予選前②
「こちらがハバキ御一行様の待機室となっております。」
「ああ、ありがとう。」
俺達はオサモンさんの配下の黒服に案内されて、観客席の手前にある大きな部屋に通された。ここから出て廊下を一つ跨げばすぐに試合が観に行ける。
「領主ってそんなに偉かったっけ?」
「いや、ビーちゃんが手を回しただけだ。」
ああ、そういう事か。そのまま観客席に行く事になると思っていたから有難い。たまには役に立つじゃないか。
「もう予選まで時間があまりないから、それ食べてしまおう。」
途中で買い食いした物の残りを指差して言うと、みんなでどれが美味しいだのどれが珍しいだの言いながら分け合い始めた。俺はもうお腹いっぱいなので遠慮しておく。暇なので、部屋に置いてあった案内書に目を通しておこうかな。
「何と書いてあるのじゃ?」
キイが俺の読んでいる物の内容を尋ねて来る。情報は共有しておくか。
「まずこれから予選があるだろ? で、勝ち残った八人で明日は朝から決勝までやるみたいだな。」
「予選は昼からじゃが、それで間に合うのかの?」
「ああ、明日は一対一だけど今日は十人ずつで、制限時間が来た時に最後まで立ってたら勝ち抜けらしいよ。」
「不公平過ぎるのではないのかの?」
キイの言いたい事はわかる。場合によっては決勝に残るような二人が予選で同じ組み合わせになる事もあるしな。まあそれは全部一対一でやっても同じ事なんだけど、初戦で負けた人と勝った人で組み合わせを分ければ解決するんだけどな。
「まあこの方法だとかなり運が絡むよな。一応一試合ごとの勝ち残りの人数に制限は無くて、十一試合目で八人にするみたいだけど。」
「余程参加者が増えたのじゃろうな、お主らが出た時は無かったじゃろ?」
「そうだな、あの時は一日だけだったし。」
オサモンさんはよほど宣伝したんだろうな。
「シヴ様がその全てを見守る、という事ですかね?」
ローランが心配そうにしているが、流石にそこまでは書いていないのでわからない。
「どうだろうな? 無事に終わらせる事、ってのが依頼内容みたいだしそうなんじゃないか?」
「出場者は書いてあるのか?」
今度はハバキが聞いてくる。食ってないで読めばいいだろう、案内書は沢山あるんだから。
「いや、流石に名前までは書いてないよ。ただ、人数が百人になるように調整してあるらしいから、今日は十一試合で終わりみたいだな。」
「ああ。それで私の領からは三人迄、と人数が決められていた訳か。」
領土の大きさを考えてトビーが決めたのか、オサモンさんが予め調査して決めたのかはわからないが、各地に定員があったらしい。
「昨日ミームに聞いた話では、エルフは一名しか出さぬようじゃが。」
「定員より少なくても問題はないと書いてありました、おそらく最大が百人という事なのでしょう。」
「ふむ。」
まあ確かに律儀に百人用意する必要はないよな。この案内書は昨日今日作った訳じゃ無いだろうし、見込み人数が書いてある訳か。
「取り敢えず書いてあるのはそれくらいだよ。他は町の見所とか宿の紹介とかだな。」
「よし、丁度食べ終わった事だし、そろそろ試合会場の方へ行ってみるとしよう。」
ハバキが口の周りを拭きながらそう言って立ち上がる。
俺達はハバキを先頭に部屋を出て、部屋の前を左右に伸びる廊下を挟んで向かい側にある扉を開ける。
青空の下、巨大な闘技場の上にはオサモンさんとシヴの二人が立っているのが目に入った。
「ここの席は俺達専用なのかな?」
観客席は、始まるのを今か今かと待ち侘びている客でどこもすでに埋まっている。俺達に用意された席は、一般観客席の背後に設置された大きな柱の中をくり抜いたような場所で、十人くらいならゆっくりできそうな広さがある。それが闘技場を囲むように等間隔に並んでいて、隣の柱にはミーム達が座っているのが確認できた。
「布で隠した方がよいのじゃ、見付かったらこちらに来るぞ間違いなくの。」
いやそこまでしなくても。別に一緒に観るなら一緒に観るでいいじゃないか、と思ったが、すでにローランが隣の柱から見える場所に黒い布を張り始めたので、放っとく。余計目立つ気もするが。
エヌには間違って落ちないように注意して、ひとまずは観戦の準備はできた。
オサモンさんが右手を天に掲げると、観客たちの喧騒が消える。
「お待たせしました! 只今より、全ての種族を交えて生まれ変わった闘技大会の、第一回予選試合を始めます!」
拡声器を使ったオサモンさんの声が会場に響き渡った。