予選を見学します②
ナインハルトとタロスの一騎打ちは制限時間で決着が付かなかったが、あのまま続けていたらどっちが勝っていたんだろうか。
「凄いなナインハルト、タロスって魔族の中でもかなり強い筈なんだけど。」
「そうじゃな、シヴと同じ事をあの細身の剣でやってのけるとはの。」
キイと俺は魔族の国でシヴと戦うタロスを見ているが、正直ナインハルトには時間一杯逃げ切るしか手は無いと思っていた。
「僅か一日で随分とお強くなられましたね。」
ローランが感心している。一日というのはこの町に来るまでのシヴとの稽古の事を言ってるんだろうが、流石に一日でそう変わるとも思えないんだけどな。
「ナインハルトには師が居ない。その辺の道場の師範程度にはそもそも負けないからなのだが、ダコタで死と隣り合わせで磨いて来た剣は独特でな、本人ですら伸ばし方を分からず頭打ちだったんだ。」
ハバキがそう説明してくれたが、つまりシヴならその伸ばし方が分かるって事か。
「ナインハルトとシヴは正反対に見えるが、剣における根の部分は同じなのかもしれんのう。」
キイは納得したようだが、俺にはあの二人の剣に通じるものがあるとは今一ピンと来ない。
「あれだな、こうして試合見てるとさ、万全のココノエさんとかも見たくなってくるな。」
「師匠の方は絶対にこんな所でやらないでしょうけどね。」
まあそうか。でも今は知らないけど、ナインハルトより強いって事はタロスとも戦えるって事だよな。
「ふふ、私も少し腕が疼くよ。」
逆にハバキの方は出場してみたくて昂ってるようだけど。
「あ、あれエルフじゃないか?」
六回戦の選手の中に、少しおどおどしているエルフが居るのが見える。
「ふむ、兵装じゃがワシはあやつを見た事が無いのじゃ。」
じゃあミームが女王になってから兵士になった人って事か。
「お姉様はどう思う?」
「そうじゃな、どう見ても予選落ち……」
そこまで言ってキイが固まる。
「あ、ミーム女王陛下。」
ローランが目線を送った先には、勝手に入って来てキイの後ろに立っていたエルフの女王、ミームの姿があった。
「これは女王陛下、こちらの席にどうぞ。」
ハバキがミームに席を譲る。
「あらありがと。そうよねー、どう見ても場違いよねあの子……。」
ハバキが座っていた真ん中の席に座りながら、ミームはそう言う。
「勝手に入ってくるでない、自分の席があるじゃろう。」
「いやだってセバスと二人だから退屈なんだもん、ねえセバス。」
「左様でございますね、こういう催しは賑やかである方が良いかと存じます。」
振り返るとセバスさんまで来ていた。
「まあ来ちゃったもんはいいだろ別に、そんな邪険にしなくても。」
「そうそう、アレン君って優しいのねー。」
「勝手にするのじゃ……。」
キイも諦めたようだ。
「あちらの兵は腕が立つという訳ではないのですか?」
警護を兼ねているのか、ハバキがミームの後方の席に腰を下ろしながら尋ねる。
「あの子ね、どう見ても兵には向いてないのよね。勉強の方が好きみたい。」
「……? では何故今あの場に?」
当然の疑問をハバキが投げかける。
「シヴが選んだのよ、あの子がいいって。」
そんな事やってたのか。シヴは下らない駆け引きなんかする性格じゃないから、本当に一番可能性がありそうなのを選んだんだろうけど……。でも本当にあれ大丈夫か?
「ワシはセバスが出場するのではないかと思っておったのじゃが、ミームの手前そうもいかんかったのかの?」
キイは闘技場から視線を外さずに言った。
「何の冗談でございましょう。私はそんな恐ろしい真似とてもじゃありませんが……。」
「出来ぬと申すのか?」
扉の前に立つセバスさんは、少し困っているように見えた。
「セバスが出たって結果は一緒よ、我がエルフの国は予選であっさり敗退。明日はさっきの金髪君を応援するわ、なんだかエルフっぽいし。」
ミームが言っているのはナインハルトの事だろう、確かに整った顔立ちに長い金髪はエルフっぽくもあるが。
「でも勉強が好きなのに何で兵に志願したんですかね?」
俺の疑問もこの際ぶつけてみる。
「それがねー、あの子のお母さん病気らしくってさ。お父さんはとっくに死んじゃってるんだけどね。」
いや、可哀想だとは思うけど、何か関係あるのかそれ?
「兵は無料で怪我や病気の治療が受けられるのじゃが、兵の家族も同じく無料で治療が受けられる制度があるのじゃよ。」
俺が知らないだろうと察してか、キイが補足してくれた。成程、母親の病気を診てもらう為に、か。
「全力で応援しましょう!」
ハバキが瞳を潤ませて立ち上がる。ハバキはこういうのに弱いんだな。
「勿論だ! 声出すぞ!」
まあ俺もなんだけどな。