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不死者の町人生活  作者: 旬のからくり
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闘技大会に向かいます②

 ハバキは怒るどころか、あの速度で向かってくる自分の剣を反撃で斬り飛ばしたのかと驚愕し、感心していた。つまらない。

 俺達を乗せた馬車は走り出し、シヴ達は並走している。

「俺達に合わせる必要はねーからよ、そっちは予定通りに向かってくれ。」

 シヴは出発前にそう言ったが、ハバキもはいそうですかとはいかず、やはり馬車の速度は落としているように感じる。

「どうせ向こうは森を通り抜ける気だろうし、いつまでも並走も出来ないと思うよ。」

 ハバキに一応そう伝えてみたが、黙って頷くだけだ。まあ出来る限りは合わせる気なんだろう。


 馬車の進行方向側にはハバキ、ローラン、トールさんが座り、向かい合わせで俺とキイ、エヌが座っているが、トールさんは早起きして馬と格闘していたせいかすぐに寝てしまった。


「キイ様、スノドは?」

 エヌを膝に乗せたキイにローランが尋ねる。連れて来なかったのか? ではなく、許可は得ているのかという意味だろう。

「ティオの町へ観光に行くからと言って連れて来たのじゃ。ハバキもおるから問題は無いと説き伏せて来た、事実、半分はお祭り観光のようなものじゃしな。」

「楽しみー!」

 エヌは目を輝かせている。頭にはキイの贈った髪飾りが付いているが、エヌなりにしっかり空気を読んだ結果だろうなこれは。


「ココノエさんも元気だったら連れて行ってたのか?」

 ハバキは外に出る時はいつもココノエさんをお供にしている、と以前聞いた事があった気がする。シヴが現れなかったら寝たきり生活にはなっていない筈だ、本来ならここに居たのかもしれない。

「いや、厳密に言えばこれは公務ではないからな。他の地の領主や貴族連中も来る筈なのでと、代わりに視察も兼ねて行くように私に命じたのは紛れもないビーちゃんなんだが……。」

 その実が公務のような物でも、今回は一応私用扱いになっているわけか。で、公務じゃなければココノエさんはお供をさせない、と。


「危なくはないのか?」

「危ない?」

「だって身辺警護も担ってたんだろ、ココノエさんは。」

 シヴの言う事をそのまま信じるなら、ダコタの町で生き延びて来たナインハルトより遥かに強いという事になる。

 ハバキは恨みを買うような人間ではないとは思うが、立場上悪意を向けられる事もあるだろう。そうなった時に、暗殺術にも長けているココノエさんが頼りになるのは間違いない。


「アレン、少し私を見くびり過ぎているのではないか?」

「どういう事?」

 朝から色々あった事をまだ引き摺っているのか、少しハバキの機嫌が悪い。

「ココノエはあくまでも執事だ。もし私の手に負えぬような輩が道を塞げば共闘くらいはするかもしれんが……。」

 ハバキは腕を組む。

「基本手は出さないように厳命してある。」

「そうなのか、じゃあ仮にたった今野盗に囲まれたとしたらどうするんだ?」

 まああり得ないし、あり得ても今ならもれなく外を走ってる暴力の化身に、軒並みぶっ飛ばされるだけなんだけど。

「だから見くびっていると言ってるんだ、元とはいえ王国騎士だぞ? 馬上でなくとも私は強い。」

「まあ師匠がやると殺してしまいますからね、戦っている所を見せるという事はそういう事です。」

 同じ名前でとんでもなく強い爺さんが居るとなると、誰かが嗅ぎつけないとも限らない訳か。ローランとレイラみたいに名前変えれば良かったのに。




 馬車は街道を進み、窓から見えるシヴ達は案の定森の中へと真っ直ぐに消えて行った。森の魔物でも倒しながらナインハルトに剣の指導でもするつもりなんだろう。

「ナインハルトはここに鎧置いて行ってるけど、大丈夫かな?」

 俺とキイとシヴはそういう物を身に付けた事が無いので、本当言えばそこまで心配もしてないんだけど。

「鎧があるからこそ出来る動きという物もある。私もそうだが、ナインハルトもある程度その癖は付いている筈だ、確かに心配だな。」

 シヴはそもそも滅多に傷を負う事はない。大抵攻撃の予備動作を兼ねた動きで避けるし、避けられない攻撃は剣で受ける。俺は痛いのは嫌だけど、死なないので当たってもどうにかなるだろ、って気持ちがいつもどこかにあるのは事実で、それなら身軽な方がいいと思っている。


