予選①♦
「審判とはいえ、当然帯剣は許可します。むしろシヴ様の安全を保障する事が出来ないので必ずお持ちください。」
「ああ。」
「また、相手選手は元より、シヴ様や観客に明確な殺意を向けた者は即座に鎮圧して頂いて構いません。」
打ち合わせの最中、オサモンはシヴにそう伝えた。事実シヴにもどうなるか予想が付かないので、審判という立場であるものの、巨大な愛剣を背に担いで闘技場に立っている。
闘技場に第一試合の出場選手達十名が並び、オサモンから試合形式の説明がされる。シヴが審判であり、攻撃対象に含まれない事も伝えられた。
「よろしく頼む。」
シヴはその一言だけを言い、闘技場の端まで下がった。オサモンは闘技場から降りシヴの方を見る。
シヴが手で合図をすると、オサモンは手を振り返し、息を吸い込む。
「始めえっ!!」
掛け声と共に銅鑼が大きく鳴り響き会場に試合の始まりを告げる。
銅鑼の音と同時に攻撃を仕掛ける者、距離を取り様子を見る者、周囲の出方を伺い探る者……。
様々居たが、公平に抽選したと選手達に伝えられている裏で、実際はオサモンにより任意に振り分けられた組み合わせとなっており、第一試合は観客へのルールの把握が主な目的となるように仕向けられている。
当然この試合で注視する必要のある者は居ない、という事をシヴは聞かされていた。
(まあそれなりに鍛えてんなみんな。)
各地の代表だけあり腕は確かな者ばかりだが、あくまで心技体の鍛錬として武を修めている者が集められている為、試合は正しく清々しい内容で進んで行った。
誰かが打撃に倒れ、誰かが場外へ落下。致命傷になり得る攻撃が当たりそうになればシヴが止め、勝敗を告げる。
やがて試合の終わりを告げる銅鑼が鳴り、残った三名の選手に観客の万雷の拍手が送られた。
「おーおー、盛り上がってんな。」
「ええ、予想通りです。」
闘技場の中央に戻り、シヴとオサモンが次の選手達の入場を待つ。シヴとオサモン、一部の観客には退屈な試合内容だったのだが、殆どの観客はこの闘いに興奮し、会場の熱気を上げていた。
「次は猫だけだったか。」
「そうです、観客達を惹き付ける偶像になってもらいますよ。」
「そんなに可愛らしいもんじゃねーと思うがな。」
女性の出場者が居る事自体がこれまでの闘技大会で初の事だ。オサモンはその実力は知らないが、居るだけで必ず大きな盛り上がりを見せると踏んでいた。あくまで調べられる範囲の事ではあるが、優勝の見込みが無さそうな者を二試合目の選手に集め、そこに初の女性選手の一人を組み込んだ。
「決勝に行けなくとも、それなりに戦ってくれたら問題ありませんよ。こういうのは色々な感情を呼び起こしてやるのが盛り上げるコツなんです。」
「お前さん思ったより腹が黒かったんだな、見方変わるぜ……。」
歓声に包まれて第二試合の選手達が闘技場へ上がってくる。その中にはピーニャが居た。
「シヴー!」
「おう、頑張んな。」
シヴに挨拶をするピーニャを見てオサモンが驚く。
「お知り合いなのですか?」
「ちょっとな。まあ他にも何人か知った顔はいるが、贔屓なんかしねーから安心してくれ。」
「え、ええ。それはまあ。しかし一体どういう……?」
「さっさと始めねーと、盛り上げた観客の興が醒めちまうんじゃねーのか?」
ピーニャがドルフの娘だという事は、登録の際ドルフの判断で伏せられていた。当然オサモンが知る由も無い。
観客達の中には獣人に嫌悪感を示す者も居たが、それ以上に女性でありながらこの大会に出ているピーニャへ注目が集まっていた。
「そ、そうですね……。では……」
第一試合と同じように、オサモンから選手達へ説明がなされた。
そして、第二試合の始まりを告げる銅鑼が鳴り響く。