見回してどうするのが良いかと考えを巡らせる。


「ぞ、続行不可能という考えしか浮かばない……。」

「予備はないの?」

 猫背の男が闘技場の縁に座ってオサモンにそう問いかけた。

「石畳の予備ならありますが、これを直すとなると時間が……。」

「じゃあ制限時間までに僕達が頑張って直すよ、失格にならないんなら僕達の勝ちって事でいいんだよね?」

「え? ええ、闘技場を破壊してはいけない等とはわざわざ取り決めておりませんので……。」

「良かった。じゃあその予備の石畳がどこにあるか案内してくれるかな?」

 それから大男と猫背の男は出来る限り破壊した闘技場を修理したが、元通りに美しく仕上げる事は短い時間では難しく、所々石畳のずれや多少の隆起は残った。


「まあいーんじゃねーか?」

 シヴは大きな影響は無いと判断し、予選の続行は可能だろうとオサモンに告げる。

「そうですね、後は深夜にでも整えれば……。」

「それも手伝うよ、彼はああ見えて魔族一の大工なんだ。」

「カピロ様は大工だったんですね……。」

 大男の名はカピロ、魔王タイラーの親友にして魔族の国で最も腕のいい大工であった。

「ああ、すまねえな。一晩あれば元よりいいもんに仕上げて見せるから勘弁してくれ。」

 カピロはオサモンの肩を叩きながら大声で笑う。


「取り敢えず次の試合があるからよ、とっとと引っ込め。お前さん達魔族が出始めてからまともな試合になりゃしねーよ。」

 シヴは疲労を感じながら二人にそう言って追い払う。

「悪かった悪かった! まあまたすぐ出て来るんだけどな!」

 十一試合目まで、ほんの僅かのお別れだと告げて、カピロ達は控室に戻って行った。

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