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不死者の町人生活  作者: 旬のからくり
155/209

予選②♦

 試合の開始と同時に、四角い闘技場の角に向け一気に駆けたピーニャ。まさかの棄権かと注目が集まるが、角に到達する手前で振り返り、そのまま足を滑らせながら前傾姿勢で停止する。


「思ったよりもはえーな。」

 ピーニャはドルフに戦闘だけなら引けを取らないと聞かされていたシヴだが、実際に目の当たりにするとその潜在能力の高さが窺えて、思わずそう呟いてしまった。

 ピーニャは地面を蹴り、更に速度を上げて今度は中心に向かう。選手の何人かは警戒して構えるが、ピーニャは気にする様子が無い。助走の勢いそのまま、空中に飛び上がったピーニャの蹴りが一人の選手の背中を捉えた。


「っ!?」

 長い滞空時間の後に放たれた蹴りを背に受け、声も出せずに闘技場を勢いよく転がって行く。おそらくそのまま場外へ落下するだろうと救護班に合図を出すシヴ。呆気に取られる残った選手達。

 着地したピーニャはそのまま転がる選手を追うように走り、先程と同じように中心を向いて停止した。


「おい! あの獣人すげーぞ!」

「俺はあの娘に賭ける!」

 観客の声援は大きくなり、オサモンの描いていた物とは少し違う方向で盛り上がりを見せる。


(女だてらに……、というのを考えていたんですがねえ……。)

 たった今ピーニャに蹴り飛ばされ、場外に転がり落ちた男がこの予選で勝ち上がる筋書きだったのだが、圧倒的な強さを見せるピーニャに驚きと感動を覚えるオサモン。ピーニャはそこそこ頑張っている姿を観客に見せ、思わず応援したくなるような役回りとして考えていただけに、こうなる事は露ほども思っていなかった。


 争っていた選手達は手を止め、全員ピーニャの次の動きに集中する。

 ピーニャは走り出し、自分に向けられる攻撃を躱しながら、自分から一番遠くに居た鞭使いを目指す。

「真っ直ぐ来てるだけじゃないか!」

 鞭使いはピーニャへ向けて鞭を振り回すが、ピーニャの速度と目算が合わず、その鞭はすでに通り過ぎた後の地面を虚しく打ちつける。

「ひぃっ……ぐっ!!」

 鞭使いは眼前に迫ったピーニャに恐怖の悲鳴をあげるも、次の瞬間には宙に浮いたピーニャの腕が首に掛けられ、ピーニャが地面に落ちると同時に後頭部を強かに打ち気を失った。


(ちゃんと手加減してんだな。)

 本気でやれば確実に殺せるが、敢えて首を腕で包んで衝撃を和らげたピーニャ。シヴはピーニャとその他の選手に力の差があり過ぎる事が幸いしたと思った。手心を加える事が容易だからだ。


 その後もピーニャの独り舞台は続き、制限時間を待たずしてピーニャ以外の選手は全て倒れる。

「それまで!」

 オサモンの声と銅鑼が響き、第二回戦が終了した。ただ一人残ったピーニャへ、歓声と拍手が惜しげも無く降り注ぐ。


「これは予想できませんでした。」

 自分の考えた台本が崩されたオサモンは言う。

「でもお前さん楽しそうじゃねーか。」

「わかりますか。」

 嬉しい誤算に高揚した声のオサモンは、二回戦ですでにこの大会は自分の手を離れ、結末が予想できなくなっている事に喜びを覚える。

「まあ問題は後半だよな。」

「ええ、登録が遅れた事を理由にして無理やり八試合目以降に固めましたが……。」

 シヴはティオの町に来てから、闘技大会にニイルが出る事を知った。そして魔族の王、タイラーがこの場所に来ている事も。


(魔王の乱入なんざ洒落にもならねえ、そうならねーように祈るぜ……。)

 シヴの懸念をよそに、三回戦の選手達が闘技場へ並び始める。

「心配しても仕方ありません、とにかく予定通り進めましょう。」

「そうだな、なるようにしかならねー。」


 三回戦の幕が上がった。

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