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不死者の町人生活  作者: 旬のからくり
162/209

予選⑥♦

 アーダーはその後、降りかかる攻撃を全て躱し続けていた。

(教え方が上手い奴ってのは居るもんだな。)

 セバスが長所をひたすら伸ばす事だけを考え、実行したとシヴは感心する。

 六試合目はアーダーを含む三人が勝ち残った。


「実力のよくわからない方でしたね。」

 オサモンがシヴに言うが、シヴは今の段階ではあれ以上は出来ないだろうと考えていた。

「少なくとも優勝だけはないと思うがな。」

「まあ私もそう思います。」


「で、次は棒を使う前回の優勝者だったか?」

 七試合目には前大会の覇者が出場する。当然観客達の中にはこれを本日の目玉だと考えている者も少なくない。

「ええ、カローニ様ですね。他にも注目の選手は数名いますが、見立てではカローニ様の勝利に終わるでしょう。それから獣人族の方が一人居ます、これはちょっと読めません。」

「まあ獣人は狩りしかやらねーからな。」

「そうなんです、情報が余りに少ない。」

 タロスを除く魔族を八試合目以降に振り分けたのは、この七試合目にカローニが出るのが決まっていたからだ。前回の優勝者を早々に魔族に潰される事があっては盛り上がりに欠ける、と考えたオサモンの苦肉の策だった。


「とはいえカローニ様も前回の大会では頭一つ抜けた強さでしたからね、後れを取るような事はないでしょう。」

 獣人族の男がピーニャと同格ならわからないが、座り込みを行った二名と同程度であればカローニの勝利だとオサモンは踏んでいた。そしてこの勘は的中する。


 試合が始まると獣人とカローニの手により一人、また一人と倒れて行き、最終的にカローニと獣人の一騎打ちとなった。

 カローニの棒術に翻弄され、素早く威力の低い打撃を貰い続けたせいで疲労が蓄積した獣人。その呼吸の乱れを勝機だと判断したカローニが放った死角からの重い一撃。それを躱しきれず、獣人は膝を付く事となった。

 制限時間を待たずしてカローニは獣人を退け、観客席からの称賛を浴びながら何食わぬ顔で闘技場から降りて行く。



「中々やるじゃねーか、どこの奴だ?」

 カローニを見送ったシヴがオサモンに尋ねる。

「それが分からないんですよ、流れ者らしくて。かといってクロウに登録している訳でもないので、連絡手段がありません。」

「じゃあ何でここに居るんだよ。」

「さあ? どこかで闘技大会の噂を聞きつけて来て下さったんでしょう。ありがたい事です。」

 いわゆる戦闘狂というやつか。シヴは一瞬そう考えたが、大会の優勝賞金が莫大な事を思い出し、単純に賞金目当ての方が自然だと思い直す。

「クロウでもないんなら、こういうので食ってるのかもしんねーな。」

「どうなんでしょうかね、大会が終わると忽然と姿を消しますからわかりません。」

 カローニは謎の多い男だった。


 七試合目が終わり、八試合との間に休憩時間が設けられた。制限時間を迎える事無く終わった試合で余った時間、それの調整を兼ねて少し長めに設定されている。

 観客達の殆どはカローニの試合を見て興奮しており、飲み物や食事、物販品等が良く売れる。特に酒は飛ぶように売れていた。これはオサモンの読み通りである。


 オサモンとシヴもこの休憩を利用して食事をしようと関係者用の詰め所に向かったが、生憎と皆考える事は同じで、すでに座る場所はなかった。


「モンさん! これ食ったらすぐ退くんでちょっとだけ待ってください!」

「いやいい、皆も疲れているだろうから休める時は休め。」

 オサモンに気付いた部下の一人が席を空けようとするが、オサモンはそれを止める。


「どっか別の場所はあるのか?」

 シヴはどこだろうと構わない性格なので、座れれば廊下でもいいとさえ思っていた。

「貴族用の区画に参りましょう、椅子とテーブルがいくつか廊下に設置されています。」

「まあどこでもいいや、案内してくれ。」

 オサモンの先導で、貴族達に用意された待機室がある区画へと足を運ぶシヴ。関係者用の通路を通り、柱と待機室に挟まれた廊下へと出た。


「お偉いさん達はこんな所に集められてんだな。」

 シヴは歩きながらオサモンにそう言う。

「そうですね。当たり前ですが、一般の客よりここに案内されるような方々の方が気を遣うのでこちらも慎重ですよ。」

 廊下の所々で貴族や権力者と思われる者達が談笑しており、他言できないような話も聞こえてくる。そんなものに少しも興味の無いシヴは、欠伸をしながらオサモンについて行く。


「あそこです、幸い席は空いているようですね。」

 オサモンの視線の先には大きな窓があり、窓の前には少し広く作られた空間があった。その空間にはテーブルがいくつか設置されていて、何席かは埋まっているのが確認できる。


「シヴ!? あれシヴじゃない!? やっほーーー!!」

 その埋まっている席の一つに座っていたエルフの女が、シヴを見付けて大声で手を振った。


「マジかよ……。これならさっきの詰め所の方が良かったんじゃねーか?」

「?」

 顔を押さえて立ち止まるシヴと、自分達に元気に手を振るエルフを見てオサモンは疑問符を浮かべていた。

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