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不死者の町人生活  作者: 旬のからくり
158/209

予選④♦

 タロスが何をしてくるのかが分からないので、ナインハルトは手を出しあぐねていた。

(手に武器は持っていない。いないが……。)

 タロスの脚に装着された脛あての先からは、黒く光る鉤爪が伸びている。先程斧男を庇って受け止めた時、金属製である事だけは理解した。


「どうしました? 来ないのですか?」

 タロスは両手を広げてナインハルトを挑発する。

(向こうは中空すらも闘いの土俵だ、地の利は完全にあちらにある。しかしただ様子を見ているだけでは……。)

 ナインハルトは覚悟を決め、大きく息を吸い込むと自分から打って出る。


 一瞬で間合いを詰め自分の射程圏内にタロスを捉えると、即座に突きを放つ。

「何の工夫もありませんね。」

 タロスは曲げた左脚を上げる。他者からはタロスが脛あてでその剣を真っ向から受けたように見えた。

「やはり殺されますか……。」

 タロスは突きを受けると同時に後方へ飛び、突きの威力を下げた。すぐに羽根を羽ばたかせ、受け切れるようになる僅かの距離で制動した為、ナインハルトの攻撃が無意味で勝負にすらならない、と観客達は考える。


「魔族ってのはとんでもねーな……。」

「よく和平なんて実現したもんだよ、信じられねー。」

「こりゃ表彰台には上から順番に魔族が並ぶんじゃないか。」

 観客達は口々に魔族の恐ろしさを語り始める。


「本気でやっても構わないんでしたねえ?」

 タロスは突きを受け止めた脚を伸ばし振り下ろすが、ナインハルトは難なく躱す。そのままタロスは左脚を地面に突き立て横に回転し、右脚の鉤爪でナインハルトを襲う。

「早いっ!?」

「かかりましたねえ!」

 何とか右腕で受け止めたナインハルトだったが、そのまま腕を鉤爪で掴まれる。

 ナインハルトの腕を掴んだ右脚を起点に身体を捻り、タロスの左脚が逆方向から迫るが、ナインハルトは一瞬で上体を反り返し、首に浅い傷を負いながら何とかやり過ごした。


(いい反応ですね。)

 タロスは躱したナインハルトに驚きながらも、冷静さは失わない。

 すぐに腕を掴んでいた爪を離し回転しながら離れるように飛んだかと思えば、翼を開きほんの一瞬空中で静止する。

「死ね!」

 声と共に右脚を伸ばして錐揉みしながらナインハルトへ急降下した。

(これまでか……?)

 ナインハルトが負けを覚悟した時、ふとシヴの言葉が頭をよぎる。


――こんな細っせー剣一本でよ、どんだけ打ち込んでも力が殺されちまう。


(そうか、一か八かやるしかない!)

 シヴのオウル試験の時に、自分がシヴにされた事。自分の剣筋と全く同じ剣筋を、ほんの一瞬だけ遅らせて出す事で全て威力が殺され、剣先が流されてしまう事でシヴには届く気がしなかった。

 おそらくあれが剣聖の剣。自分から攻めずに防御に重点を置いてあるが、それに必要なのは人並外れた集中力と、体現する為の、【一瞬】等と言う言葉が生ぬるい程の反応速度。


 失敗すれば死。その状況がナインハルトの集中力を極限まで高める。

 迫るタロスの鉤爪の回転。その速さに合わせるように剣先を差し入れたナインハルトは、そのまま回転の方向へと斜めに貫いた。

 剣の腹は鉤爪を擦るように滑り、逆らう訳でもなく自然にタロスの進行方向をずらす。



(ほ~ん、やるもんだ。)

 軌道修正されてナインハルトの手前の地面を抉るタロスを見ながら、いつでも止められるように構えていたシヴが剣を収める。

 ナインハルトは緊張の糸が切れ、そのまま片膝を付いて乱れた呼吸を正そうとしていた。


「よもやあの時と同じ事を!?」

 タロスはナインハルトの次の攻撃を警戒して飛び退いた。


「それまでえっ!」

 オサモンの声と銅鑼が第五試合の終了を知らせる。


「心配しなくても地面に刺さったお前さんをぶん殴るとこまでは教えてねーよ。」

 そう言いながら、シヴが着流しの腹に片手を突っ込みタロスの元へ近寄る。

「やはり貴方の教え子でしたか。」

 タロスは以前これと全く同じ方法で、シヴに煮え湯を飲まされた事を思い出し苛立っていた。

「いやまあ教え子って程でもねーが……。」

「シヴ様……。」

 ナインハルトが何とか立ち上がり、二人の元へ来る。

「おう、やるじゃねーかお前さん。あのまま間髪入れずに空いた顔面ぶん殴ってれば完璧だったな。」

「は、はあ……。」

 話が分からず気の抜けた返事しか出来ずにいるナインハルト。


「まあ兎に角、お前さん達二人は勝ち抜けだよ。十一試合迄ゆっくり休むんだな。」

 シヴは二人の背中を叩く。

「私に触れないでいただけますかねえ。」

「ありがとうございます!」

 冷たすぎる視線と熱すぎる視線を同時に受けながら、次の選手達を待つ為シヴは闘技場の中央へ戻って行った。

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