「動きが阻害されるだけではないのかの?」

 キイは一応革の胸当ては持っているのだが、弓の弦が胸に当たると痛いから付けていただけだ。それでも混戦・乱戦が予め予想できる時くらいしか付けていなかった。


「その鎧はビーちゃんがダコタに支給したもので、王国騎士と同じ物という訳ではないが、作った工房は同じなのだ。部分部分が非常に屈強に作り上げられており、盾を持たぬ場合でもそこで防ぐ事が出来るようになっている。」

 ハバキがそう言いながら前腕を指差すので、ナインハルトの鎧の腕を一本取り出してみる。触っただけじゃ硬さまでは分からないけど、確かに一部だけ素材が違うみたいだ。


「そこ以外にも数か所同じ素材が使われている、肩や背中にな。そこで相手の攻撃をいなすのだが、その癖が付いていると当然、逆にそこの守りは甘くなる。」

「じゃあこの素材で鎧を作ればいいじゃないか。」

 そんなに強度があるんならそう考えるのが当然だろう。

「硬すぎて加工が出来ない。出来たとしても今度は重量が問題になるのだ。だから埋め込むようにあつらえてあるのだ。」

 なるほどなあ。

 特に俺の今後に役に立ちそうな内容ではないが、旅のお供にはまあまあ面白い話だった。



「そういえば、私お弁当を用意してきたんですよ。」

「何!?」

 ローランが弁当を用意したと言うと、ハバキの目が光った。

 ローランは俺とキイの間から馬車の後ろに身を乗り出し、用意したと言う弁当を取り出そうとしている。


「そういえばハバキは知ってるか? 西の山に向かう途中で食べたあの甘いやつの正体。」

 結局あれについてはキイもローランもだんまりを決め込んでいるので、未だ正体が分からずじまいなんだ。

「あれか……。まさかだったな、ローランの作る物だからと何も聞かずに喜んでいい訳ではないと痛感した。」

 ハバキは知ってそうだな。ローランからあの後聞いたのか。

「あれ何だったんだ? 聞いても教えてくれないんだよ。」

「何? アレンは聞いていなかったのか、あれは……」

「じゃじゃーん!」

 もう少しで正体が聞けると言うのに、ローランがそれを遮って弁当を広げる。


「うむ、こういうのも良いの。どうじゃ、馬車の中ではなく外に出て食べんか?」

「食べる! お腹ぺこぺこー!」

 キイが外で食べようと提案し、エヌがすぐに賛成したので反対意見なんか言える筈も無く、仕方なくハバキは御者に馬車を停めさせた。

 一目散に駆けて行くエヌと、それを追うキイとローラン。

 ご丁寧に御者の分も用意された弁当を渡して、トールさんは寝ているから放置。俺とハバキはゆっくりと三人の後を追う。


「いいのか?」

「何がだ?」

「何って、先を急ぎたそうだったからさ。」

 そう言うとハバキは小さな溜息をついた。

「……いいんだ、これまで不憫な暮らしを余儀なくされたあの娘に、あんな無邪気な顔で言われて断れる冷徹な者はあの場に居まいよ。」

 ハバキは諦め半分の笑顔で、はしゃぐエヌを見ている。

「それもそうだな。」


「エヌのあれを治す手立ては見付かったのか?」

 ハバキにはまだ竜草の事は伝えてない。伝えてもいい人間だと思うが、ナギと接触する機会が俺達より多そうなので判断が難しい。あと数日すれば火龍が俺を迎えに来る筈なので、今は誤魔化しておくのがいいかもな。

「治せるって約束は今の所できそうもないんだけど、火龍が調べてくれてて、あれが何なのかはいずれ分かりそうだよ。それが分かれば俺達がどう動けばいいかも定まるんじゃないかな。」

「そうか……。火龍でも知らないというのは残念だが、協力はとりつけてくれたんだな。感謝するぞ。」

 うっ、心苦しい……。

 ハバキにはやっぱり教えてやろうかと言葉が出掛かったが、遠くから俺を見るキイの目が笑っていないのに気付いて飲み込む。地獄耳め……。

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