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不死者の町人生活  作者: 旬のからくり
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エルフ襲来①

 シヴのお供の俺達が来るのを想定していたのか、ハバキとは別に俺達の部屋も用意されていた。勿論ハバキに用意されたような豪華な部屋ではなかったが、通常より宿代が割り増しされている筈のこの時期には十分有難い。

「シヴは多分別の部屋だよな。」

 なにしろベッドが二つしかない、俺とキイがくっついてくると考えていたならここには通さないだろう。

 それは別に構わないんだが、そのせいで問題も出て来る。

「ローランはハバキのとこで寝るとして、トールさんとエヌはどうしようか。」

 エヌはなんとでもなるが、トールさんをハバキの部屋にぶち込む訳にもいかない。ハバキが心の疲労で死んでしまうかもしれない。

「私もこちらで寝るつもりですが。」

 あげくローランもこんな事を言い出す。普通に考えてハバキの方が立場が上なんだ、俺達は放っておいて向こうの世話をするべきだろうに。


「ハバキの所はハバキと御者の人だけだろ、ここより広いしそもそもローランはハバキの所の使用人だろう?」

「アサシンとしてなので。メイドとしてお世話をしないといけないのはこちらです。」

 またどうでもいい建前を振りかざして来たよこのメイドは……。

「うーむ……。」

 キイも悩んでいるようだ。もう部屋は追加出来そうもないし、解決するにはハバキの所に何人か行って貰うしかないんだが。


「自分は床でもいいっすよ。」

 トールさんがそんな事を言い出すが、そんな事は当たり前だ。むしろこの状況でベッドが自分に与えられると思っていたのか……。

「ああそうじゃ! 何か忘れておると思っておったが、おそらくもう一部屋ある筈じゃぞ。ハバキよりも広いが、とんでもなくやかましい部屋がな。」

 ハバキより広くてうるさい部屋? どういう事だ。

 俺が聞くより早くキイは部屋を出て行く。まさか適当な理由を付けて部屋を空けてやったとかじゃないだろうな。

「キイ様はどこへ行ったんだ?」

 様子を見に来たのか、ハバキがそう言いながら部屋に入ってくる。よし、二人で説得すればローランも首を横には振れないだろう。

「ああ、丁度いいところに来た。見ての通り人数がいっぱいでね、今ローランにハバキの部屋で寝ろって言ってたところなんだ。」

「ああ、それがいいな。ローランは一睡もしていない、私の部屋でゆっくりするといい。二人っきりにはなってしまうが問題は無いだろう?」

 二人っきり? 一人どこ行ったんだ。

「御者の人は馬車の近くに待機してるとかか?」

「何を言ってるんだ? 部屋にいるぞ。」

「じゃあハバキと三人じゃないか。……ああ、これから用事で出かけるのか?」

 でもどう見ても風呂上がりの寝間着だよな。


「いや、私はこの部屋で寝ようと思って。」

「はあ?」

 何でそうなるんだどいつもこいつも……。

「こんな機会そうそうある物ではないからな、友人と同じ寝所で寝るというのを一度やってみたかったのだ。」

 今じゃなくていいだろそんなの、狭いって言ってるし目に入ってるだろうが……。


「あのな、どうせ昼までしか寝られないし皆疲れ切ってるんだから、何にも楽しい事はないんだぞ? 本当に寝るだけなんだ、お喋りに花が咲く事も枕を投げあうような事も無いんだぞ?」

「シッ!」

 ハバキが唇に指を当て、俺を黙らせようとする。シーじゃない、我がまま言うんじゃない! そう言おうとしたが、続けてハバキが妙な事を言い出した。

「誰かが急いでこちらに向かって来ているな、足音が聞こえる。」

「キイじゃないのか?」

「いえ、二人組ですね。一名が先行し、もう一名が追うようにしてこちらに向かっています。」

 ローランが扉の前に立ち警戒する。まさかニイルがシヴを探して……?


「近いぞ。」

 ハバキがローランにそう言うと、ローランも頷いた。

「来ま……す……? え? キイ様……?」

 なんだやっぱりキイなんじゃないか、下らない事でビビらせるのはやめて欲しい。


「はーーーい! こんにちはーーーっ!」

 キイはローランを押しのけ、両手を上げて部屋に飛び込んで来たかと思えば、全力で俺に抱き着いてくる。む、胸が……。

「な!? 何やってるんですかキイ様!?」

 ローランが声をあげるが、キイはそれを完全に無視。

 その間もキイの腕の力はどんどん強くなっていき、柔らかい物が押し付けられ、俺の鼻の真下にある頭から香る香水の匂いに包まれる。キイに何があったんだ?


 ……いや、違うぞ。

「だ、誰だお前?」

「ミームッ!」

 部屋の入り口にキイが居る。俺に抱き着いているキイも居る。キイが二人居る?

 後から来たキイが、先に来たキイの頭に拳骨を落とした。その痛みに耐えかねて俺から離れ、頭を押さえる。

「いいぃ……ったー…………。」

「当たり前じゃ、痛くなければ意味などないじゃろうが!」

 二人のキイ以外は全員、狐につままれたような顔で立ち尽くしていた。

「むにゃ……。」

 全員じゃなくてエヌは寝ていた。

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