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不死者の町人生活  作者: 旬のからくり
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闘技大会に向かいます③

 途中何度か御者の為の休憩を挟みながらも、予定より少しの遅れで俺達の乗る馬車はティオに辿り着く事が出来た。

 早朝から出発し夜を跨いで、少しずつ空が白み始めているが、シヴはこの距離を俺達の半分の時間で走り抜けた事になる。直線とはいえやはりシヴはおかしい。


「門はあっちだぞ?」

 馬車は商人達だと思われる行列を無視して何処かへ向かっているようだ。

「貴族や要人用の入り口があるのだ、闘技大会の出場者もそちらから優先的に入れる手筈だと聞いている。」

 俺とハバキ、それにローラン以外の三人は夢の中にいる。ハバキは責任感からだろうが、俺は単に寝付けなかっただけだ。ローランは二人の雇い主がどちらも起きているので起きているだけだろう。


「でもナインハルトは乗ってないぞ?」

「それは故意に言っているのだな? 敢えて答えるが貴族が乗っているだろう目の前に……。」

 それもそうか。


 しばらくすると通常の入口より警備の物物しい門が目に入る。馬車はあそこを目指しているらしい。

「では、私は先に降りて入場の手続きをしておきますね。」

「ああ、そうしてくれ。」

 ローランはそう言って、スカートをつまんで馬車から降り、その門に向け駆けて行った。

 ローランの後を少し追った所で馬車は停止する。多分手続きが完了するまではここで待つんだろう。


「大会の受付もここで済ませられる筈なのだが、あの二人はもう着いただろうか。」

 門の方を見ながらハバキが言う。

「どうだろうな、稽古しながらって話だし。」

 ハバキにそう返して、何気なく門と逆の窓の外に目を向けると、遠くの方で何かが時折光っているのが見える。

「お、おい、あれ何だ?」

 ハバキもそぐにそちらを見るが、見間違い等ではなく、やはり何かが時折一瞬光っては消えている。

「うん……? 聞いた事もない現象だな、まるで火花のような……。」

 二人でじっとそれを見つめる。正体を確かめようと、俺達は無言で意識を集中した。


「何だ……? 人影のようなものが……?」

 ハバキが先にそれに気付き、すぐに俺の目もそれを捉えた。

「激しく動いてる人間? かな? 二人いるな。」

 ここまで来ると予想が付く。それはハバキも同じみたいで、少し顔が引きつっていた。


「あれは私には理解できん、アレンはどうだ?」

「俺もちょっと無理だな……。これから予選に出る人間だとは思えないよ。」

 シヴとナインハルトはこちらに走って来ながら、お互いの剣をぶつけ合っている。シヴは知らないがナインハルトは全力で打ち込んでいるんだろう、光の正体は剣と剣が交差した時に飛び散る火花だった。


 門の周辺にいた兵士達も剣を振り回しながら向かって来る二人を警戒して、武器を構えて集まり始めた。

「面倒な事になる気がするのだが……。」

 ハバキは深い溜息をつく。このまま兵士に突っ込みでもしたらと思うと頭が痛いだろうな。とはいえ、流石にシヴもナインハルトもそんな馬鹿な事はしないだろう。……いや、自信なくなってきたな。


「ふふ、ワシに任せるのじゃ。」

「おはようキイ。」

「うむ、よく寝たとは言わんが中々に快適じゃった。」

 いつの間にか起きていたキイはそう言うと、馬車から降りて自分の荷物から折り畳み式の弓を取り出す。それを組み立てると馬車の屋根に登って行った。

「貴公達は本当に滅茶苦茶だな……。」

「そうだな、返す言葉も無いよ。」

 キイが何をするのかは馬車の中からでもわかる。今頃シヴ達に向かって狙いを定めている筈だ。

 ビュンッと風切り音が天井越しに聞こえたのと同時に、キイが俺の目の前に飛び降りて来た。すぐに構えて次の矢を放つ。

「初手はシヴじゃ、全力で撃ち込んだ。少し遅らせてナインハルトにもおまけしておいたが、なんとかするじゃろ。」

 残心のままこちらを見ずに俺達に説明してくれるキイだが、後半はじゃあやらなくても良かったんじゃないかという感想しか出てこない。


 遠目からでも、知っていればシヴだとなんとかわかる距離まで来ていた人影は、咄嗟に剣を横にしてキイの矢を受けた。こちらを見るより先に、ナインハルトに何か指示を出している様子が窺える。

 ナインハルトは正面から飛来する矢を躱すと同時に、剣を打ち下ろした。矢を斬ったのかな?

「まさかとは思うけど、矢じりは付いてないよな?」

「付けておるに決まっておるじゃろう、飛距離が伸びんからの。」

 そうですか。


 二人はこっちに剣を向けて何か話をしていたが、やがて剣を収めると走り始めた。馬車に向かって来ているらしい。

 手続きを終えたローランが警戒して集まっている兵士達に何やら説明をしたようで、兵士達は元の持ち場に戻って行く。その兵士達に深々と頭を下げてから、ローランが馬車に戻ってきた。

「ご苦労だった。見ていたのだな。」

「始終見ていた訳ではありませんが、矢を穿つキイ様と遠くに見えるお二方を考えれば把握は容易です。」

 全く驚いていないし、すっかりローランもうちに慣れ切ってしまったみたいだな。


「許可証もいただいてまいりました。ハバキ様の馬車なので荷物の検めは無いようです。」

「わかった。ではあの二人が合流したら中に入るとしよう。」


 それからしばらくして、機嫌の悪いシヴと疲れた顔をしたナインハルトが馬車に辿り着いたが、当たったらどうするつもりだとシヴが言っても、あれに当たるようならオウルなんか辞めてしまえとキイは一切聞く耳を持たない。しかもそりゃそうだとシヴは納得する始末で、ハバキはますます俺達を変な目で見るようになった。そして、それを見ながらローランは必死で笑いを堪えていた。

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