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不死者の町人生活  作者: 旬のからくり
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色々手続きします③

 翌朝、二日酔いの頭を押さえながら、三人で役所に出向く途中、噴水の辺りでタークスさんに会った。聞けば役所の帰りだという。


「書類の提出は終わっておりますのでご安心を。本日から清掃業者が入りますが、ここに住むのは王様の知人だという事を伝えましたら、他の仕事を取りやめて総出で当たると申しておりました。おそらく明日には住めるようになるかと思いますよ。」

「いや、そんな、なんかすいません……。」

 有難いけどいいのか他の仕事取りやめちゃって……。

「いえいえ、今の王様にはみな感謝しておりますからね。」

 直接会えばそんな感情もわかないと思うが……、まあいいか。


 タークスさんにお礼を言って、タークスさんが来た方向へと足を進める。役所ではナインハルトの口利きもあり、三人とも簡単な手続きで居住登録が終わった。それはもう拍子抜けするほどあっさりと。


「これで俺達もこの町の町人だな。」

「うむ、ただ説明を受けて署名しただけなのじゃが、何故か気分が高揚するのう。」

「なんだよそりゃ、よくわかんねーこ……。」

 シヴが何かに気付いたようで、急に剣の柄に手を掛ける。

「どうしたシヴ?」

 視線を追ってみると、シヴが見つめる先には一人のメイドが立っていた。


 肩まで真っ直ぐ伸びた綺麗な青髪に整った顔立ち。美しい姿勢で、こちらをニッコリとほほ笑んだまま見つめている。


「なんだよシヴ、一目惚れってやつか?」

「いや、一目惚れをしてきたのはあちらさんみたいだな、まさかこんなとこでおっ始めるとは思えねーが。」

「……始めるって何をだよ、ていうかなんなんだよその自信は。」

「これからという時に頭がおかしくなってしまったのかのう……?」


 しかし見れば見る程綺麗なメイドだな……。なんて思っていると、黒光りする豪華な馬車がやってきた。家探し初日に見たあの馬車だ。馬車はメイドの前で停止し、もう一度出発した時にはメイドも消えていた。あの馬車を所有している貴族の屋敷で働いているんだろうな。


「相変わらずおまえらは好き勝手言いやがって。しかし鈍感なアレンはともかく、キイにも殺気を悟られないってなあ中々のやり手だな。」

 シヴはさりげなく俺に酷い事を言いながら剣から手を離す。

「いや、わかっておったぞ? お主が言うような殺気は感じんかったが、あれはアサシンじゃろ。何故あのような恰好をしているのかはわからんがの。」

 え、どこからどう見ても綺麗なメイドだっただろ。

「なんだわかってたのかよ、やりあう気はなくても値踏みするようなあの眼は気分がいいもんじゃねーな。」

 ……なるほどね、アサシンね。全然わかんなかったのは俺だけだな。

 結局美人メイドアサシンの詳細は分からずじまいだが、敵意むき出しという訳でもなさそうだし、用事があれば向こうから来るだろうという事で、今回は気にしないことにした。アサシンが用事ある時って殆どが殺しに来る時だと思うんだけど。



 取り敢えず何事も無かったので、予定通り家具屋に向かう事にした。

「家具なんだけど、自分の部屋の物は自分で選ぶとして、問題はその他の部屋だよな。」

「俺は別に拘りねーからよ、寝られればいいぜ。俺の分も適当に布団だけ選んどいてくれや。」

 シヴはそう言い残して立ち去ろうとする。

「わかった、飛びっきりのピンクフリフリレースのイチゴちゃん模様のベッドだな?」

「俺も行くわ……、お前らは冗談じゃなく買ってきそうだからな。」

「なんじゃつまらんのう。」

 違う理由で残念そうな顔をする二人。


 宿屋で聞いていたので、家具を扱う店の場所はすぐにわかった。まずは自分の部屋に必要な家具を考えていると、シヴの気持ちが少しわかった。今まで旅しかしてこなかったから、特に欲しい物がないし、家具の良し悪しもよくわからない。

 その点キイは流石で、収納だなんだと色々店員と相談して、好みの装飾の物に躊躇なく売約済みの札を立てさせている。

 シヴは寝具のコーナーで顎に手を当てたまま、一番安いやつをじっと見ていた。


「どうしたのじゃアレン、気に入る物がないのか?」

 キイが不思議そうに聞いて来た。

「好みの物というか、何買ったらいいかわからなくて。俺も寝るところだけあればいいかなって思い始めたよ。」

 そう言ってチラっとシヴを見た。相変わらず微動だにせず先程と同じベッドを見ている。


「今は必要なくても後でどんどんと物は増えてゆくぞ、あの屋敷はおそらく個室も広めじゃ、多少好きに買ってもすべて入るじゃろう。」

 と言ってもなあ……。

「キイは何を買ったんだ?」

「ワシはクローゼットを五つと、テーブル、ベッドに絨毯、カーテン、化粧台、ソファじゃな。」

「他は参考になるけど、クローゼット五個も必要なのか?」

「今までは諦めておったが、ワシも一応乙女じゃからな? 城にある服を持って来たいのじゃ。」

「そっか、そうだよな。」

 百五十歳で乙女があるかよ、という言葉は飲み込んでおいた。まさか家でドレスは着ないだろうけど、いつ戦闘になるかわからない旅の中だと、オシャレもできなかったもんな。


「よし、俺もテーブルとクローゼットは買うよ。今は入れる物も特にないけど、増えて入らなくなったらまた買えばいいよな。」

「そうじゃな。なに、心配せずとも本人にしか価値の分からない【下らない物】が増えていくもんじゃよ。」

「ふ~ん……。そんなもんかな?」

「ところでシヴは何をやっとるんじゃさっきから。」


 キイがそう言うのでシヴに目をやると、一番安いベッドに寝転んでいるおっさんの姿があった。

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