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不死者の町人生活  作者: 旬のからくり
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予選を見学します④

「休憩みたいだから一旦待機室にでも戻ろうか。」

 さっきの休憩より長くなるらしいので、一度俺達も裏に引っ込む事にした。が、待機室前の廊下でミームが立ち止まる。

「折角だし中を見て回りたいんだけど。」

 好奇心を抑えようともせずにミームはそんな事を言い出すが、開催中は他の区画に行けない事は俺自身が実証済みだ。

「気持ちはわかるけど下の一般用区画には立ち入れないみたいですよ、さっき断られ……」

「知ってる。ていうか当たり前じゃないそんなの。」

 最後まで言ってないだろ……。っていうか常識なのかこれ? 上流階級あるあるなのか?


「お主の常識を押し付けるでない。アレン達がそんな事知る訳がないじゃろう。」

 キイは優しい。そうだよ、一般客にそんな説明一々しないんだから知らなくても変じゃないだろ。

「お姉様ってアレン君にほんと甘いわね、ま、いいけど。それより区画内は自由なんだから散歩しましょうよ、ね?」

「好きにするのじゃ、ワシは行かん。」

 そう言ってキイは待機室に入って行ってしまった。俺も出来ればゆっくりしたいな、待機室に行こう。

「どこ行くの?」

 扉に手を掛けた所でミームにそう言われたが、何処って見たらわかるだろ。

「俺もあんまり興味はないので待機室に……」

「駄目よ、アレン君には私の警護をやってもらうわ。」

 え、嫌だよ。


「警護でしたら私が。」

 ハバキが名乗りを上げてくれたが、そもそもセバスさんがいるだろ。まあミームはセバスさんが強いと知らないみたいだから戦力に入れてないんだろうけど、それにしたって俺もたいして役に立たないんだけどな。

「じゃあキリコも一緒ね。他に行く人は?」

「いや、ハバキが行くなら俺は必要ないと思いますけど。」

 俺を勘定に入れっぱなしなのは何故なんだ。

「では私もお供致します。」

「お姉様のところのメイドね、いいわよ。おチビちゃんはどうするかしら?」

 ローランを巻き込んで、更にエヌまで連れて行こうとしているミーム。

「キイさんが独りだから可哀想だよ!」

 エヌの優しさは分かったけど、俺も行かないんだってば。


「じゃあやっぱりみんなで行きましょ、お姉様! 聞いてるんでしょ!」

「聞こえておるわい……。エヌまで巻き込みおって。」

 扉を開けてキイが再度登場した。最後まで俺の意見には聞く耳を持ってくれなかったが、もういいよ。諦めた。



 そうやって一悶着あった後に皆でうろついてみたのだが、高級で上品な酒場だとか何だかよくわからない有名な絵画や彫刻だとか、そういうのは見付かるが特に興味の引かれる物は無かった。

 結局、途中で見付けた大きな窓のある場所、そこにいくつか設置された休憩用のテーブルで皆で談笑するだけとなってしまった今回のミーム女王の散歩企画だが、何故か本人は楽しそうだ。


「これなら待機室で休んでても変わらなかったよな。」

「そうじゃな。」

「えっ、夢が無さすぎじゃない? 何かあるかもー……って悶々としてるより、何もなかったね! って言える今の方がいいに決まってるじゃん!」

 トビーより性質が悪いなこの人……。


「あっ!」

 キイが睨むのもどこ吹く風、ミームは何か見付けたようで、突然廊下の方を見て手を振り始める。

「シヴ!? あれシヴじゃない!? やっほーーー!!」

「え?」

 ミームの見ている方へ全員の視線が集まる。そこにはオサモンさんと、その後ろで頭を抱えるシヴが居た。気持ちは分かる、そうなるくらいにはエルフの国で振り回されたんだろうな。


「ああ、シヴ様のお付きの方々じゃないですか、それに領主様も。奇遇ですね。」

 オサモンさんがそう言いながらこちらにやってくるので、仕方なさそうにシヴもついてくる。

「ん? エルフの従者を一名増やされたのですか?」

 ミームを見てオサモンさんがそう言うが、元々キイが従者だと思っているのだから無理もない。


「失礼ね! セバス! 言ってやって言ってやって!」

「こちらは現在我が国を治めておられます、ミーム女王陛下でございます。」

 故意ではないが女王が馬鹿にされたと言うのに、セバスさんは特に気にしていない様子で淡々と説明した。

「それはそれは、大変失礼致しました。しかしシヴ様のお付きの方と随分似ていらっしゃるのですね。」

 オサモンさんも慌てる事無く、これまた淡々と返す。

 ハバキはそういうのに敏感みたいで、少し機嫌が悪いようだけど。


「モンよ、無知は身を滅ぼすぞ。こちらのキイ様はミーム様の双子の姉に当たり、前女王様であらせられる。」

「それはどうも、重ねてお詫びいたしますよ。」

 オサモンさんは表向きは謝罪したが、台本でも読んでいるようだったから、多分内心はどうでもいいんだろうな。


「飯が食いてーだけなんだ、ちょっくら邪魔するぜ。」

 シヴは覚悟が決まったのか空いた席に腰を下ろして、手に持っていた料理を食べ始めた。

「ちょっとシヴさっきのアーダー見た? エルフだって結構やるでしょ?」

「まあな。そこの執事に感謝した方がいいぜ。」

「私は何もしておりませんよ。」

 ミームが嬉しそうにシヴの横に椅子ごと移動して、アーダーさんが勝ち残った事を自慢している。けど、アーダーさんを選んだのってシヴだって話じゃなかったか確か。

 オサモンさんもいつの間にか着席して同じ物を食べ始めていたが、わざわざこんな所で休憩する理由はなんなんだ。


「下には食事をする場所は無いのですか?」

 ローランが待機室で買って来た飲み物をシヴとオサモンさんに差し出しながら尋ねた。シヴはそれを受け取りながら答える。

「いや下も中々鉄火場でよ、仕方ねえからこっちに逃げて来たんだわ。」

「そうなのですね、さぞお疲れでございましょう。」

 ローランがシヴを労うが、シヴは手を軽く振って返した。まあオサモンさんの部下の人達はともかく、シヴはあれくらいで音を上げるような体力じゃないからな。


「ナインハルト強かったな、選手たちは十一試合まで控室にいるのか?」

「ああ、みたいだな。負けた奴らも試合を見る特等席だってんで、殆ど残ってやがるぜ。」

「ですが夜は自由ですよ。報復行為なんかも考えられるので、勿論出歩くのは自己責任ですが。」

 オサモンさんの補足で理解できたが、そうか、じゃあナインハルトには夜まで会えないんだな。

「勝ち残って欲しいなナインハルト。」

「それは俺の口からは言えねーが、そうなれば面白くはなるな。」

 シヴは一応立場上誰かを応援って事は出来ないんだろうな。まあ口で言わなくても今ので大体伝わったけど。

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